二つの魂と、芸術家
小百合の妊娠報告の半月後、俺はある人物を自宅に招いていた。
「島咲さん、お久しぶりです。お招きありがとうございます。」
「久しぶり。こちらこそありがとな。色々と忙しかっただろうに・・・」
「いいえ、先日はわざわざお見舞いを贈っていただいて、ありがとうございました。」
深々と玄関で頭を下げた彼は、手土産にと菓子折りを手渡してくれた。
そのままあれやこれやと礼を述べそうな彼を、一先ずリビングへ通した。
「お母様のお加減は?」
「おかげさまで、快方へ向かっています。元々体は丈夫な人なので、一時的に調子が悪くなっただけみたいです。」
「そうか、それは良かった。何か困ったことがあったら、いつでも都合をつけて診察してやるし、相談してくれ。」
小夜香が客人用にと備蓄していた紅茶缶を開けながら言うと、彼は遠慮したように苦笑した。
茶葉を煮だして、カップに湯を入れて温める。
「・・・小夜香さんはお元気ですか?」
懐かしそうにそう尋ねる彼は、かつて小夜香が通っている高校で保険医をしていた。
「ああ、元気だよ。同じく御三家の後続者だった青年と付き合っていて、去年婚約したんだ。」
彼は目を見張って目の前に出された紅茶を静かに受け取った。
「ありがとうございます・・・。そうなんですね、確か・・・島咲さんもご結婚早かったんですよね。」
「まぁな・・・。かく言う俺も・・・報告目的で呼びつけたわけじゃないんだが、最近婚約してな。来年の春に再婚することになって、今相手が妊娠3カ月なんだ。」
立て続けに事実を述べると、彼はとうとう開いた口が塞がらない様子で黙ってしまった。
「・・・へ・・・あ・・・そう・・・なんですか!おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。」
「・・・その報告はついでなんですか?」
「ああ、ついでだ。」
彼は取り乱すまいと紅茶を一口飲んで息をつき、頭をかいた。
「卯月くんは、アメリカでの生活はどうだった?」
話題を変えようと彼の仕事の塩梅を尋ねた。
「ふ・・・それはぁ・・・彼女の一人でも出来たのかっていう質問ですか?」
「いや・・・仕事はどうだったんだろうかと思ってな。」
「ああ・・・そうですか、すみません邪推して。・・・アメリカの研究チームでは、わりとそれなりに成果は出せていた方だったと思います。2年程の経験になってしまいましたけど、外科医として戻って来てもらっても構わないと言われたので、母の具合が良くなって完治したら、また戻るのも手かなと・・・」
「そうか・・・」
「・・・ところで、島咲さんが俺に頼みたい事というのは?」
「ああ・・・それなんだが・・・もし都合が良ければの話で、あまり気負って考えてほしくはないんだが・・・」
「はぁ・・・というと?」
卯月くんは俺が大学病院に数年勤めていた7年程前に、研修医として来ていた一人だった。
当時二十歳、国立の医大を飛び級で卒業して、医師免許を取得した天才だと謳われていた。
だがその裏では、幼い頃に心臓病を患い、移植手術にて病を克服した経験があり、それから自らも医師となるべく、子供の頃から医学を勉強してきたと、当時本人から聞いたものだ。
「実は・・・婚約者である小百合が妊娠したという報告を受けて、これからは出来れば検診に行く際に、付き添いたいと考えていて・・・。何分今の病院を一人でやっているものだから、誰か一人内科医を雇えないだろうかと検討していたんだ。」
卯月くんは全て察したように頷いた。
「なるほど・・・。ですがその・・・正直な所、私は経験として小児の診察はあまり・・・」
「そうなのか?・・・研修医として働いていた頃は、随分子供の患者から人気だったようだし・・・担当医が気付いていないことにも、よく見てアドバイスしていたと聞いたけど。」
「・・・よくそんな昔の事覚えてますね・・・。あれはまぁ・・・俺も若かったこともあって、小児患者が懐いてくれやすかったんですよ、口出しした担当医には・・・結局横やり入れるなって怒られましたし・・・」
「・・・今も十分若いだろう・・・」
「まぁ20代なので、島咲さんやベテラン医師からしたら、まだまだヒヨっ子扱いでしょうね。・・・ご指名は嬉しいですけど・・・本当におっしゃった通り、研修医をしていた時に小児科に少し関わっていた程度で、その後は16歳以上の患者しか診てきてません。自分が適任なのかどうかは、正直わかりかねます。」
「そうか・・・・」
確かに彼の言う通り、医療関係者と繋がりが深いのであれば、小児科も現役で担当している内科医を見つけて雇うのが近道かもしれない。
