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最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない  作者: 花瀬ゆらぎ
第六章 壊れた首飾りが伝える嘘は真実の愛でした
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2

***



 リーゼはかつて自分の部屋だった場所に閉じ込められていた。


 大きなベッドも豪華な細工のチェストも、両親に愛されていた証のように立派なもの。けれど、それをあつらえてもらった本物のリーゼ・ヴァルディエは、リーゼがここへ連れてこられたときには、すでにいなかった。


 リーゼに仕えるメイドたちは、リーゼ・ノイエルが偽物の公爵令嬢だとは夢にも思っていない。ただ不器用で、父親に嫌われている可哀想な娘だと、本気で信じているようだった。


 現に、こうして屋敷に連れ戻され、部屋に閉じ込められても、メイドの誰一人、何があったのか尋ねてこない。アルブレヒトの命令に従って、よそよそしく最低限の彼女の世話をするだけだった。


 リーゼは薪のない暖炉の前で、小さく身体を丸めてうずくまっていた。


 逃げ道はない。アルブレヒトはただの一度も顔を見せないし、外で何が起きているのか情報を得るのは難しい。


 ──ただ一枚の手紙を除いては。


 リーゼは震える指で、手の中で握りしめていた紙を開いた。


『青き騎士、発つ。追い風あり。迎えを待て』


 フィンが運んできた、レナートからの手紙だ。とても丁寧に綴られた筆跡は、リーゼに希望を与える力強さがあった。


 青き騎士とは、青旗を掲げる第一王国騎士団のことだろう。騎士団が動いたとなれば、陛下が許可したということだ。追い風は、陛下の力添えを意味しているのか。


 アルブレヒトが静かなのは、レナートの迅速な対応に苦慮しているからかもしれない。

 それならいい。しかし、心配だった。


『シルヴィオ様に伝えて。私は公爵邸にいると』


 手紙を届けてくれたフィンにそう言い聞かせ、窓から逃がした。部屋に残されたリーゼを案じるように、フィンは何度か戻ってこようとしたが、『行ってっ!』と声をかけると、意を決したように羽ばたいていった。


 あれから数日が経つ。


 リーゼは胸の前で指を組み合わせると、ぎゅっと目を閉じた。


(ああ……どうか、……どうか、シルヴィオ様、ご無事で……)


 強く祈ったそのとき、窓にコツンと何かがぶつかる物音がした。


「……フィン?」


 リーゼがあわてて窓を開けると、灰色の影が胸に飛び込んできた。リーゼはすぐさまショールでフィンを包み込み、冷え切った翼を温めるように抱きしめて、窓の外を覗き込んだ。


「あ……、あれはっ!」


 塀の向こうに、第一王国騎士団の鮮やかな青旗が見えた。その先頭では、白銀よりも輝く銀髪の騎士が、馬上でこちらを見上げている。


 シルヴィオだ。シルヴィオが帰ってきたのだ。


「開けてっ! 誰か、ここを開けてっ!」


 リーゼは扉に駆け寄り、拳が痛くなるほど叩いて叫んだ。


 反応はない。しかし、扉の向こうには人の気配がある。アルブレヒトの怒りを買いたくないメイドたちの、ためらうようなひそひそ声が聞こえてくる。


「開けてちょうだいっ!」


 もう一度叫んだとき、ガチャリと鍵が外され、ジャラジャラと鎖をほどく硬質な音がした。


 扉が開くよりも先に、リーゼは扉を押し開けた。そこに立っていたのは、鎖を握りしめたアルブレヒトだった。


「お、お父さま……」


 アルブレヒトは今にも手につかんだ鎖で鞭打たんばかりの形相で、リーゼをにらみつけていた。


「シルヴィオが召状を運んできた。今すぐ出かける準備をしろ」

「出かけるって、どこへ……」

「王城に決まっておろうっ。陛下がおまえも連れてくるよう命じたのだ」

「陛下が、私を?」


 本物のリーゼ・ヴァルディエでないことが、知られたのだろうか。


 部屋から出られても、まだ助かったとは言い切れない。手のひらにじわりと浮かぶ嫌な汗を握りしめると、アルブレヒトが鼻を鳴らす。


「……レナートの言い分ばかりに耳を傾ける愚王めがっ」


 そのまま彼は鎖を床に叩きつけると、そわそわと取り囲むメイドたちを蹴散らすようにして階段を降りていく。


 リーゼもフィンを抱えたまま、アルブレヒトのあとを追った。階段を上がってくるシルヴィオの姿が見えたからだ。


「リーゼッ!」


 階段の中ほどで、アルブレヒトとシルヴィオがすれ違う。


 アルブレヒトは忌々しげに舌打ちをしたが、シルヴィオは一瞥(いちべつ)もくれず、真っ直ぐにリーゼの元へと駆け寄ってきた。


「シルヴィオ様っ!」


 リーゼが腕を伸ばすと、フィンは飛び立ち、シルヴィオの肩に乗る。そのまま彼女は長い腕に抱きすくめられた。


「……こんなに冷えて」

「シルヴィオ様こそ」


 凍りそうなほど冷たい胸当ての感触に胸が痛む。暖のない部屋で過ごすことなんてささいなことだ。

 リーゼは必死に彼のぬくもりを探そうと、背中に手を回して抱きしめ返す。


「ご無事で……」

「当たり前だ。信じて待てと言っただろう」

「でも……」


 うっすらと涙の浮かぶリーゼの目尻を、シルヴィオは親指でこすると、柔らかに微笑んだ。


「泣くな。……リーゼに会わせたい男がいるんだ」

「……会わせたいって、もしかして」


(リヒト?)


 リーゼがまばたきをすると、彼は力強くうなずいた。


「すぐに会わせてやりたいが、その前に王城へ向かおう。騎士団を動かしたのだ。陛下に真実をすべて、包み隠さずお話しなければならない」

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