ダイエット 4
ネットという媒体ゆえか、《フェネックスライドショー ~~麗しい場所に来てみた~》は、陽和美だけでなく多くの人々の心に届いたようだった。
《皆さん、いい笑顔ですね!》
《ストレッチだけでも、私も始めてみようかな》
《I love these places & everyone's smile! Where is this?》
コメント欄にはそんな言葉が踊り、さらにはJKフェネック以上の登録者数を持つ他の有名配信者たちが、すぐさま取り上げ紹介してくれたのだ。
《マッスル遠井さん、超楽しそう!》
《てことはここ、彼のラーメン屋さんがあるかわせみ町?》
《私、何年か前、遊びに行ったよ! お魚が美味しかった!》
といった感じで、ネット民たちはあっという間に場所も特定(徹はそれも狙ったのだろう)、すると必然的に町長の度重なる不祥事や、そのために今現在選挙が行われているという情報が合わせて拡散されていく。もちろん住谷の掲げるばらまき政策が、どれだけおかしな内容なのかという指摘も。
結果、選挙運動期間のラスト二日だけながらも《かわせみ町を守ろうぜ》《問題児町長を再選させて、〝麗しの町〟を壊しちゃいかんだろ》という声が、内外で一気に増加していった。かつて陽和美が酷い目に遭った短文投稿サイト『ブルーバード』では、《かわせみ町》に《麗しの町》、《問題児町長》と三つものキーワードが同時にトレンド入りし、テレビのニュースやワイドショーでも取り上げられたほどだ。住谷有利かと思われた選挙戦の風向きは、一夜にしてまったく違うものへと変化したのである。
こうなればいかにアナログ世代とはいえ、高齢者たちもさすがに状況と真実を知ることができる。翌日以降、陽和美も町内でばったり合ったおじいさんやおばあさんから、
「孫に教わったんだけどさ……なんか悪かったな、陽和美ちゃん。あんときゃ、聞く耳持たねえような態度取っちまって」
「たしか陽和美ちゃんも似たような話、してくれてたわよね。ごめんね」
などと言ってもらえる機会が何度もあった。
「いえいえ。自分の体験も踏まえて、ほんのちょっぴりアドバイスさせてもらっただけです。むしろ偉そうになっちゃって失礼しました」
そのたびに陽和美は、笑顔で首を振ってみせた。
最後に必ず軽やかにつけ加えて。
「私も、かわせみが好きですから」
《続々々・〝麗しの町〟はどこへ ~新たなる船出~》
度重なる町長の不祥事と、それにともなう新町長選挙。当ニュースサイトでも重ねて伝えてきた神奈川県西相模郡かわせみ町の混乱が、このほどようやく一段落した。
約六千人の有権者から選ばれたのは、新人の神代倫子氏(六十一歳)。
町内在住の元教員で、子どもたちに読み聞かせのボランティア活動なども行っていた神代氏は、高齢を理由に「楽隠居中」(本人談)だったものの、町の現状に目をつぶっていられず一念発起。みずから辞職したにもかかわらず、ばらまき政策を掲げて再立候補した前職の住谷喜久夫氏を大差で破り、多くの期待を背負って新町長に選出された。
「役場にも、お世話になった方々がたくさんいます。行政のプロたる職員の皆さんと手を携え、私自身も町のなんでも屋でいられるよう心がけながら、今一度、自治体としての信頼を取り戻すべくコツコツと積み重ねていきたいです」
穏やかな笑顔で所信を表明する「神代先生」を慕う町民や教え子は、かわせみ町内にも数多いという。
何を隠そう、筆者も取材で通ううちすっかり気に入ってしまった〝麗しの町〟。有名動画配信者たちもその美しさを称える港町の再出発を、ここからは純粋に応援したい。
(牛山田咲恵:フリージャーナリスト)




