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35. 人を増やす(上)

 商売について人を増やすことにした。行商は行商で人の役に立っているしそれなりのもうけはあるが、もう少し他のこともしてみたい。


店も出したし、他のこともしてみたいし、外の世界も見てみたい。それにはいっぱいいっぱいで回しているようでは困る。



 商売の方はだんだん信用が出て来たのか、しかもアランのファンやシンディのファンが貢いでくれるからか、いや俺のファン(かわいいと言ってくれるおばさん)だっているのだけれど……、ともかく商売はわりと順調だ。



 給料は以前より少し増えて1人1月に20万ほどになった。異世界転生物だとチートを使って大儲けするのがふつうの気がするが、そうはうまくいかない。


いちおうチートは持っているのだが、他人にばれると危ないことになるので、そんなに気軽には使えない。


チートを持っているのに月20万は安いが、週の実働時間は20時間ほどなのでまあまあそんなに割は悪くない気がする。あのブラック時代よりは間違いなく割はいい。




 ただ勤め人の給料と自営業の給料を比較するのはあまり適切でない。ばらつきが小さいというのは明らかに価値があることだから、少しくらい低くても安定している方がいいともいえる。


もっともあのブラック企業は安定しているかどうかかなり疑問だ。ただでさえ少ないボーナスがとつぜん吹き飛んでいたりしたし。もっとも少ないボーナスが0になるというのは分散としては小さいのかもしれない。そんなこと言っていてもむなしくなるだけだし、何の救いもないけれど。


ついでにいうと今の世界では役人やら大組織の従業員など以外は不安定な仕事ばかりなので、仕事が不安定でも仕方ないところはある。


日本だって戦前は給料の遅配が起こるような会社はそこらじゅうにあったらしいから、この社会でもそれが自然と思う。






 行商を始める前は他の店より高いしそんなに売れないんじゃないかと忠告してくれる人もいたが、わりと勝算があった。


日本でコンビニを見ていたので少しくらい高くても便利なら買う人も少なくないと知っていた。


コンビニに比べると早朝や深夜営業がないどころか、1日3時間ほどの営業だが、それでも遠くまで行きたくない、近場で済ませたい人はいる。


営業時間が短いのは効率をよくするのとブラックにしないためだ。




 ところで中心街にある店は、日本の地方都市の売れない商店街みたいに、一度入ると買わずに出にくい雰囲気がある。


うちの露店はちょっと見て何も買わずに通り過ぎても構わない雰囲気になっている。そこもたぶんいいのだと思う。



 店もできたので3人では回しきれない。1人当たりの売り上げも以前より増えて金銭的にも余裕がある。もちろんやみくもに商売を広げるわけにはいかない。


どこかに上限はあるはずだ。日本の流行りのチェーン店だってやみくもに増やして飽きられてつぶれた例はいくらもある。行商の地点を増やせば、共食いになる可能性は多々ある。



 そうは言ってもまだクラープ町の中心街から遠い当たりで行商の需要はある。


実は新しいタイプの行商なのだ。産地から直接何かの単品や野菜を2~3種類持ってくる行商はよくある。


複数種類のものを持っていく行商となると村などでは見かけるが街中ではあまりない。どうしても街の店舗より割高になってしまうからだ。それでも遠くに行かずに済む便利さで日本のコンビニのように受けているところもあると思う。


ただこれはそんなに難しい商売ではない。だから他の店が参入する前にノウハウや仕組みやブランドを確立して優位に立っておきたい。




 話し合いのためにシンディ・マルコ・アランと家に集まることにした。アランを見てクロは警戒しているようだ。アランはちょっと残念そうだ。さすがのアランの瞳きらりもメス猫相手には通じないらしい。


神はクロの瞳ぎらりに完全に魅了されて、また骨抜きになっているのだが。


「クロちゃん、悪い人じゃないからね」


何度か来ればクロもアランに慣れるだろうと思いかけて、クロがちっともシンディに慣れないことを思い出した。エサで釣ろうにも、いまもきている暇人かみの出すのに比べると遜色があるだろうし。




 それはともかく会議を始める。


「商売が順調なのでもう少し手を広げたいと思うんだ」

「確かにうまくいっているわね」

「ああ、いい商売だと思うぞ」

「なかなかうまくいっているようでいいね」


マルコは直接かかわっていないからか控えめだ。




「店も出したし、行商先を増やしたとして、勤務が多くなるとつらくなるだろ、人も増やさないといけない」

「いまだってずいぶん楽なのにね」

「うちは朝から晩までへとへとだよ」


マルコの修行先の方はあまりうまくいっていないようだ。そういえば奥さんのカテリーナは良さそうな人だったが、主人のマルキはあまりいい感じではなかったな。


マルコがこちらに来てくれたら助かるが、ただすぐにマルコをこちらに引き抜くのはうまくなさそうだ。


仕入れは向こうの店に頼っているし、それは他の店に頼めば何とかなるにしても、マルコの伯父さんだから簡単に関係を切るのもまずいように思う。


「おかげで歌の練習の時間が取れて助かるよ」


アランが歌手で人気が出ないのは歌の巧拙ではなくて他のところのような気もする。歌は結構うまいけど、なにかコンサートがのらない。


売りたいならプロデューサーにあたる人をつけた方がいいと思うが、そういう心当たりもないし、それで本人が幸せになるかどうかは別問題だ。売れるけれど歌いたくない歌を歌っている歌手はいくらもいる。




「どれくらい広げられそうかな」

「もう10人くらい雇って街の隅々まで店を出したらいいわね」

「威勢がいいな」

「そりゃまずいよ。共食いが起こるよ」

「共食いって何?」

「例えば隣り合うA地区とB地区があって、いまAだけに店を出しているところBも出したとする。そうするとB地区でAに近いところに住んでいる人はいままでAに買い物に行っていたのに今度はBに買い物に行ってAの売り上げが減ってしまうんだ」

「ああそうかあ、うちの店同士で売り上げを食い合っちゃうのね。増やせば増やしただけ儲かるわけじゃないのね」



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