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神様学校に通う生徒の出会い

作者: あおい

朝日が登る頃起床。ランニングをして勉強。学校に行って授業を受け自習をして帰宅。これが私の毎日の日課。自分が作る世界を夢見て今日も1日を過ごす。

ここは神様育成学校。世界を作り出す神を育成する全寮制の学校。入学してから5年で全過程を終了し、卒業後は自ら新しい世界を創造してその世界の神となることが決まっている。入学さえしてしまえば5年後には自動的に神様になれるので自分達は他と違う選ばれた者なのだと言っている人が多い。実際にこの学校には推薦でしか入学することができない。どんなに神様になることを望んでも、努力しても推薦されなければなることはできない。故に自分達は特別だと言う者がいるのも理解はできるが私はそうは思わない。自分が作る世界の生き物全てに幸せになって欲しい。皆平等にチャンスがあり、頑張るものが報われるそんな世界を作りたい。そのためには色んな知識か必要。入学当初に決意し3年間ひたすら学んできた。どんなに勉強しても終わりは無い。知らないことはまだまだ沢山ある。もっともっと頑張らなくちゃ。今月末には試験がある。授業が終わったら図書館に行って復習しよう。

放課後、図書館に向かうといつもと様子が違った。どうしたんだろう。中に入ると男子生徒と女子生徒が騒いでいた。普段なら図書館には近ずきもしないような派手な見た目のグループ。この時期図書館は冷房が聞いていて1番涼しい。たむろしたくなる気持ちもわからなくはないがせめて静かにしていて欲しい。声をかけようか迷っていると司書が注意をしてくれた。やっと静かになる、そう思ったが声のトーンを少し落としただけで相変わらず喋り続けている。無視してここで勉強してもいいけどどうしようか。少し考えて別の空いている教室を探すことにした。

「意外と空いてないな」どこもお喋りしている生徒が数人いる。静かに勉強している子がいる教室もあったけど知らない人が勝手に入って来て勉強し出したら迷惑だよね。するなら自分の教室にしよう。どうか誰も居ませんように。そんな願いも虚しく教室には何人か生徒が残っていた。前の方で喋る女子生徒。窓際で眠る男子生徒。そこから絶妙な距離を保ち読書をする女子生徒。綺麗にバラけていて勉強できそうな場所がない。ドアに手をかけたまま立ち尽くす。やっぱり図書館に戻ろうか悩んでいると窓側一番後ろの席で眠る男子生徒と目があった。……ような気がした。寝てるはずだし目が合うはずなよねと思いもう一度見ると今度は起き上がってこっちを見ていた。起きてたのか。彼は手招きをして私を呼んだ。何かなと思いながら近づくと彼は小声で「いい場所知ってるよ」と言いながら微笑んだ。

「いい場所って?」

首を傾げるとこっちと言って席を立ち教室を出て行った。私も慌てて追いかける。

「私これから勉強する予定なんだけど」

「場所探してるんでしょ。いいところ知ってるんだ」

彼は振り向いて内緒ねと笑った。なんとなくふわふわしてる子だなと思いながら黙って彼について行った。階段を登りどんどん上に上がってゆく。彼の目的地の予想がついて徐々に冷や汗が出て来た。

「ねえ、いい場所ってもしかして……」

「屋上だよ」

彼は事もなげに言った。

「屋上って立ち入り禁止だったんじゃ」

「鍵開けられるから大丈夫」

悪戯っ子のような顔で彼が笑った。

「それは大丈夫じゃないんじゃないかな……」

バレたらどうなるんだろう。教師からの呼び出し、減点、謹慎、休学、退学……。脳内に最悪の未来が映し出される。神様になれないなんて今まで考えたこともなかった。どんな神様になりたいか、頭にはそれしかなかった。退学になったら私はどうなるんだ? 

カチャ。

鍵が開く音で一気に現実に引き戻された。そうだ、それはまだ起きていない。今すぐ戻れば……。

彼が扉を開ける。

突如強い風が私を押し退けた。バランスを崩しかけて壁に寄りかかる。そして一瞬の静寂の後、目を開けるとオレンジ色の光に飲み込まれた。

「知らなくていいの?」

そう言った彼の表情は逆光でわからなかた。今まで見せていたようなふわふわした笑顔だったのだろうか。声も出せず立ち尽くしていると彼はそのまま行ってしまった。ゆっくりと扉が閉まり眩いオレンジはどこにも見当たらなかった。

「知らなくていいの?」彼の言葉が耳に残っている。

本の知識は人より頭に入っている。「なんでも知ってるんだね」この学校にいて一番言われた言葉。全てを知っているわけではないなんてことは分かっていたけど、人から言われるのは初めてだった。

……このドアまた開かないかな、なんて考えている自分を自覚する。ただ、今この選択が良くも悪くも私のこれからに大きく影響を与えることは分かっていた。

そして私の選択ももう決まっている。そう、あとは勇気を出すだけ。

ドアノブを回し力を入れる。想像より遥かに重たかった。あの子、私よりも華奢なのに簡単に開けてたな。

風が吹き閉まりそうになる扉を気合いで押し返す。

屋上に足を踏み入れると扉が急に軽くなった。

「へぁっ」

間抜けな声と共にのけぞる。

あはは、と楽しそうに笑う声の方を恨めしそうに睨んだ。彼は柵にもたれかかってこっちを向いている。

「大丈夫?」

声は聞こえなかったが口の形がそう言っているように見えた。彼の隣に行くと眩いオレンジ色の光の正体がわかった。夕日が私たちを照らしていた。

「陽の光ってこんなに眩しかったっけ」

ぽつりと言葉が溢れた。

「自分で扉開けたんだね」

彼が言った。その意図に少し憎たらしく感じる。

「わざと閉めたでしよ」

「いや偶然だよ」

彼は楽しそうに笑った。

「ここの扉は自分で開けるからいいんだよ」

「そうね」

何も言い返せなくて頷くことしかできなかった。

「ここって何故立ち入り禁止なのかな」

ふと疑問が浮かんだ。

「なんでだろうねー。風の強さも、日の眩しさも、温かさも体験しないと分からないのにね。知らなかったらこの美しい世界を生み出すことはできないのに。知識だけじゃ想像以上の感動はない」

彼はまっすぐ前を見据えて言った。この人が生み出す世界で生きてみたい、純粋にそう思った。

「もしかしたら、ここの規則は破った時のためにあるのかもね」

わかるようなわからないような。少なくとも彼の言葉の全てを否定することはできない。

「ただの風景じゃなくて、自分の意志で見る美しさだから格別なのかもね」

彼は悪戯っ子のような顔で笑った。しばらくの間お互い何も話さず、静かな時間が過ぎていく。

「また、いつでもおいで」

突然、彼はそう言って出て行った。私はもうしばらく辺りを眺めながら自分の作りたい世界を考えていた。

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