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願いと代償 (後編)



リズ様は数々の国へ赴き、ナクルの人々を救ってきたそうだ。500年という長きに亘り魔法の研究をし実験を重ね、2年前に完成させたそうだ。

隣に座っているリズ様は、メルシルから出されたミルクを1口呑み、ほっと息を吐いた。



「おぬしの妹がナクルなのであれば、わしが治してやろう」


「ほ、本当ですか…!?」


(そうか、シオンの目が…)



--10年前--


『おにぃ、本に書いてある『色』ってどんななの?』

『ん〜、なんて言えばいいのかな?』

『しおんのお花にも『色』はあるの?』

『あぁ!凄く綺麗なんだよ』

『そうなんだ!わたしもいつか見てみたいなぁ!』

『あぁ…そうだな!いつか一緒に見に行こうな!』



昔の事を思い出し目頭が熱くなり、俺は泣きそうになるのを必死に堪えた。

メルシルはそんな俺を見て『良かったわね』と言っているかのように微笑んでいた。




「あ…あの、リズ様、1つお聞きしたいことが…」


「はぁ…、もしや金のことじゃな、それなら心配するでない」


「リズは国から依頼されて来ているの。だからナクルの治療費に関しては国が出してくれるから安心して大丈夫よ」


「そ、そうなのか…」


「わしからも1つ聞きたいことがある。おぬし、妹とは血の繋がりはあるのか」


「いえ、妹と俺は実の兄妹ではありません…。妹にはまだ伝えてはいませんが」




そう言うと、リズ様の表情が少し気遣わしげな表情に見えた。




「そうか…この魔法は、ナクルとその『血縁者』、つまり血の繋がりがある者が揃って成り立つ魔法なんじゃ。じゃが、おぬしの様な血縁者でなくとも使えんこともないが…勧めはせん」


「勧めないとは、どういうことですか?」


「代償を伴うからじゃ」


「代償…ですか」




ナクルと血縁者で魔法を使う場合、リズ様が魔法を唱え終える頃には無事目が見えるようになっているそうだ。

だが『非血縁者』が行う場合、ナクルは目が見えるようになるが、非血縁者との記憶はなくなり、存在自体も見えなくなる。

血縁者同士でないと、ナクルと非血縁者にとって代償がとても大きいのだ。




「おぬしの妹は、おぬしと過ごしてきた記憶全てを失うことになる。そしておぬしの存在自体も妹からは見えなくなる」


「それが代償…ですか」


「まぁわしはおぬしの事情など知ったことではないがのぉ」




そうリズ様に言われたが、よく考えて決めろと言われているように感じた。だが俺には考える『時間』も『必要』も要らなかった。




「それでシオンの目が見えるようになるのでしたら、俺は構いません」




俺はリズ様に笑顔で応えると、メルシルが不安そうな顔をして俺のところまで駆け寄り、両手で俺の肩を掴んだ。




「アグレ…いいのそれで!もうシオンちゃんとは、もう…会えなくなるのよ、それでも…!」




今にも泣き出しそうな顔で俺の顔を見て必死に訴えかけてきたメルシルの手は震えていた。

さすがにメルシルも、これについては知らなかったようだった。

俺はメルシルの震えている手を優しく掴み、

『大丈夫だよ、ははっ、そんな顔しないでよ』

とメルシルの頭を優しく撫でた。




「よいのだな…本当に」


「俺の意思は変わりません。シオンの目が見えるようになるのなら」




もちろん、不安がない訳ではない

シオンと二度と会えなくなるどころか、俺と過ごした記憶も失ってしまうのだから…

だがこの機会を逃してしまったら、俺は一生後悔するだろう。


シオンは小さい頃からよく言っていた。

『色』を見てみたいと。

シオンには、本に載っている情報よりも、自分の目で世界を見てほしい。

夢だった『色』を見てほしい。

俺はずっと願っていたんだ、こんな日を。



俺は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。



「リズ様、お願いします。妹を、シオンを治してあげてください」




俺はミルシュを出ると、自分の店に戻り明日の準備と片付けを済ませた。



家に帰る道中、道端で『シオン』の花を見つけ、シオンへ持って帰ろうと思った。



俺はシオンと過ごしてきた思い出が蘇ってきた。


「昔のシオンは寂しがり屋で、よく一緒に寝てたっけなぁ、そうそう、あの時は…」



その時俺は、リズ様の言葉を思い出した。


『 おぬしの妹は、おぬしと過ごしてきた記憶全てを失うことになる。そしておぬしの存在自体も妹からは見えなくなる』


      『『よいのだな…本当に』』


「……」

『シオンは1人でもやっていけるだろうか』

『俺が居なくても大丈夫だろうか』

『1人は……寂しくないだろうか』



そう思う度、視界がぼやけてきた…。

さっきまでは嬉しかったはずなのに、今になって寂しいと思ってしまっている自分がいる。



 『 ダサすぎだろ、俺… 』



帰ったら普段通り話して、普段通り食事をして、普段通り…そう、普段通りの俺でいよう。



家の前に着くと、俺は深く深呼吸をした。



いつもみたいに疲れた様子は見せないよう元気に扉を開け、シオンの居る部屋まで行こう。



シオンにとってこれは朗報なのだから、急いで帰ってきたと思わせてびっくりさせてやろう。

まぁ、いつものことなのだが、今日は特に意識してしまう。



シオンの部屋の扉を開けると、窓際にある椅子にシオンは座っていた。




「ただいま、シオン」




これでいいんだ、これで…いいんだ。

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