静かにリビングで時計の針が、カチカチと刻まれる。
少しの間考え込んでいると、不意にガチャリと玄関ドアが開いた。
「ただいま~」
「・・・あれ、もしかして・・・」
そう呟いた卯月くんに何となく笑みを返して立ち上がると、小夜香がパッとリビングに顔を出した。
「お父さん、お客さん・・・?あ・・・・・・え!!先生!?」
驚いた小夜香は、ポカンと先ほどの卯月くん同様の表情をして、立ち上がった彼を見上げた。
「久しぶりだな島咲、元気そうで何より。」
「は・・・・うん・・・え・・・え?帰国してたの?」
「ああ、ちょっとな・・・身内の訃報を受けて帰国して、その後少し母親が体調を崩していたから、そのまま長い休暇をもらうことになったんだ。戻るかどうかは未定だけど。」
「そうなんだぁ・・・え~~・・・で、お父さんに呼ばれて来た感じ?」
「ああ・・・。島咲さんの病院を手伝えないかと、相談を受けたところで・・・」
「え!!先生お父さんの代わりに働いてくれるの!?」
小夜香の食い気味の笑顔に、卯月くんは少したじろいだ。
「え・・・あ・・・いや・・・」
「嬉しい!先生なら腕は確かだし、私も知り合いだから安心だよ。お父さんね?来年結婚するんだけど赤ちゃんが出来たの!私お姉ちゃんになるんだぁ♪」
嬉しそうにキラキラした笑みを向ける娘に、卯月くんはチラリと助けを求めるように俺を窺った。
「・・・卯月くん、俺はもちろん無理強いをするつもりはない。もし都合が良ければ・・・という程度で聞いてほしいと言ったろ?」
「あ・・・はい・・・」
「え・・・先生無理そうなの?」
今度は小夜香の心配気な表情を受けて、彼はみるみる顔色を悪くして申し訳なさそうにしていく。
「わ・・・わかりました・・・。その代わりというか・・・小児科の診察をしている様子を、一緒に見てもらって判断してくれませんか。あまりにも実務経験がないので、自信が持てません。」
「ああ、わかった。それで荷が重いと思ったら断ってくれて構わない。・・・小夜香もそれでいいな?」
「え?うん・・・。あ、そうだ、先生、みなと先生も元気そうだよ。」
「あ?ああ・・・今望奈人と一緒に住んでるからわかってるよ。」
「あ、そうなんだね!ふふ・・・♪」
コロコロ表情が変わる小夜香は、俺が淹れた紅茶を受け取って、彼の隣に座った。
「何がそんなに嬉しいんだ?」
「んふふ、だってね?先生みなと先生と双子で、弟でしょ?私の婚約者の彼も、双子で弟なんだぁ。」
「へぇ・・・そうなのか・・・。双子に出会う確率が高いんだな島咲は・・・」
「・・・先生、お父さんのことも島咲さんって呼んでてややこしくない?」
「・・・ああ・・・・いやでも・・・えっと・・・じゃあ、更夜さんってお呼びしてもいいですか?」
小夜香に気後れしてまだ顔色が冴えない彼は、申し訳なさそうに言った。
「ああ、構わない。」
「先生、私再来年に結婚するの♪」
「ああ、さっき聞いたよ、おめでとう。」
「ふふ、ありがと~。」
ご機嫌な小夜香と黙って様子を眺めていた俺を、卯月くんは見比べるように視線を送った。
「・・・聞かれる前に答えておきますけど・・・俺は恋人もいなければ、結婚の予定もありませんので・・・。」
そう言ってまた紅茶に口をつける彼は、好青年で中身もしっかりしている子だが、結婚するかどうかなんて話は個人の自由であるし、俺も小夜香も不躾に尋ねることはあえて避けていた。
まぁ若干気になっていたのは事実だが・・・
「先生イケメンなのにねぇ・・・勿体ない。」
少しふざけたように返す小夜香に、彼ははぐらかすように苦笑した。
その後しばらく二人と談笑していると、思いついたように小夜香が「あ!」と声を上げた。
「そうだ、お父さん、先生に鈴蘭ちゃんの診察してもらうのはどう?」
「・・ああ、なるほど。」
「鈴蘭・・・?」
更夜 「高津家と松崎家元当主の二人が一昨年結婚して、今年の春に赤ん坊が産まれたんだ。」
「もう3か月検診は済んだって晶ちゃん言ってて、特に具合が悪いってわけじゃないと思うけど、赤ちゃんの診察するのも小児科の先生には必要だよね?」
「・・・そうだなぁ。」
卯月くんはチラっと俺の顔を窺った。
「更夜さんが隣でアドバイスをくれるなら診れます。さすがに赤ちゃん相手にしたことないんで・・・。」
「わかった。ちょうどこの間美咲くんが予防接種の話をしていたし、その時一緒に往診するか。」
「はい・・・・。うわぁ・・・赤ちゃんの血管読める気がしないな・・・」
