プロローグ
はじめまして!この度は異世界武勇伝をお読みいただき誠にありがとうございます!皆様に少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「ふう、また勝ってしまった」
それはなんとも異様な光景であった。
「……にしても」
一人の男が、秘境とも呼べるジャングルの奥地で、悠然とある生物を見下ろしている。
「正直がっかりだな」
男はしらけた口調でそのように述べた。その男、野獣のごとき闘気を全身に纏い、背中は湧き上がる入道雲のように広く逞しく、風貌は獰猛な熊を思わせるほど雄々しくて猛々しい。見るからにただならぬ雰囲気の漢であった。
――が、問題はそこではない。
「結局、コイツもてんで大したことはなかったな」
「………………………………」
現在進行形で自分が見下ろしているソレに向かって、男はふてぶてしく言い放つ。その男の声からは、明らかな落胆の色がにじんでいた。
「それにしても……あまりにも弱すぎる」
ぽりぽりと頭を掻きながら、男はつまらなそうにぼやいた。
「ハンター五人を食い殺し、現地住民を恐怖のどん底に陥れた人食い虎だと聞かされていたから、少しは期待していたんだが……」
「…………」
そう。男の足元――否、首元に横たわっている生き物とは、体長四メートルはゆうに超える、超大型のアムールトラである。
「戦闘開始からニ、三十秒ってところか? 」
この男も人間にしてはかなりデカイ。
しかし、それでも彼が現在対峙している人食い虎と呼ばれるソレと比べると、幼児と大人ほどの体格差はあるであろう。
「……………………」
虎はピクリとも動かない。どうやら、この虎は既に絶命しているようだ。だがそれは当然であった。なにせ、その虎の首は180度以上ねじ曲がっており、本来許される脊椎動物の首の可動域を大幅に超えた状態で倒れているのだから。
「……………………」
一切の光が失われた目を半眼にし、地面に横たわる虎。人間の子供ぐらいなら難なく丸呑みできそうな巨大な口からは、大きな舌が無造作に放り出されていた。
「さて」
一方、その虎を見下ろしていた男は、ふと思い立ったように空を仰いだ。
「今度はナニとやろうか」
もう彼の目には、自分の眼前に横たわる人食い虎の骸などまるで映ってはいない。
「この虎よりはいくらかマシなのがいいな」
それは心からの言葉。この世に生を受けてから三十二年、幼き頃から弱肉強食、優勝劣敗の世界に身を置き。これまでに戦った相手は、武術の達人、屈強な軍人、野生の猛獣など数知れず……
「ふぅ、たまには苦戦というやつを体験してみたいもんだ」
されど、公式、非公式ともに、いまだ闘争においての敗北は皆無。つまりは生涯無敗である。
「まあどうせ、何が相手でも結果はいつも変わらんがな」
自他共に認める最強の名を冠する者。
「さあ、次はどいつが相手だ」
この男を知る者達は皆、畏怖の念を込めて彼をこう呼んだ――
史上最強の格闘王・花村天。