魔女の来訪
リーシャが家に来た翌日、私は気分転換に外へ出てみようと思い、私は家の外にあるベンチに座り、本を開いた。
外は暖かく、小鳥のさえずりが聞こえる。
風が少し吹いていて心地の良い日だ。
「あ、そうだわ…!」
今朝兄さんが作ってくれた昼食を思い出し、せっかくなら外で食べようと、私は家に戻り昼食を持ってこようとベンチから立ち上がろうとしたその時、どこからか声が聞こえた。
「おぬしがシオンか」
その声は幼く子供のようだった。だが普通の子とはどこか少し違う感じがした。
「はい、私がシオンですが、私に何か御用でしょうか」
「わしの名はリズという。おぬしの兄とは知り合いでな。まぁしがない魔女さ、ちとおぬしと話がしとうて来てみたのじゃ」
「わたしと話、ですか?」
『魔女』、昔読んでいた本に出てきた登場人物で、おとぎ話の世界に存在する人物だと思っていた。
その魔女が本当に実在していたことに私は少し驚いた。
普通なら疑うのだろう。だが彼女の話し方や雰囲気で私は納得した。
隣に座ってもいいかと聞かれ、私はどうぞと横へ少し移動した。
「おぬしはここで兄と暮らしておるのか」
「はい、兄とは2人暮らしです。私が産まれてすぐ親が亡くなり、それから兄は親代わりとして私を育ててくれました」
「そうか、それは良い兄を持ったな。じゃがあやつ、わしを見てなんと言ったからわかるか。『こちらのお嬢様は?』などと言ってきおってな、まったく…無礼にも程があるとは思わんか!」
「ふふっ、それはきっとリズ様が可愛らしい方だと思ったからだと思いますよ」
「か、、、可愛らしいじゃと!わしがか!」
少し動揺し照れているご様子のリズ様は、私はとても可愛らしいと思った。
「コホン…ところでシオンよ、普段おぬしは何をして過ごしておるのだ?」
「私は普段本を読んだり、たまに友人が家に来てくれて一緒にお話をしたりしていますね」
「そうか、わしは目が見えるようになってからは、ただ只管魔法の勉強をしておったわ」
(目が見えるようになってから…)
それはまるで、昔は私のように目が見えなかったと言っているかのようだった。
「リズ様は昔…目が見えなかったのですか?」
「あぁ、わしの目が見えるようになったのは、あの方と会ってからじゃ」
「あの方…?」
「その方はわしのお師匠様で、名は《ローズ・マリシエル》と言ってな、優秀な魔女様で、世界からも知られる程の魔女だったんじゃよ」
『 ローズ・マリシエル…! 』
私はその名前を知っていた。昔読んでいた本に出てきた魔女の名前と同じだったのだ。
「お師匠様は魔法でわしの目を治してくれてな。それだけでなく家族から捨てられ身寄りのないわしを育て愛してくださった。まぁ、魔法を教わる時だけは厳しい時もあったがのぉ」
リズ様は懐かしいなとクスッと笑った。
昔の話をするリズ様はとても楽しそうで、その時のリズ様は、まるで子供のようだった。
「じゃが、唯一、目が見えるようになる魔法だけは教えては下さらなかった…」
「それは、どうしてですか?」
「その頃はわからなかったが、今なら少しわかる気がするのぉ…」
リズ様はそれから、500年前にあった魔女同士の争いがあり、その争いを止めようとしたお師匠様が亡くなられたことを話してくださった。
「すまぬなシオンよ…つまらぬ話をしてしまったな」
「いえ、私は普段本を読むこと以外暇を持て余す身ですので、お気にならさないでください」
「そうか、優しいのじゃなシオンは。そうじゃシオン、おぬし花には興味はあるか?」
「花ですか?そうですね、花の香りがすごく好きで、もし叶うのならいつか見てみたいと思っています。兄と一緒に行ってみたい場所もあるんです!」
「…そうか、それでなシオ…」
『 ぐぅ〜…』
リズ様のお腹が鳴る音が聞こえ、私は兄が作ってくれた昼食を持ってこようとしたが、リズ様が急いで家まで行き取りに行ってくれた。
「ふむ。あやつにしてはなかなかじゃな!ま、まぁメルシルには敵わないがな」
「ふふっ、気に入っていただけたようで何よりです」
昼食をリズ様とベンチに座って食べ、その後もリズ様とたわいのない話で楽しんだ。
しばらくして、リズ様は眠くなってしまったのか、私の肩に顔を乗せ寝てしまった。
『妹がいたら、きっとこんな感じだったのかな…』