不安そうにする卯月くんの隣で、小夜香は慰めるように言った。
「大丈夫だよ先生。私もお父さんが鈴蘭ちゃんの診察してるの何度か見たけど、赤ちゃんでも血管見えるよ。」
「だそうだ、心配しなくていいぞ卯月くん。」
「・・・出来のいい娘さんの言うことなんて信用しませんからね?」
「先生だって天才って言われてたんでしょ~?」
「・・・・ハーバードの医学部を飛び級してる人の前で威張れないって・・・」
小夜香は終始自信なさげにする彼を後押ししながら、二人は楽しそうに会話していた。
島咲さん親子に見送られて、俺は豪邸を後にした。
呼んでもらったタクシーに乗り込んで、かつて勤めていた高校の前を通り過ぎ、実家に到着した。
走り去る車の音と共に息をついて、スーツのポケットに手を突っ込んで鍵を取り出す。
改めて実家のごく一般的な戸建てを見上げると、さっき二人が住んでいた一軒家と比べて苦笑いが漏れる。
「ただいま・・・」
静かな玄関で靴を脱ぐと、母からの返答はなく二階から物音がわずかに聞こえる程度だ。
幼い頃から使っている二階の部屋へ、年季の入った階段を上っていくと、何か妙な話声が聞こえた。
「・・・ん?」
ガチャリと戸を開くと、双子の兄である望奈人のベッドが、こんもり布団が盛り上がってうごめいている。
「あ?・・・おい・・・」
「ばーーーーー!!!」
勢いよく布団から飛び出してきたのは、兄ではなく派手な格好をした女性だった。
望奈人は同じく布団の中に閉じ込められていたのか、げんなりした表情でボサボサの髪の毛をしている。
「Hi 慶人!さぷら~~いず♪」
「・・・・・ステラ・・・・」
望奈人は苦笑いしながら体を持ち上げて髪を整えた。
「ステラがどうしても驚かしたいって・・・わざわざ靴も隠してさ・・・」
俺が深いため息を落とすと、彼女はニコニコ歩み寄って猫のようにすり付いた。
「long time no see!会いたかったわ♡」
「おぅ・・・いつの間に帰国してたんだ?」
「それはこっちのセリフよぉ、望奈人から聞くまで全然事情を知らなかった!」
「世界中飛び回ってる奴に、身内の訃報をわざわざ知らせねぇよ・・・」
「・・・おばあ様のことは残念に思うわ。良かったら私にもお祈りさせて?」
望奈人 「ふふ、お祈りとは言わないかなぁこっちでは。」
立ち上がる望奈人は気を遣うようにそっと部屋を出て行く。
バタンと部屋のドアが閉じると、ステラは俺の顔を覗き込んだ。
「お祈り・・・じゃなかったらどう言うのかしら」
「・・・お線香あげさせてください、とかかな。」
「おせんこう・・・・oh,I see.あの匂いがする緑のスティックのことね!」
「・・・それで?なんか用があるからわざわざ来たんだろ?」
座布団に腰を据えると、ステラは乱れた布団を畳んで腰かけた。
「顔を見に来たっていうのが一番の目的よ?でもそうね・・・しいて言うなら、お腹が痛いの最近。」
「はぁ?・・・病院に行けよ・・・。」
「慶人に会えるからついでに診察してもらおうと思って♪」
仕方なく立ち上がって、ステラの肩に手をかけた。
「横になって・・・」
「・・・あら、ドキドキしちゃう。」
ニヤニヤするステラを窘めながら、横になった彼女の下腹部を少しずつ力を入れて押した。
「痛い所で教えてくれ。」
「OK・・・。ん~・・・・ん~・・・?・・・・・・・あ・・・そこ痛い・・・」
「ここか?」
「ええ・・・。」
「・・・子宮辺りだな・・・。生理は?」
「もちろんあるわ?」
「そうじゃなくて・・・」
「最近忙しかったのもあって若干生理不順かもしれない・・・。マネージャーにも検査に行けって言われていたの。」
「言われてんなら行けや!」
ステラは体を起こしてまた腰かけ、細い足を組んでため息をついた。
「だってMomが・・・お母さんも病気だったんだもん・・・きっと私もcancerよ・・・」
「・・・だったら尚の事早期に治療するべきだろ。」
ステラは考えるように視線を泳がせて、ベッドをポンポンと叩いた。
仕方なく隣に腰かけると、彼女は素早く俺の頬にキスした。
「ツアーが終わったら検査でも手術でも何でも受けるわ。」
「・・・ほ~・・・それで?」
「本当に重病だったら入院するわ。」
「あっそう・・・。」
「それが済んだら私の夢もおしまいよ?」
「・・・何の話だ?」
「あら!覚えてないのね、私がアメリカに発つ前に話したこと。」
「・・・はぁ?10年も前の話してんの?」
「そうよ?慶人は自分がアメリカに行くことすら私に話してくれなかったし!そんなに私の事嫌い?」
