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商売の見直し(下)

 もう一つ考えていることがある。店舗の設置だ。品切れが起こるくらい売れているということはこんごは店を構えることも考えられる。


もちろんいま行商に行っているところすべてに店を構えるのはふさわしくないが、売り上げの多いところあたりでは検討してもいいだろう。


いまは他の店より1割増しくらいの値段で、周りからは売れないだろうと言われていたが、実際にふたを開けると売れている。


これは営業時間については別だが距離からするとコンビニのようなもので、街中まで買いに行くのが面倒だからだろう。だいたい買いに行ける人ばかりでもない。日本じゃ宅配や置き配まであったくらいだ。



 宅配については思うところがある。サザエさんの時代は御用聞きのサブちゃんがいた。2020年ころの日本のスーパーは宅配していたところもある。


もしかすると宅配がない方が一時的なのかもしれない。だから宅配をすることだって考えられる。



 店舗の設置というと金がかかりそうだが、どうやら何とかなりそうだ。町の周辺部はかつて商店だった建物が閉店して放置されているものがある。


その辺を借りればいい。買うとなるとすぐには撤退できないし、また売るのも辛そうだ。失敗して閉店したあとに住宅用に改装する手もあるが、必ずしも人口増加しておらず需要が怪しい。


少しくらい割高でも借りる方がよさそうだ。だいたい日本より借り賃が安い。日本は借り賃が経費に計上できて節税できてその分得するために借りる人が多くなって借り賃が上がるようだ。


 そんなことを考えつつ、もちろんシンディ・マルコ・アランに相談した。


「店舗を出そうかと思っているんだけど」

「あら、商人としては一つ上に上がるわね」

「店持つのは大変だよ。よく考えた? 今の形態だから儲けているんじゃない?」

「お店にくるお客さんに僕の愛をお分けしたい」


アランは客にちやほやされて最近ハイになっているようだ。コンサートもそうだといいのだが。


「ほら、最近品切れになる場所もあるじゃないか。あれを続けるとお客さんが来てくれなくなっちゃう。品切れになるほど売れるなら店持ってもいいのかなと」

「そうね、南の方はけっこう売れて11時前にものがなくなったりするわね」

「確かにお客さんを幻滅させるのはよくないね。あとは店舗にしてそれだけ売り上げが確保できるかだね」

「大丈夫。僕の愛があればお客さんも押し寄せて、売り上げなど爆上がりだ」


アランは怪しい薬でもやっていないか心配だ。そんなに店に入りたいなら、たくさんシフトを入れてやろう。


「とりあえず店を借りてはじめてみて、もしうまくないようならやめるよ。あと毎日、朝から晩までしなくてもいいと思うんだよね」

「まあ、それならいいかもね」

「人の手当ては考えておかないといけなよね」

「僕の愛を(略」


全くアランは……。とはいえ、これで売り上げの方はいいのだ。ホストクラブでも作ってやろうか。


ただチェーン店方式という、見方によってはよくないものをこの世界に持ち込んで、また悪いものを持ち込むのもどうかとも思う。




 店を出すことにするのはいいが、不動産屋がないのがネックで、出店を考えている地域の組長に話を聞く。そこから誰が持ち主かわかる。


そこで持ち主の家に行き、そこにいた中年の女性と交渉する。いきなり話を持ち掛けたので少し戸惑っている。一度閉店した跡だし、そんなに広い店舗ではないので、月に3万で持ちかける。


「こんにちは、この近くに行商で来ているフェリス・シルヴェスタと申します。

ここで店を出したいと思っていますが、こちらの店舗をお貸し願えないでしょうか?」

「え? そう言われても、ちょっと私わかりません」

「月3万ハルクで借りたいと思っています。また参りますので、ご家族の方とご相談願えないでしょうか。こちらうちで出している軽食なのでどうぞ」

「はあ、ありがとうございます。相談しておきます」



 1週間ほどしてまた交渉に向かう。今度は夫と思われる中年男が応対した。


「話は聞いとる。まあ貸してもいいが、家賃の方はもう少し考えてもらえないか?」


確かに交渉の初めなのでこちらに有利な値段で申し出ている。


「とおっしゃいますと、いかほどをお考えでしょうか?」

「まあ8万ハルクくらいは」


さすがにそれは高すぎる。だいたい俺が借りなきゃ空家のままだ。


「いやぁ、それではなかなか経営ができませんね。ご存じかと思いますが、ここではそれほど売り上げが見込めないので、週に2~3日ほどの商売を考えていまして」

「まあうちはよそに借りてもらえばいいからね」


事前に人に聞いた話ではもう何年も空家のままだという。それでよく言うよと思う。

将来それが変わる見込みもないのだ。空家にしておいても物置にできるくらいで何も実入りはない。


「はあそうですか。それではぜひ他の方にお貸しください。失礼します」

「ちょっ、ちょっ、ちょっとまった」


中年男が慌てだす。奥さんが引き留めようとしている。


「はあ、何でしょうか?」

「あ、あんた、それでいいのか?」

「はい、うちとしてはいくつか店を出す候補地がありますので、合意できないようでしたら、別の場所をあたろうかと」

「わ、わかったからさ、もう少し色を付けてくれないか?」


確かに最初は安すぎる値段を提示している。長く付き合うこともありうるから、あまり邪険にすることもない。


「それでは4万でいかがでしょうか?」


男は渋い顔をしているが奥さんの方はもうそれで決めたいようで同意するように腕をつついている。


「わ、わかった。それで貸そう」


5万までは出していいと思っていたが、意外に早く折れた。あまり足元を見るのもなんなので、たまに軽食でも持っていこう。


「ありがとうございます。それではこちら契約書のひな型がありますから十分にご検討ください。また日時を決めて契約書を交わしましょう」


契約書は家を借りるときのものがあったので、それを参考に作った。


いちおう追い出したくてもすぐに追い出せないなどを入れておく。地球の先進諸国ではかつて貸主がやりたい放題して社会問題が起こったため、民法に借主保護の規定が入っている。こちらの法律でそれらがあるとは思えないので、その分をきちんと契約書に入れておく。


まだ口約束で貸し借りすることも多いが、きちんとしておいた方がいい。相手はどうもそういう書類は苦手なようだ。


1週間ほどして商業ギルドで立会人のもとに契約をする。これで店を持つことができた。


日持ちのするものなどはあらかじめ店に持ち込んでおくことにする。やはり拠点があると、いろいろと安心できる。



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