レコーディング 5
「はい、お電話かわりました、町民支援課の天川と申します」
「そうですね。トオイ商店さんは基本、行列ができていますから、お時間にはかなり余裕を持っていらっしゃった方がよろしいかと思います」
「七ツ岩まで歩いて五分ほどの場所に、県営の無料駐車場がございます。有料でも構わなければ、七ツ岩海岸のほぼ目の前に、お土産物などを販売している『かわせみパレス』さんの駐車場も――」
一週間後。陽和美たち支援課の面々は、なぜか電話対応に追われる事態となっていた。ただ一人受話器を取っていない竹山も、パソコンのモニターと睨めっこしながらマウスを何度も操作したり、キーボードを素早く叩いたりで忙しくしている。
ただし、全員がどこか楽しげでもあった。
「観光課じゃ捌ききれないって、結構な反響よね」
「そりゃ、こんなにいい写真が何枚もですから。しかもありがたいことに、コメントも温かいものばかりです」
「よかったですね。メグちゃんに、あらためてお礼のメッセージを送らなきゃ」
ようやく電話が途切れたタイミングで、杉下と竹山、そして陽和美は笑みを交わし合った。最後に通話を終えた平も、「特別広報大使に任命させてもらいたいぐらいだよなあ」と同じく明るい表情で加わってくる。
陽和美が語った通り、じつは愛のお陰でここ数日、かわせみ町に観光目的の問い合わせが増えているのだった。理由は陽和美が投稿したフォトグラムにある。
アンと電話したあの晩、愛からさっそく届いた丁寧なメール。そこに素晴らしい写真がいくつも添付されていたのだ。
《陽和美さん
こんばんは。大仲愛です。今回のボーイズ&ガールズ応援プロジェクトでは、どうもありがとうございました。陽和美さんと徹先生が案内してくれたお陰で、とっても楽しくて充実した五日間になりました。町の子と喧嘩しちゃったときも(ごめんなさい!)きちんと事情を説明して私を守ってくれて、めちゃくちゃ嬉しかったです。
陽和美さんは、アンお姉ちゃんから聞いていた通りの素敵なお姉さんだったから、本当はもっともっとお話したかったです。けど、私は口下手だしクーデレなところがあるので……。
上手に話せないかわりに、お礼の気持ちとして撮影した写真を送ります。フォトグラとかで自由に使ってください。私も大好きになったかわせみ町のいろんな風景が、少しでも綺麗に撮れてるといいな。
陽和美さん、とってもとってもありがとう。また必ずかわせみに行くので、これからも仲良くしてください! 大仲愛》
愛らしいしっかりした、けれども年相応に可愛らしい文面を読んだ陽和美は、「自分でクーデレって……」と微笑みつつ、パソコンのモニターを抱き締めたくなったものである。書き添えてあったメッセージアプリのIDと自分のそれも、すぐさま交換させてもらっている。
そうしてお言葉に甘える形で、もらった写真をいくつかフォトグラにアップしたところ(もちろん《#かわせみ町 #夏休みボーイズ&ガールズ応援プロジェクト #ボガプロ #ご参加の中学生が撮影》といったハッシュタグや、コメントを添えてだ)、どれも好評で、あっという間に万を超えるほどの《いいね》がついたのだった。
なかでも最終日の朝に撮り直した列車の写真は、撮り鉄の人々に言わせれば、
《奇跡の一枚!》
《おおおお! 黄緑の19Dコンテナ、キター!》
《日本に五十台しかないコンテナの生走行を見れたんですね! しかも超いい写真!》
だとかで、かなりレアな車両が写っていたらしい。専門的な知識こそ皆無な陽和美たちだが、夏の朝日を浴びてトンネルから走り出る貨物列車の写真が、芸術的観点からも素晴らしいのはたしかによくわかった。
結果、その撮り鉄の人々を中心に「かわせみ町は、なかなかよさげな観光地のようだ」という情報が広まり、メールや電話での問い合わせが一時的に増加中というわけである。
「メグちゃんにメッセしてみます」
仲間たちに断ってから、陽和美はスマートフォンを取り出した。厳密にはプライベートでの連絡かもしれないが、課長の平もむしろ「うん、頼むね」と頷いてくれているので、これくらいはいいだろう。
《こんにちは、メグちゃん。もうフォトグラをチェックしてくれたかもしれないけど、メグちゃんからもらった写真、お陰様で大好評です! 町へ観光に来たいっていう問い合わせも増えてて、私たち役場職員も嬉しい悲鳴を上げてるよ(うちの課長なんて、メグちゃんに特別広報大使になってもらいたいぐらい、なんて言っちゃってるし)。こちらこそ本当にありがとう。今度はアンさんも一緒に、またみんなで遊ぼうね!》
送信した陽和美は「そうだ!」と、もう一つ大切なことを思い出した。
《重ねてごめん! あと、私個人としてもお礼を言わせて欲しいの。じつはメグちゃんのお陰で、ちょっぴり体重が減ったんだ 笑。何をやっても「もどき」な私だけど、メグちゃんからの夏のボーナスみたいで、とっても幸せです。こっちもありがとう!》
夏休み期間だからか、すぐに読まれたようだ。五秒と待たずに既読マークがついた。さらに自称「クーデレ」な女の子に相応しい、まさにそんな性格をした『名刀メンズ』のキャラを描いたスタンプと、続けてコメントも返ってくる。
《もどき? バッタもんとか、よく似た別物とかって意味のあれですか?》
《そう、よく似たあれ!》
答える陽和美の脳裏に、スマートフォンの前で小首を傾げる愛の姿が浮かんだ。黒目がちのつぶらな瞳は、やはり美しい叔母を少しだけ彷彿とさせる。
《詳しくは次回、会ったときに教えてあげるね》
《はい! 楽しみにしてます!》
返信の素早さから、彼女が喜んでくれていることが伝わってくる。しかも、
《私は『陽和美さんもどき』になりたいなあ》
などという、踊り出したくなるような追伸つきで。
「うわあ! メグちゃん大好き! 結婚しよう! よし、お姉さんがさらいに行っちゃう!」
なんとなく内容を察したのだろう。犯罪者めいた宣言をする陽和美を、仲間たちが苦笑とともに見つめていた。