「嫌いも何も・・・連絡取ってない昔馴染みにわざわざ教えないだろ・・・。」
「・・・むかしなじみってなあに?元カノでしょ!?」
「・・・だから・・・10年も前の話を・・・」
「あ~無かったことにするのね?することしたじゃない!」
「おい・・・どこでそんな日本語覚えてくるんだ・・・。」
「さっき望奈人が教えてくれたわ?」
「はあぁ?」
その時ガチャリとドアが開いて、淹れたお茶をお盆に乗せた兄が入って来た。
「待って待って・・・俺が変なこと教えたみたいになってるから・・・。」
ステラは今度はテーブルにグラスを置く望奈人に引っ付いて、猫なで声を出す。
「布団に潜り込んでる間に話してたのよね~?♪」
「はぁ・・・大した話はしてないでしょ?いい?ステラ・・・することしたなんて、他で言っちゃダメだからね。」
「all right♪」
どうでもよくなってグラスを取って口をつける。
「慶人・・・私をお嫁に貰ってくれる気はない?」
「・・・まぁた変な日本語覚えて・・・どういうことだよ・・・」
望奈人は苦笑いを落として言った。
「慶人が帰ってくる前からずっと言ってたんだよ、ホントに病気だったら慶人は同情してより戻してくれるかなって。」
派手にメイクした大きなまつげを瞬かせて、ステラはじっと俺を上目づかいで見た。
「冗談よせ・・・生い先短い花嫁と結婚しろってことか?これ以上俺たちを振り回すのやめてくれ。」
「慶人・・・そこまで言わなくても・・・」
「・・・ちょっと難しくて日本語がよくわからなかったけど・・・恋人になることは考えてくれないの?」
「・・・この際だからハッキリ言うけど・・・俺は我が道を行くタイプのステラみたいな女性は好きじゃない。10年前も話した気がするけど・・・俺たちはあの時別れたんだ、もう・・・・・」
当時のことをふと思い出して、そこでもう話す気力がなくなった。
「慶人、私が話したこと思い出してくれた?」
ニコリと口元を上げる彼女が、覗き込む瞳が、あの時と何ら変わっていないようで、何もかもが変わっている気もした。
「・・・ステラ・・・口を挟むようで悪いんだけど・・・」
「なあに、望奈人」
「・・・慶人はあの時とは違うし、ステラもそうだと思う。お互い大人になったわけだし、慶人が言った通り、俺たちはそれぞれ別の人生があるよ。ステラが慶人のことを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、あの時と違うからこそ、もう叶えられないこともあるんだ。慶人は医者で、頭もよくてアメリカで仕事が出来る程有能だけど、メンタルはそこまで強くないんだよ。俺たちは祖母を亡くして、母さんの具合まで悪くなって、色々度重なった今に、自分は病気かもしれない、だから一緒にいてくれなんて甘え方は、慶人にとって酷だよ。・・・わかってくれるよね?」
甘えるように絡まった腕が解けて、今度は大事に指を絡めて手が繋がれた。
「慶人・・・ごめんなさい、いつも自分勝手で。・・・でもじゃあ一つだけ聞きたいわ。・・・もう私を愛してない?」
海のように深くて青い瞳が、整った顔立ちを際立たせる宝石のようで、昔から変わらない無邪気さが、ステラのいいところで、決して嫌いになれないのは、3人大事に育ってきた思い出のせいだった。
「・・・最初こそは好きだったと思う。けど別れた時話したように、もう気持ちは戻らないな。」
その時初めてステラは、今までの振る舞いや発言が空元気だったとわかるような、落ち着いた大人の表情で、あからさまに落胆した様子を見せた。
「・・・結局私はこうなのね・・・」
チラっと望奈人に視線を向けたステラは、涙を堪えるように口をへの字にして彼に抱き着いた。
「慰めて~望奈人~~。」
「あ~・・・よしよし~」
大型犬に絡まれたような望奈人を不憫に思いながら、俺は考えることを切り替えた。
更夜さんに頼まれたことを前向きに検討しないとな・・・
立ち上がって席を立とうとすると、大型犬という名のステラがパッとついてきた。
「どこに行くの?慶人♪」
「腹が痛い病人を連れ歩くつもりないぞ?望奈人、悪いけどどこか近所の内科にでも行って、ステラがこっちで検査を受けられるように紹介状でも書いてもらってくれ。」
「え・・・俺が?」
怪訝な顔をする望奈人が、案外めんどくさがりなのを分かった上で頼んでいた。
「リード繋いで連れてかなきゃ、ステラはふらふらどっかに行くぞ?人の言うこと聞かねぇし・・・。」
彼女はキョロキョロと俺と望奈人を交互に見つめた。
