第1話、戻りし異世界
織原ナツメ
38歳でトウマの父である
筋肉隆々な体格で、その身体を生かして鳶職の仕事をしている
見た目とは裏腹に軽快な動きを見せるため、現場では皆から信頼を得ている
そんな彼には秘密があった
彼は異世界出身だったのだ
異世界「メルゼナ」
魔力に満ちた自然あふれる世界で、生態系も地球とは異なる生物も多い
人間を襲う魔物も多数生息しており、中には地図を書き換えてしまうほどの災害級の魔物もいる
その魔物を統べる存在が魔族である
長きにわたり、魔族は人間は対立していた
そんな時、人間側に一人の勇者が現れた
それがナツメであった
メルゼアの東に位置する国「クロガネ」という所で彼は生まれた
剣の才能に恵まれ、そして冒険者となった
旅をしていき、魔族に苦しめられる人々を見て
「俺が魔王を倒す、そして平和な世の中を作る!」
そう心に誓った
数年後、ナツメはついに魔王の元にたどり着いた
「こいつが、魔王...だと...」
『ここまできたか、勇者よ...これで終われるのだな...』
魔王に対峙したナツメは困惑した
ナツメにとっては悪の根源でもある魔王は、恐ろしく禍々しく、まさに恐怖というものが具現化していると想像していたからだ
しかし目の前にいる魔王は全然違った
角や尻尾こそ生えてはいるものの、見た目は人間に近い
そして、絶世の美女だったのだ
ナツメはひどく困惑した
しかし気になる事があった
「(これで終われる...?どういう事だ?)」
「(そして...なんだその全てを諦めたかのような目は...)」
倒さなければいけない宿敵。だが、ナツメは剣を抜けなかった
「俺の名はナツメ...魔王よ、お前の名はなんだ?」
『…メルフィナ。魔王メルフィナだ』
そしてナツメはこう言った
「少し話がしたい...」
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「…ツメ?ナツメったら!」
トウマの呼びかけに、ナツメはハッと我に返った
「わるいわるい、ちょっとびっくりしてだな...」
「大丈夫?僕もびっくりだよ、まさか異世界に来ちゃうなんて」
動揺が隠し切れないナツメに対し、トウマは少し高揚しているようにそう言った
「コホン、理解できぬのも致し方ない。少し説明させてもらうぞ」
シュガルディンの王、シュガル3世は静かに語りだした
「ここはメルゼナという世界である。人間だけでなく、エルフやドワーフ、精霊なども存在する世界じゃ」
「平和な時がながれておったのじゃが、遥か昔には戦争もあってじゃな...」
「魔族との戦争じゃ」
「魔族は世界を支配しようとしていたのじゃ。その世界に平和を取り戻そうと一人の勇者が現れた。その勇者のおかげで、世界は平和となったのじゃ」
「その平和な時間も終わりを告げたんじゃ。160年ほど前に、あらたな魔王が名乗りを上げたのじゃ。その名は『魔王メルディオ』メルディオは再び人間界に攻め込んできたのじゃ...」
「メルディオ!?ってか160年前!?」
王の話を遮ってナツメはそう叫んだ
「(メルフィナはどうなったんだ?ていうか160年だと!?世界の時間経過が違うってのか?)」
ナツメとトウマは日本で過ごしていた時間は16年であった
どうやら異世界の時間は地球の10倍だったということだ
「う、うむ。現在名乗りを上げている魔王はメルディオじゃ。そしておぬし達にはメルディオを倒し、再び世界に平和をもたらしてほしいのじゃ」
王の懇願にまだ困惑の表情を浮かべるナツメに対し、トウマは少し楽しんでいるかのような無邪気な顔を見せていた
「うわっ!まさに異世界転生な展開だ♪」
トウマは日本では学校を休みがちだった
その為、家ではもっぱらアニメや漫画にハマっていた。中でもお気に入りだったのが「異世界転生」ものだった
憧れのシチュエーションを目の前にして、高揚を抑えられていないようだ
「ねぇナツメ、王様も困ってるみたいだし助けてあげようよ!」
「おいおい、ここは日本じゃねぇんだぞ!?そんな簡単に、ハイ!やります!とか...」
「大丈夫だよ!きっとスキルとかチートとかあるよ!」
「(うっ...たしかにココにはスキルは存在するが...てかなんで知ってんだよ...)」
別世界の仕組みをなぜか理解してしまうトウマに、ナツメは言葉を詰まらせた
「ともかく、まずはおぬし等のステータスを確認させてくれ」
「この水晶に手をかざすのじゃ。さすればおぬし等のステータスが確認できる」
王がそう言い終わると、従者がテキパキと支度を始めた
神聖な台座の上にひとつの水晶が置かれた
トウマは意気揚々とその水晶に手をかざした
すると、水晶が激しく光り、その後文字が浮かび上がってきた
『
【織原トウマ】 称号:召喚者
体力4000(C) 魔力7500(A)
スタミナ450(C) 筋力420(C) 耐久力400(C)
敏捷性690(B+) 技術力810(A+)
スキル
不屈 覚醒
魔力操作Lv1 状態異常無効
』
おおお、一般の民だとせいぜいDランクなのに...
ユニークスキルが2つもあるだって!?これが召喚者...
トウマのステータスを見て、周りの従者たちがどよめいていた
王も驚嘆の表情を浮かべている
「さあ、では次はお主じゃ!」
王に急かされ、ふぅと大きく息をついたナツメも静かに水晶に手をかざした
『
【織原ナツメ】 称号:帰還者
体力8800(A+) 魔力4200(C)
スタミナ790(A) 筋力820(A+) 耐久力780(A)
敏捷性650(B+) 技術力410(C)
スキル
限界突破
東洋剣術Lv3 西洋剣術Lv7 火属性攻撃Lv7
状態異常耐性Lv5
』
「すご...筋肉おばけだ...」
トウマは浮かび上がった数値を見て呟いた
「(でも、ナツメ剣術スキル持ってるの?剣道でもやってたのかな?)」
「(それにあの称号...どういうこと?)」
怪訝な表情を浮かべるトウマに気付いたナツメは、トウマの耳元でそっとささやいた
「とりあえず、外出たら説明する」
トウマはそれを聞き、静かに頷いた
ナツメはトウマのステータスを確認して少しホッとした様子だった
そして王にこう言った
「とりあえず話は大体わかった!この世界もわからんことが多々ある!ので、ひとまず旅に出させてくれ!」
「そこで色々知りながら、あんたらの希望を叶えたいと思う!それでいいか?」
「おお!召喚されし者たちよ!礼を言う!では身支度と路銀を用意させよう!たのんじゃぞ!」
ナツメは160年の間に何があったのか調べるために
トウマは憧れの異世界を楽しむために
お互い別々な目的ではあるが、こうして織原親子による異世界冒険譚が始まるのであった