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お店を出す(下)

 新しい店舗での実際に仕事を始めてみる。ちょっと前から近くでの行商のときに新店舗開店を知らせる。


それから行商の初めのときもそうだったが、セールをする。ただ今回は赤字になるほどまではしなかった。


店を開くのは週に2回で10時から14時までだ。そこまでたくさんの来客があるのかどうかわからないことと、店員のシフトがきついからだ。




 開店当日はささやかながら飾りつけをする。シンディとアランも来てもらい、さらにリアナとエミリーも来てテープカットをしてみた。


さいわい告知やセールのかいあってか開店を待つお客さんに囲まれてのスタートとなる。写真でもあるといいのだけれど。もしマルコが来ていれば絵を描いてくれたかもしれない。




 残念なことにマルコは来ていない。抜けられなくてごめんと言われてしまった。あちらの商会は大丈夫なんだろうか。どうもブラック臭がする。


こちらの社会では有給休暇が制度化されているわけではないが、ふつうは大事な用があると言えばよほどの事情がない限り休ませてくれる。


店主のマルキは支配欲か何かとらわれているのではないか。そういえば日本で勤めていたブラック会社の上司連中は有給休暇があっても休ませなかった。




 有給休暇を取るときに理由を聞いて審査なんかしちゃいけないとなぜわからないんだ。だけどみんな無気力化して逆らわなくなるんだよな。


組合なんて上等なものはなかったし。事故前に記録取って労基署に駆け込めばよかった。人手不足になっていたからつぶれても次の職があった気もする。


休暇取らせると損した気分になるのかもしれないが、あんたらの非効率な仕事のやり方で損している分の数十分の一だと思うぞ。




 そんなくだらない前世の愚痴はともかく、客の入りを見ると俺の店の幸先は明るいように思う。軽食を試食用に少しずつ配る。もちろん横では売っているので何個もはあげない。


あまり多くないがどうしても何個ももらおうとする客が出てくる。もらわないと損すると思っているのだろうか。前世の上司もそうだが、ものすごくネガティブな情動というか原動力だと思う。


そういう情動を煽って、買い物ポイントか何かで操ればこちらの得になるかもしれないが、手間が増えて面倒そうだ。


コンビニとかであのポイントで増えた労働分は回収できているのかな。それとも労働強化で会社は損していないのか、よくわからない。




 数日店を開いて、さいわいにして売り上げも上々で、開店してよかった。ただやっぱりシフトはきつくなるので人を増やさないといけない。



 一つ予想外によかったのは行商の拠点として想像以上の効果を発揮したことだ。いま行商は仕入れ先である中心部にあるドナーティ商会を拠点に行っている。


つまりどこに行くにしても中心部からスタートしないといけない。ところが今度店舗ができた。店舗の倉庫にものを置いておけば店舗近くの行商先は店舗を拠点にできる。


実際には生鮮品などは相変わらずドナーティ商会から出ないと持っていけないが、それでも流通がずいぶん楽になる。


日持ちするものを大量に店舗に置いておいて、生鮮品は当日満載で持っていく。店舗に半分生鮮品を置いて、開いたところに日持ちするものを入れる。


そうすると行商用の荷車に生鮮品とそれ以外が入るし、店舗にも生鮮品を持っていくことができる。




 なおロバのフルールはまだまだ余裕がある。いまは1日1時間か2時間しか歩かせていない。

全く無理はさせていないし、力が有り余っているくらいだ。


もちろん動物相手でもブラックは嫌だからキツそうならロバを増やすか外注を頼もうかと思う。



 はじめに出店したときはそこまで考えが及ばなかったが、実際に拠点があるのは楽だ。行商はある意味根無し草だと思う。


何でもかんでも持っていかないといけないし、何でもかんでも持ち帰らないといけない。


それから店があるとゆっくり休むこともできる。



 シンディ・マルコ・アランと話す。


「行商しているとつらいこともあるけど、店ができると楽でいいよね」

「別に今までも大変じゃなかったけど。一日4時間くらいでつらいの?」

「うん、フェリスは本当のつらさを知らないと思う」

「フェリスはなんでもうまくいきすぎで、客の来ないつらさを知らないような……」


何を言っているのだ。こちとら元ブラック勤務だ。少しくらいの前世知識でうまくやっているなんだぞ。若い体で疲労がなくても精神は疲れているんだぞ。……と考えていてむなしくなった。


「そういうけど、店ができていろいろいいことあるだろ」

「まあ、そうね。一休みできるところはいいわね」

「店を持っている商人は行商よりやはり信用が違うよ」

「雨の日なんかは楽だな。荷車だと雨除け作っても煩わしいし」


わりと好意的な評価を得られていると思う。そこで目指すところだ。


「いまは南側だけしか店がないが、東西南北それぞれ1店ずつを目指そう」

「それだけ支店を持っている商人もすごいわね」

「売り上げとか考えている? 勢いだけだと危ないよ」

「お客さんが僕に会えるお店が増えるけど、僕が一つの店にいられる時間は短くなるし……」


またアランが妙なことを言っている。コンサートの入りも悪いみたいだし、本人も店に出たいみたいだからシフトを増やすか。もちろんきちんと給料には反映させるけど。


マルコの言うことはもっともだ。売り上げが上がらないのに店だけ増やすのは危険だ。


ただ少しくらい高くても遠くの中心街まで行かずに近くで買うのが定着してきたのと軽食人気で、けっこう売り上げは上がっている。軽食の方は売り切れで手に入らないほどだ。



 ついでにもう一つ考えていることがある。セレル村でしていた郵便や宅配だ。


クラープ町では手紙や荷物を1つずつ運んでいる。これをまとめて運ぶようにすれば、効率も上がるし需要も伸びるはずだ。


そんなわけでそれほど心配はしていない。もちろん南側に出店した店の運営状況を見ながらだ。




 店を出すにしても人を雇わないといけないのだ。3人では絶対に回せない。今もときどき手伝いに入ってくれている人はいるが、それでも無理だ。


だいたいゆとりというかのりしろというか、そういうものがないと恒常的な運営はできない。だから人を増やすのは必要条件だ。


ただやみくもに増やすのもどうかと思う。日本のチェーン店でも無理に急激に拡大して、従業員教育が全くできずにあっという間にしぼんだところはいくつもある。


日本は求められる接客レベルが高すぎて、地球の他の国やいまの世界とは状況が異なるが、そういうことはありうると思った方がいいとは思う。とりあえず人は1人取らないといけない。


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