曲がりなりにも彼女は世界的なピアニストだ。何より日本じゃ余計に目立つ見た目だし、ウロウロさせるわけにもいかない。
望奈人はため息をついて、諦めたようにまたアイスティーを口に運んだ。
「目立ちたくないから、ステラ、自分である程度変装してね?」
「OK!」
疲れた表情を見せて慶人は部屋を後にした。
残されたステラはまた俺の隣にちょこんと座って、アイスティーに刺したストローをすする。
「ね、望奈人・・・慶人はどこに行ったと思う?もしかして彼女がいるのかな?会いに行ったとか。」
「さぁねぇ・・・俺たちお互い自分のプライベートなこと話さないからさ・・・」
「へぇ・・・?でも双子なんだから行動や気持ちがわかったりするんじゃないの?子供の時から貴方たちそうやって通じ合ってたじゃない。」
「・・・・」
ステラの言う通り、ある程度わからないこともないけど、やっと身の回りのことが落ち着いてステラの相手をして、また疲れが戻って来た、みたいな顔してたな・・・
「ステラという嵐に吹かれて疲れちゃったんじゃないかなぁ?」
俺が頬杖をついてなんとなしに言うと、彼女はまた柄にもなくしゅんとする。
「そう・・・。厄介者ってやつなのね私は。」
「違うよもう・・・」
「違うの?」
「昔から大事な存在だから、不穏なことを言われて心配してるんだよ、わからない?俺たちが通じ合ってるのは双子だからかもしれないけど、ステラだって十分俺たちをわかってるでしょ?いちいち言葉にしなくてもそろそろわかってよ。」
くしゃくしゃ頭を撫でてやると、彼女はふっと気の抜けた笑みを見せた。
「ありがとう望奈人、大好きよ。」
「ふふ・・・うん。じゃあ準備が出来たら出かけるよ?俺も着替えてくるからね。」
観念したように頷く彼女を置いて部屋を出る。
たぶん慶人は仕事のこと考えてるんだろうなぁ・・・
俺も夏休み期間だろうと仕事はあるし・・・今は家の都合で休暇を使わせてもらってるけど・・・来週研修もあるし・・・あ~準備しないといけない資料もあるんだった・・・
着替えてる最中にあれこれ考えながら、準備を終えたステラの話に生返事しながら家を出た。
予約は入れていないけど、運よく近所の内科で診察してもらえて、精密検査を受けたい旨を伝えると、何とか紹介状を書いてもらうことが出来た。
慶人は今一時帰国してるだけだし、こっちに勤務してるわけじゃない。
身内が医者だろうと融通を利かせてもらえるわけじゃないので、難しいかなと思ったけど、診てくれた内科医も、早急に検査をした方がいいと判断したのかもしれない。
「まったくもう・・・」
「なあに~?」
ケロっとした表情で病院を出て隣を歩くステラは、本当に腹痛を抱えているのか定かじゃない。
「具合はどう?今も痛む?」
「今は平気よ。」
「どうしてアメリカで検査受けなかったの?」
「・・・忙しかったの。ツアー中だし・・・日本のコンサートは来週だわ。」
「はぁ・・・検査を受ける前にコンサートに出るつもり?」
「ん~検査の方を先にしようかしら、せっかく二人のうちに泊るんだし♪」
「・・・え、泊まるつもりなの?ホテルは?」
「取ってないわ?」
慶人が聞いたらどんな顔をするか安易に想像できる。
知らず知らず頭を抱えていると、彼女は心配そうに俺を覗き込んだ。
「望奈人ってば慶人と同じような顔してるわ。まずかった?」
「あのねぇ・・・泊るって言っても、実家だし・・・母さんもいるし・・・余分な布団あったかなぁ・・・」
「あら?おばさんは今朝出かける時に、ご実家の片づけをするし向こうに泊るわねって言ってなかった?」
「・・・あ、そうだった・・・。じゃあ・・・母さんの布団借りて、和室に寝てもらうけどいい?」
「ええ、もちろん。和室好きよ私。」
「そりゃよかった。」
「でも二人のどちらかと一緒にベッドで寝られたら最高だわ♪」
「え~?アメリカンジョークきついな~ステラは~。」
「そう?別に二人とも私の事何とも思ってないんなら、no problemじゃない?」
「へぇ~・・・アメリカでは何とも思ってない男性と、二人っきりでベッドに入っても何も起こらないの?」
「お互いが興味ないなら何も起こらないかも?」
無邪気に笑いながら歩くステラは、大きく見えるサングラスをくいっと頭の上に上げた。
「・・・ステラは俺と慶人が何も起こさない人間に見えるってことだね。でもね、ステラが何かあってもいいわよ~っていう態勢でいたら、興味とか意志関係なく事は起こるんだよ。」
「そうねぇ、動物だものね。」
「・・・日本語微妙にわかってないフリももうやめたんだね?」
