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最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない  作者: 花瀬ゆらぎ
第四章 秘密の裏切りはあなたへの愛でした
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 ヴァルディエ公爵邸から戻ったリーゼは、心身ともに疲れ果てていた。

 それでも、シルヴィオが帰宅するまでは起きていようと、暖炉の前で椅子にもたれたまま、すっかり暗くなった窓の外を眺めていた。


「奥様、お着替えをなさいましょう。顔色が優れませんわ」


 ナイトドレスを片手に心配そうにするエルナに促され、リーゼは渋々立ち上がると、どこかギシギシと痛む身体を引きずるようにしてドレッサーの前へ移動した。


 鏡に映る自分の顔を見て驚いた。目が落ちくぼんで、悲壮感が漂っている。これでは、エルナも心配するわけだ。


「シルヴィオ様はまだお帰りにならないの?」

「ブラッツ公爵様との食事会が長引いているのだとか」

「まだレナート様のお屋敷なのね……」


 半年ぶりの帰還とあれば、積もる話もあるだろう。しかし、リーゼは落ち着かなかった。

 アルブレヒトの懸念が正しければ、リーゼの正体にレナートが気づいている可能性があったからだ。


 後ろに回り込むエルナが、背中のひもを解く。ドレスを脱がそうとした瞬間、彼女は息を飲むような悲鳴をあげた。


「お、奥様っ……!」


 彼女の目は見開かれ、リーゼの背中に釘付けになっている。


「何か……」


 リーゼは身をよじり、鏡に映るその姿を見て、ハッと息をのんだ。


 白く滑らかな肌の真ん中に、赤黒いあざがあった。アルブレヒトに杖で打たれたときにできたものだろう。

 こうして眺めていると、シルヴィオが綺麗だと言ってくれた肌が失われたようで、惨めさが込み上げてくる。


「なぜ、このようなことに……。すぐに薬を……っ」


 あわてて部屋を飛び出していこうとするエルナを、リーゼは落ち着いて引き止める。


「いいの、エルナ。大したことないわ」

「ですが、奥様っ!」


 理解しがたいような表情で、エルナが悲痛に叫んだ瞬間、窓の外が騒がしくなった。


 馬のいななきに、使用人たちの話し声。にわかに階下が活気付いたようにあわただしくなる。


「シルヴィオ様だわ」


 リーゼは素早くエルナの手からナイトドレスをひったくると、頭からかぶった。

 ふわりとした布地が、痛々しいあざを覆い隠す。それでも安心できず、リーゼはエルナの手を強く握りしめ、真剣な眼差しで懇願した。


「このことは、シルヴィオ様に言わないで。……余計な心配はかけたくないの」

「奥様……」

「お願いよ、エルナ」


 じっと見つめると、エルナは戸惑いをあらわに瞳を揺らしたが、とうとう小さくうなずいた。


「……承知いたしました。でも奥様、お薬だけはご用意させてください」

「ええ、わかったわ」


 リーゼがうなずき返したとき、寝室のドアが開き、シルヴィオが姿を見せた。

 一礼して部屋を出ていくエルナを見送った彼は、腰から外した剣を壁の留め具にかけて、少々困ったような顔を見せた。


「まだ起きていたのか。先に寝ているよう、連絡すべきだったな」

「私が待ちたいとわがままを言ったんです……」


 シルヴィオの視線が胸元で止まる。わずかに気まずいような顔を見せるから、リーゼは不思議に思いながら鏡を見た。

 まだ結ばれていなかった胸元のリボンに気づき、あわてて結び直す。そうするうちにシルヴィオが背中に腕を回して抱き寄せてきた。


「ヴァルディエ公爵閣下はお元気であられたか?」

「……は、はい。シルヴィオ様の無事の帰還をとても喜んでおりました」


 嘘をついてしまう自分を情けなく思いつつ、いつか嘘がばれてしまうのではないかと心配で、胸が早鐘を打つ。

 その拍動が伝わってしまうのではないか。居心地の悪い気持ちになりながら、黙ったままのシルヴィオを見上げると、彼は小さな息をついた。


「今夜も冷える。先にベッドに入っていろ」

「……はい」


 リーゼは言われるままに、すぐにベッドの中へもぐり込んだ。

 シルヴィオは上着にズボン、ブーツを次々と脱ぎ、シャツ一枚になると、ためらいもなく隣へ横たわり、リーゼの胸元のリボンを軽くつまんだ。

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