忘れない
季節は秋に差し掛かっていた。
今日は私にとって特別な日。
私の16歳の誕生日だ。
昨日、兄が仕事から帰ると、連れていきたい場所があるから明日一緒に行かないかと言われた。
詳しいことは着いてからのお楽しみだと言われ、私は兄に付いていくことにした。
朝食を済ませ、支度をし兄と私は家を出た。
小休憩を挟みながら歩くこと3時間が経ち、兄が足を止めた。
すると、少し風が吹き微かに花の香りがして、私は気がついた。
私が知っている…私が好きな花の香りがしたのだ。
「この花の香り…もしかして!?」
「ははっ、やっぱシオンにはわかるか!ここはな、お前が好きなシオンの花が咲いている花畑だよ」
「ここが…」
私がまだ幼い頃、兄に話したことがあった。
『どこかにシオンの花が沢山咲いているところがあったらいつか行ってみたいなぁ』
『きっとあるさ!兄ちゃんが見つけて連れてってやるよ!』
『ほんと!楽しみだなぁ!』
あれから兄さんは、私のために…。
「兄さんは、この場所をどうやって…?」
「まぁその…色んな人に聞いて回ったんだよ。時間は結構掛かっちまったけどな」
兄さんは連れてくるのが遅くなってごめんなと言ってくれたが、兄は今日まで私のために、この場所を探してくれていたことが嬉しかった。
「シオン、最近なんだか元気がなさそうだったからさ、誕生日プレゼントにってのもそうなんだけど、一番はシオンに元気になってほしくてさ…」
『そうか、兄さんは気づいていたんだ…』
私は普段通りにしていたつもりだったが、兄さんにはお見通しだったらしい。
「シオン、やっぱり…こんなとこじゃなくて他のところが良かったかな!?もっとおしゃれで…あぁこんなことならリーシャかメルシルに聞いとけば…」
兄さんは私が俯いていたのを見てガッカリさせてしまったと思ったらしく、困っているようだった。
だが私は、兄さんが私の為を思って連れてきてくれたことが、何よりも嬉しかった。
「兄さん」
「ん?」
「ありがとう。兄さん…私ね、16歳になったよ」
私は、沢山もらってばかりだ。沢山してもらってばかりだ。心配をかけてばかりだ。
目が見えないせいで…周りの人を困らせて。
兄に…沢山苦労を掛けて…。
だから私は、目が見えるようになったら沢山のものを返していきたい。
「あのね兄さん、私ね、また新しい夢ができたわ」
「新しい夢?」
「えぇ、でもそれはまだ兄さんには内緒。目が見えるようになったら、またここへ一緒に来ましょうね、兄さん!」
兄さん…私ね、兄さんがいてくれたから、毎日がとても幸せなんだよ。
あなたが側にいてくれるから、私は今日という日を迎えられているんだよ。
私は、今日のことを一生忘れないだろう。