「え~フリじゃないわ。話してるうちにちゃんと日本語を思い出してきたの。これでもハーフだもん。貴方たちと一緒よ?」
「俺も慶人も純日本人だよ?」
ステラはまたニカっと歯を見せて笑う。
「そうじゃなくて、望奈人と慶人は魂を半分に分け合った仲でしょ?」
「魂・・・・まぁそういう考え方も出来るのかな。俺たちは一卵性双生児だから、たまたま一つの卵に二人入っただけだけどね。」
「望奈人って案外現実的な話をするわよねぇ、可愛い見た目と話し方なのに。」
「これでも、生物、物理担当の先生なんでね~。」
「ふふ、二人とも白衣が似合うし素敵よ?」
「ありがと。」
話しが二転三転する彼女のペースにもだんだん慣れてきた自分がいる。
「ねぇねぇ望奈人・・・」
「ん~?」
「改めて聞きたいんだけど・・・慶人は本当に私の事何とも思ってないかな?」
ブロンドヘアをなびかせて日傘を広げる彼女は、またサングラスをかけ直す。
「・・・どうだろうねぇ・・・。双子であろうと勘でわからないこともあるんだよ。」
「ホント~?・・・じゃああれね、慶人の好みのタイプの女性に変身するしかないわね。」
「・・・本気?」
真っ黒な日傘を傾けて、彼女はニヤリと口元を持ち上げる。
「私には無理?」
「・・・・ステラは自分らしく生きられなくても、慶人に合わせて生きていきたいってこと?」
「ん~無理かも?」
「はや・・・。じゃあ諦めるしかないねぇ。」
ステラはため息をついて先をどんどん歩き出す。
「だって惜しいなぁと思っちゃったのよ。子供の頃はそうでもなかったけど・・・10年も経つとうんといい男になってるし!きっともう10年経ったら魅力的過ぎる人になってるだろうなぁってわかるし、慶人はきっとこの先モテモテよ!ほら・・・あれ・・・逃がした魚が・・・大きくなって・・・・」
「・・・逃した魚が大きいって今更気付いたってこと?」
「そう!それ!」
こっちを見たりあっちを見たりする彼女の腕を引いて、横断歩道の手前でしっかり手を繋いだ。
「言いたいことはわかるけどね・・・。」
「目の前を通り過ぎる車みたいに、慶人の気持ちは捕まらないのかしら。」
「・・・慶人に拘る必要あるの?別に魅力的な人なんて、それこそステラの界隈の芸能人だったら山ほどいるだろうし、引く手数多でしょ?それともしつこく慶人が心につっかえてるの?」
「・・・わかんないわ・・・。会いたいと時々思っちゃうし、顔を見たらすごく幸せな気持ちになるの。何も特別なことをしなくていいから、側にいてほしいわ。」
青信号になってゆっくりまた歩き出すと、彼女は手を引かれるままに、少し足取り重くついてくる。
「なるほど・・・案外本気だったんだねぇ。でもなぁ・・・本人ハッキリ断ってたしねぇ・・・ステラはタイプじゃないってさ。」
「・・・じゃあ諦める方法を知りたいわ。」
何十万、または何億人、彼女が奏でる音を世界中の人々が聞いただろうか。
クラシックなんてお堅くて若者受けしない世界で、彼女は音楽のジャンルを超えて有名になった。
その美しい容姿とキャラクター性、スター性、柔軟なアレンジ力で、ピアノという楽器で誰もかれもを自分の世界に引き込んだ。
クラシックの界隈から邪道と言われようと、どんな作品ともコラボして、期待以上の曲と演奏で世界中の人たちを魅了した。
俺が握っているこの手は、今まさに必要とされてる旬のアーティストの手。
けど俺も慶人も、彼女の幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもない。
「・・・ステラはさ、仕事をしている上で、ここまでやりたい!っていう最高到達地点に、どうしてもいけないってなったらどうしてきたの?」
「・・・そんなこと許されないわ。行けるようにしてきたの。私は理想も現実も、人々が必要としてるものも見えるもの。ちゃんとクライアントも、お客さんもクリエーターも、満足出来る最上を作ってきたわ。」
「・・・そうなのかもね・・・。でもさ、人間関係はそうもいかない時もあるじゃんか。相手は自分が作り出すものじゃないし、心があるから勝手に動かせるものじゃない。」
「私は・・・・・人の心を動かせるわ。」
妥協案を探させようとしていたのに、俺は一つ提案を思いついてしまった。
「そうだね・・・。だったら・・・慶人の心を動かせるような曲を作って、目の前で聞いてもらうのはどう?」
手を繋いだまま振り返ると、日傘の下でステラは、その名の通り夜空の星がキラキラ輝きだすような笑顔を浮かべた。
「やってみせるわ!!」
