0話 プロローグ
「トウマアァァァ!!!起きろおぉぉぉ!!!」
時刻は午前6時。
秋も深まり、肌寒くなってきた季節では、まだ太陽が顔を出したかどうかわからないくらいの薄暗い朝だった。
大声で叫んだその男は180cmはあるだろうか。体格も筋肉隆々かつ引き締まった見事な体躯である。
その立派な身体が宙に舞い、ベッドでスヤスヤ寝ている青年めがけてダイブされた。
「グハァ!!ちょっ!朝からなにすんのさ!」
「何っておまえ、朝だから起こしただけじゃねーか!何回声かけても起きねぇから、こうなりゃボディプレスしかねぇな?って」
「いやいや!普通そんな発想しないでしょ!?それでも父親か!?」
父、ナツメの見事なボディプレスを受け、その息子トウマはやや怒りながらツッコミを入れる
トウマは、ナツメが22歳の時に授かった子だ
現在トウマは16歳、ナツメは38歳
親子ではあるが、兄弟と見られてもおかしくないほどナツメは無邪気であった
「まぁ起きたからいいじゃねえの(笑)じゃ仕事行ってくるけど、今日は学校どうすんだ?」
「…今日は…いいかな...」
あっけらかんとした問いに、トウマは静かに答えた
「おう!じゃまた弁当頼むわ!昨日と同じ現場だからよ!」
「了解、11時過ぎには届けるね」
こうして織原家の朝は迎えられた
「しかし、ナツメは朝から元気すぎるんだよ...毎朝こんな起こされ方したらたまったもんじゃない...」
朝食をすませたあと、日課の筋トレ
シャワーを浴び、ナツメのお弁当の支度をしながらボソっとトウマは呟いた
「よし、これで準備OK。ってもうこんな時間!?早く行かないとお昼になっちゃう!」
時刻を確認したら、すでに10時30分を回っていた
ナツメの職場までは自転車で30分ほどかかる
トウマは慌てて身支度を整え家を出て、いつものように自転車にまたがった
「なんか変な天気だなぁ...」
そう呟いて、ゆっくりとペダルを踏みしめた
向かう先には、まるで巨大な目がのぞいてるかのような不思議な雲があった
「ナツメー!お弁当持ってきたよー!!」
「おぉーー!!ありがとうなぁぁーー!!今昼休憩入るからちょっと待っててなぁぁーー!!!」
どうやらナツメのお昼休憩に間に合ったようだ
トウマはふぅっと安堵のため息をついた
その時である
ふと、トウマの視界に一匹の白い猫がいた
「あれ?こんなところに猫?危ないなぁ」
ナツメの職業はいわゆる「鳶職」であって、職場は現場
普通は猫はおろか、動物は近寄らない所なのだが、なぜかその白い猫はジッと座ってトウマを見つめている
「なんだろ、この猫全然動かない...」
(見つけた…)
「え?今誰か、何か言った?」
(見つけた…運命の歯車となる者…)
「え...?まさか、この猫が喋っt」
その瞬間
ドシュウゥゥゥゥーー!!!!というすさまじい音と共に突風が吹いた
「うおっ!なんだこの風!!!って、ちょっと待て...これは...」
ちょうど下に降りてきたナツメが驚きを見せた
その直後、何かに気付いたナツメは慌ててトウマを探した
「この風まさか...おい!トウマ!!!…そこか!早くこっちに来い!!!」
「え?ナツメ!?この風なに!?」
必死にトウマを呼び押せるも、トウマは驚きのあまり身動きが取れないようだ
しだいに風が渦を成して、トウマを中心に大きな竜巻となった
先程まで広がっていた青空も、いつの間にか厚い雲に覆われていた
「トウマ!!!手をのばせ!!!」
「ナツメ!助けて!ナツメェェーー!!!」
ナツメはトウマの元に走った
トウマはナツメに手を伸ばした
もう少しで手を取り合える
その瞬間…
ドシャァァァァーーーーンッッ!!!!
激しい落雷が竜巻の中心に落ちた
その勢いで荒れ狂っていた風も収まったのだが、そこには人の姿はなかった
「おい、ナツメとトウマはどこいっちまったんだ!?」
「どうなってんだよ...」
その場に残されたナツメの同僚達は、ただ目の前に起きた不可思議な現象に混乱していた
「(うん...さっきのはいったい…)」
現実とは思えない出来事に戸惑いを見せつつ、トウマはゆっくりと目を開けた
「...!?」
トウマは目を疑った
さっきまで工事現場にいたはずだ。しかし目の前に映るのはアニメや漫画でしか見たことないような、王様と呼ばれるに値するであろう人物がいた
そして周りを見渡すと、従者や近衛兵のような者も多数...
そして驚きを隠せない表情のナツメもそこにいた
トウマが現実を受ける間もなく、その王のような人物がゆっくりと口を開いた
「いきなり呼び立ててすまぬ。我はシュガルディン国の王、シュガル3世である」
「え?王...様...。なにこれ...どういうこと?ねぇナツm...」
いきなりの王の発言にひたすら困惑していたトウマだった
知った人間は、父親でもあるナツメのみ
その父にすがろうと視線を移したトウマだが、ナツメの顔を見て言葉を失った
驚き、喜び、そして焦り
なんとも表現のできない、複雑な表情を浮かべたナツメがそこにいた
そして誰にも聞こえないほどに小さな声で呟いた
「まさか...メルゼアなのか...」