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お店を出す(上)

 10歳の秋にお店を出すことになった。正直に言うと念願というわけでもない。なんとなく行商の延長線上でなってしまったというのが本音だ。


とはいえ行商から初めて店舗を持つというのは、商人としては出世である。

素直に喜べないのはまだ行商の方が本体でお店の方はおまけだからだろう。


売り上げの規模は行商の方がずっと大きくなるだろうし、だいいちお店の方も1日中開けられるわけでもない。



 お店を出店するのは行商の売り上げが多く売り切れが出ていた地域だ。幸い空き店舗があったので安く借りた。


売り切れと言っても週に1回3時間くらい行って売り切れになるくらいなので、それを毎日8時間開店などということはできるはずもない。


とりあえず週2日で1回4時間くらいでいいような気がする。もし売り上げがよいようなら週3など少しずつ増やせばいい。




 店を出すことを仕入れ先のマルコの本家のカテリーナに話したところ、商業ギルドへの登録が必要とのことだった。


行商だとその点はあいまいで、必ず登録しないといけないわけではないが、店を構えるとなると登録しないといろいろ面倒があるらしい。なんとなく気が進まないが、ギルドに向かう。



 商業ギルドで用向きを言うとマスターのパストーリ氏と面会となる。50代くらいの白髪で少しふくよかで割と理知的な感じの人だ。


そこで一通りの説明を受け、分担金などもあるという。分担金は1店舗の小商いだと年額3万とのことだった。まあ保険かと思って支払う。ところが後からそれに文句がついてきた。




 そのことを聞いたパラダ商会の主人からフェリスはかなり手広くやっているのだからもっと取れと言ってきたのである。


行商を15カ所くらいしているので、店と合わせて16店分取れとのことだった。どうも話を聞くとそちらの商会は最近売り上げが減っているらしい。


そこに来て10歳の子どもが派手に稼いでいる、あいつのせいで売り上げが減っているのではないかと意趣返しをしているのが実情のようだ。




 そうは言っても行商ではそもそも登録もない。だから行商分を払えというのも無理筋だ。しかも行商は週に1回2~3時間でしかない。それを1店舗扱いするのも無茶だ。しかも行商先の広場では管理する住民の組にわずかながら使用料も払っている。


パストーリ氏に説明すると、もっともだと同意している。だが、パラダに同調する会員もいるという。


仕方なくカテリーナとも相談して、行商15カ所は週に30~45時間なのでそれを1店舗として、合計2店舗分払うことで決着した。商売が大きくなるとやっかみがあったり、変な付き合いが出て来て面倒だ。





 借り受けた店は大家が使っていた家具類が残っている。これを捨てて新しいものを買うのも面倒なのでそのまま使うことにする。


だいたい全部手作りだから家具の値段が高い。そういうわけで少しくらい傷のある家具でも捨てずに場合によっては修理して使う習慣がある。


日本だと修理代の方が高くなってしまうのだろう。物の値段を何を基準に計るべきかは難しい問題だが、たとえば食料を基準にしたとき、日本とは全然違う。


日本で1食400円で居間のテーブルが40000円のところ、こちらでは1食400ハルクは似ているがテーブルは20万近くする。物の値段の比は時代や国ごとに全く異なることが痛感される。




 それからありがたいことに店員用のスペースと倉庫がある。店員用のスペースは休んだりちょっと打ち合わせたりするのに便利だ。


行商だとこの点休まらない。それは俺が悪いところもある。行商でも暇なら休まるのだが、効率よく儲けるために忙しくしているのだ。


マルコからするとちっとも忙しくないらしいが、普通の行商からするとやはり忙しい気がする。テーブルと椅子があって休めるスペースはありがたい。


開店する前に行商用の拠点に使ってみた。私物を持ち込んだりしても盗まれたりすることも考えなくていいし、置きっぱなしにすることもできる。


居住スペースの方はさっそくシンディが防具を置いているし、アランは楽譜など置いている。

なんとなく2人は楽しそうで、店を構えてよかったと思う。




 居住スペースに少し空きがあるので、2人に何にしたいかを聞く。


「ここ、もう少し何かおけそうだけど、どうしようか?」

「そうね、打ち込み用の人形かしら」

「歌うための舞台を作るぞ」


この2人に聞いたのが馬鹿だった。おお、マルコ、なんで君はいないのだ。でもいたとしてもコレクションの保管庫か何か要求するかもしれない。




 舞台で思い出したが、ショッピングモールなら舞台があってもおかしくないな。道場まではなさそうだけど。将来大ショッピングセンターを作ったら舞台を作るのもいいかもしれない。


ただああいうものを商人自身の敷地内に囲い込むのがいいのかどうか疑問に思う。

かつての温泉地の熱海みたいになんでもかんでも客を自分の施設に囲い込んでしまうと町が発展しないような気もする。




 ともかく2人の注文はいまは意味がないので俺が決めることにする。ゆっくり休めるソファだ。寝ることができるようなのが欲しい。中古でそういうものがないか探してみたが、見つからない。

新品で買うと数十万クラスになりそうだ。


とりあえず横長のしっかりした台とクッションを用意して、壁際に寄せて寝返りしても片側からは落ちないようにする。これなら10万足らずで作ることができる。よかった。




 倉庫の方も便利だ。生鮮食料品以外なら、しばらく物を置いておくことができる。


毎回全部持ってきて、おいておくこともできず、全部持ち帰るというのもなかなか疲れるものだ。


さらに店なら配達も頼みやすい。人に頼んで商品などを持ってきてもらうと、けっこう効率的に動ける。




 あともう一つ考えたら当たり前だが、家畜をつなげるスペースがある。町だと家畜を使っている人はそれほど一般的ではない。


だけど商売だとどうしても馬かロバが必要になる。うちもロバのフルールに荷車を動かしてもらっている。彼女が休める場所が必要だ。


日本でも地方に行くと駐車場のない家は激安で売り飛ばされていたようだ。県庁までバスで15分くらいでも駐車場がなくて築古だと100平米の家でも500万しなかったりしていた。もっともバスが2時間に1本だったりするのだけれど。


それはともかく元が店だけあって家畜を休ませる設備はきちんとあるのは利点だった。


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