それから体の不調をものともしないように、バタバタとうちに帰って、彼女は持ってきた鞄から大きな五線譜のノートを取り出した。
「望奈人あなた天才だわ。私の得意分野でどうしてやろうと思わなかったのかしら。」
思いつくままにペンを走らせては書き直して、鼻歌を口ずさみながら、目の色を変えて手を動かしていく。
「ねぇ望奈人」
「ん~?」
また冷たい飲み物を淹れて、少し離れた場所に置くと、ステラは何でもないように言った。
「私ね、きっと本当に・・・星みたいに大きく輝いてるうちは綺麗でも、輝かしくてもすぐ死んじゃうの。私の体の中は内臓がたくさん入ってる人間でしかないから。」
「・・・まぁ・・・そりゃいつか皆死ぬからね。」
「違うのよ、そうじゃないの。わかってるの・・・。でもきっとだからこそ、慶人を巻き込んじゃいけないのはわかってる。貴方が言った通り、彼は優しくて愛情深くて素敵な人だから。でもね・・・私それでも彼を愛してるの。自分勝手に巻き込んじゃってもこの気持ちはちゃんと形に出来るのよ。今私は生きてるから、その最上を知ってほしいわ。」
胸の中で彼女の言葉を受け止めながら、若くして亡くなることになったらと、ステラを想う自分と、亡くしたときの慶人を思い浮かべた。
「ねぇステラ・・・・」
彼女は五線譜から視線を動かさずに、ひたすら書いていたけど、ちゃんと話を聞いていることはわかっていたから、俺はそのまま続けた。
「魂を・・・分け合ってるって言ったよね・・・。俺はそれが何なのか、感覚的にピンとはこないけど・・・。でも慶人を・・・弟を苦しめるような結果にはしないでほしい。」
「私は芸術家よ、結果なんて考えて作らないわ。」
「そうだろうね、だから俺あんまりアーティストって好きじゃないんだけど・・・。でもステラがもし早く死んじゃったら、慶人は一生後悔して苦しむんだよ。俺にはわかる。」
「・・・人の心を動かせるけど、それがどういうベクトルで動くかなんて神様にしかわからないわ。人は考え方一つでどうとでも変わるじゃない?私が慶人を不幸にするから、関わらないでくれって言いたいの?」
「・・・はぁ~あ・・・わっかんないや・・・。俺はそこまで難しいことを考えたくないんだよ。だってステラのことも慶人のことも大事だから・・・もう・・・好きにして。」
諦めて頬杖をついて、彼女を横目で見ると、ガラステーブルの上、五線譜を書き散らしたまま、ステラは鉛筆をトントンと鳴らした。
その後ブツブツ言いながら、時折歌い出したり、また消して書き直したり、2時間程それを繰り返していた。
「あ~~ん!もう少しなのよ!望奈人、慰めて!」
ガシ!っとしがみつくステラを片手で撫でて、スマホでニュースサイトを眺めていた。
「ついでにキスしてくれてもいいのよ?」
甘えた声で囁く彼女を、チラっと見ると玄関ドアが開閉される音がして、足跡が近づいてガチャリと慶人が顔を覗かせた。
「・・・お邪魔か?」
「慶人!こっちにきて!貴方が側にいてくれたらよりインスピレーションが働くから!」
「・・・俺を慶人の代わりにしてたわけね・・・」
俺は立ち上がって静かに部屋を出た。
ステラは俺と去って行った望奈人が消えたドアを交互に見ながら、少し困った様子を見せた。
「慶人・・・私・・・謝るべき?」
「・・・さぁな。」
図書館から借りてきた本を机に置いて、椅子に腰かけると、ステラは消しゴムのカスが散らばったテーブルにこぶしを握って俺を見た。
「望奈人ってもしかして私の事好きなの?」
「はは・・・んなわけないだろ。・・・心配しなくても傷ついてあんな態度を取ってるわけじゃない。あいつはめんどくさがりなんだよ。たぶんステラとあんまり関わりたくないと思ってる。」
「えぇ・・・私迷惑かけたかしら・・・」
「天性の才能ある自由な芸術家ってのは、凡人とは違うだろ。周りのことを考えずにいることもそりゃあるさ。あいつはそれをわかってるけど、平凡であることを、日常を愛してやまないの。お前とは違うの。別にステラ個人が嫌いって程じゃないから安心しろ。」
「そう・・・。貴方のために曲を書いてたの。」
「・・・はぁ?なんで?」
「それが貴方を振り向かせる方法かもしれないって望奈人が教えてくれたからよ!」
「ふ・・・また奇怪なことを・・・。ステラ、言っとくが俺も望奈人も、お前の自由な言動に付き合ってやってるだけの状態だからな。」
「へぇ・・・そう。小さい頃からそれは変わらないのね。」
「まぁそうだな。ある程度振り回したら満足してくれよぉ?」
本のページをめくって目次を眺めていると、ステラはそっと側にやって来て言った。
