あの言葉
★10
何も出来ない、役立たずな自分。
生きているだけの人間。
なら作られた道具の方がまだ使える。
だから“感謝”なんて知らなかった。
そう思ってた。
……シクシク、シクシク
泣いている音が、聞こえた。
探してみれば泣いているのは
しゃがみ込んでいる小さな子供。
でも、その子は泣いていなかった。
頬に涙なんて流れていなかったから。
それでも、聞こえたんだ、泣いてる声が。
あぁ、分かった。泣いているのは
この子のココロだ。
でも、何も出来ない。
何をしていいのか分からなかった。
だから、ただ傍にいたんだ。
隣にいてあげた。
何もできない、何の役にも立たない自分は
こんな事しか出来なかった。
すると、子供が泣き出した。
自分のしたことは間違ったんだろうか。
分からず、そっと頭を撫でれば
「ありがとう……」
頬には涙を落とし、小さな声でそう言った。
何度も、何度も言った。
急にココロが熱くなった。
おかしいな。なんで私まで……?
頬を濡らした雫。
あの言葉が、
ココロを熱くさせるなんて知らなかったよ。
あの言葉で、
涙が落ちるなんて知らなかったよ。
『ありがとう』
その一言であなたは泣いたことがありますか?