「きっと慶人も望奈人もこう言いたいんだと思うわ。『慶人と一緒になりたいんだったら、今の自分を何もかも捨てて、人生を変えるしかないんだ』って。」
「・・・人生を変えるか・・・。なかなか面倒な話だな。一つ言えることがあるとすれば、俺も望奈人も自分の人生をよりシンプルに生きたいと思ってるってことだな。」
「私みたいな波乱を呼ぶ恋人はいらないってこと?」
「そ~そ。」
「二人は魅力的なのにつまらないこと言うのねぇ。」
「矛盾してること言ってんなぁ。俺は医者だし、望奈人は生物学者だ。現代にあるものを見据えて、少し先の未来のために自分の力を左右させてる。・・・対してステラはどうだろうな・・・アーティストって、世界を彩る存在だろ。俺たちの特性はハナから別々なんだよ。」
ステラは意外にも穏やかな笑みを浮かべて、愛おしそうな眼差しを向けた。
「言ってることは何となくわかるわ。慶人はいっつも難しいことを言語化する人ね。」
「・・・俺たちは家族でいよう、ステラ。」
ステラはふっと視線を落として、青い瞳に何も映さないまま、静かに書きかけの五線譜を見つめた。
「何かが起こりそうな予感だけを残して、無かったことにするっていうのも、それも一つの芸術かもね。」
彼女は白く細い指でノートをちぎり、書き散らした数ページの五線譜をビリビリに破った。
「・・・貴方を失うとか、貴方に振り向いてもらえないとか・・・それを普通に悲しめる女の子だったら好きになってくれた?」
「・・・検査をちゃんと受ける気になったか?」
「ちゃんと受けるってば!私の質問の答えは!?」
「・・・I said “no”.」
ステラはキッと睨みつけて、テーブルの前に座りながら、また隣をポンポンと叩いた。
「犬じゃねぇんだぞ俺は・・・」
渋々隣に腰かけると、向き直った彼女は黙って俺を抱きしめた。
「・・・今度はなんだぁ?」
「私のこの心臓がいつか動かなくなっても、悲しまないって誓って。」
「めんどくさい奴&自分勝手選手権優勝候補かよお前はぁ!」
「ふふ♪じゃあ私が死んでも貴方にも望奈人にも一切知らせを出さないようにするわ♪」
「・・・・お前芸能人だから訃報は報道されるだろ・・・。」
数日後ステラは大学病院にて精密検査を受けた。
怪しい腹痛を抱えていたが、蓋を開けてみればただの急性胃腸炎で、それ以外は健康そのものだった。
癌の影も形なく、ついでにあらゆる検査も受けたらしいが、問題なしとのことだった。
俺はというと、更夜さんにアドバイスを受けつつ小児患者の診察外来のために勉強し直し、「大丈夫だ」とお墨付きをもらえたので、彼の病院をしばらく手伝うこととなった。
ステラは全国ツアーの真っ最中だったので、その後の日本公演を終えた後、光の速さで次の公演地であるカナダへと発った。
嵐が去ったと、俺も望奈人も実家で静かに暮らす生活に戻り、或る日珍しく俺たちはプライベートな話をしあった。
「ねぇ慶人」
「あん?」
「・・・ホントにまったくさ、ステラのことは一ミリも未練ないの?」
「ないな。というか帰ってくるまで一度も思い出してなかったレベル。」
「へぇ、そうなんだ。」
「んなもん言わんでも何となくわかるだろぉ?」
「まぁわかることもあるんだけど・・・。年を重ねると、何となくシンクロしてる感覚も薄れていってる気がしてさ。」
「・・・そういう望奈人は、好きな奴いないの」
「・・・・一人も思い浮かばないのが、この年になって一番悲しいことだなぁ。」
「悲しいのか・・・。」
「好きです付き合ってくださいって可愛い子に言われたら、即刻付き合うのになぁ俺・・・」
「おいおいおいおい、だったらお前自分の生徒に何度も言われてるだろ。」
「あのねぇ、可愛い子っていうカテゴリに生徒を入れないよ・・・。慶人だって同じく保険医してた時は、そりゃあモテてたって聞いたよ?」
「モテはするけど子供相手に出来ねぇよ・・・」
「お互い良識を持ち合わせててよかったって話だね。」
「んでも・・・・正直・・・島咲さんちに行ったり、御三家の周りの方に接して話してると、羨ましすぎて虚しくなってきたけどな・・・」
「へぇ?家庭を築くことに憧れてきた?」
「というか焦りだな・・・もう27だし・・・。」
「まぁ・・・今から意中の人が現れたとして、お付き合いできるまでと、お付き合いした後に結婚とか考えると、余裕で30超えそうだもんね。」
「人間って面倒だな・・・」
「ホントそれ・・・」
前途多難な俺たちは、自分の好きな仕事をこなしている幸せだけで、満たされないもんかと何度も考えてしまうだろう。