軽食のその後(上)
そろそろ軽食シリーズは一区切りです
軽食についてはけっこうなヒットになった。大人も子どもも買っていく。子どもには少し高いような気もするけれど。売り切れも何度もあり、そのたびに販売量の見直しなどを行った。
それ自体はうれしいが、前世でタピオカや高級食パンが大流行した後に大失速した記憶があるので、何とか息の長い商品になってほしいと思う。
教会学校でも、「あれもう食べたか?」なんて会話を何度か聞いたとサミュエル司祭が教えてくれた。
マルコの勤め先のドナーティ商会でもやはり手代や丁稚あたりの間で同じような会話があったらしい。
もう街中みんな知っているのかもしれない。
すると案の定、そっくり商品が販売された。いちおうどんなものか買ってみることにする。
「これどうかな、うちのマネをした商品が出ていたけど」
形はよく似ている。さっそくリアナと一緒に食べてみる。一口食べて、2人とも複雑な顔になる
「あまりおいしくないね」
「師匠はかなり試食を繰り返していろいろ工夫して調整していたからね」
わざわざそこまでしてくれてありがたい。もちろん彼の名を宣伝に使っているからでもあるのだが。
「しかもレシピさえあれば同じものが作れるわけではなくて、けっこうタイミングとか技術が必要なの」
2人の結論として、やはり競合品はうちのものに比べるとかなり味が落ちる、ということになった。
それは十分な研究もされていないのだろうから仕方ない。ただ売値が少し安いのでいくらかは売り上げが食われるかもしれない。
「それでも安いから買う人はいるかな」
「それは困るわね。でもうちのはずっとおいしいから両方食べればうちのを買ってくれると思うわ」
「安い方がいいと思う人がいるのと、うちのは高いから買わない人もいるかもしれないね」
「そうなったら悔しいわね」
「うちのものの方がはっきりいいもので、高い金額出す価値があることを宣伝した方がいいね」
CMがあるわけではないので、この手の軽食の存在について多くの人に知ってもらうのは悪くない。
あとはうちの商品が他より先行して優れていることを認識してもらうのがよさそうだ。
その線に沿ってコピーなどを考えることにする。
またやはりクルーズン市のレオーニ氏の名前は縦横に活用させてもらおう。
レオーニ氏の名前を前面に出して、元祖だと前面に出して、また商品を買ってくれた人への少量の試食なども行い、宣伝に努めた。
日本でも何かの老舗で元祖と本家が争うような話があったような。
シンディとマルコにも道場の仲間とかお店の同僚の評判などを聞いてみる。
「別のお店のは安いからみんな買いやすいみたいね」
「やっぱりそうか。うちのが売れなくなると困るな」
「だけど、やっぱりフェリスの店のものの方がおいしいとみんな言っているよ」
「うちもそう」
「それはうれしいことを聞いた。はじめ作るのは大変だったもの」
「だけどね少し高いのはいいとして、うちのお店が来るのは週に一回でしょ。リアナのお店まで来れば食べられるけど、それも午後だけだし。」
「出店を増やさないといけないか」
「それできるの? リアナにフルに働いてもらえば今の倍くらいはできそうだけど」
「そういう方法は取りたくない。ブラックになるし、どこかで頭打ちになる」
「じゃあ、どうするの?」
「ちょっと考えがあるよ」
考えているのはチェーン店方式だ。軽食なんてチェーン店に一番ぴったりのような気がする。
チェーンでも直営店とフランチャイズがある。直営店はうちで全部店を出す方式で、フランチャイズは別業者が店を出してうちは看板とノウハウを提供する代わりに、業者から加盟料や対価を受け取る。
うちが直営店を町中に出すのはちょっと無理そうだ。出店には資金が必要で、大量出店はできそうにない。
それに従業員教育が必要になり、それなりに時間がかかる。味が落ちてしまって評判が悪くなることが考えられる。管理部門も必要になってくる。
やはり競合業者をフランチャイズにしてしまう方が現実的な気がする。
「うちの商品を出したいお店にノウハウを提供してその代わりに対価を受け取ればいいと思う」
「でもそうするとノウハウを覚えたら、もう対価を払ってもらえなくなるんじゃない?」
「そう。だから粉はこちらで配合して秘密にする。あとお好み焼きのソースなんかももちろん秘密だ。
それらがないとうちの味は出せない。調理方法なんかで他の料理人が工夫すればそのうち追いつけるものは教えてもいいと思う。
単なる契約か魔法を使った秘密契約かどちらかで人には教えない条件は付けるけどね。
それ以外にも半調理品を作って後は火を入れるだけにするのもある」
「よくそういうこと考えるなあ」
そりゃまあこちらよりずっと競争の激しい日本にいたからだろう。
ただフランチャイズはブラックの第一歩にも思う。コンビニ本部は商品を無理に仕入れさせて客でなく店に売りつけている。
それで現場に無理が来る。うちでそういうことはしないつもりだが、フランチャイズという方式がみんなに知れ渡ってマネされるとそういうことも起こりそうだ。
もっとも新聞や雑誌やましてテレビやネットのある社会ではないので、広がるのはごくゆっくりだろうけど。
フランチャイズ方式もあまり人に話さないようにしてもらった方がいい。
フランチャイズのことを聞いてマルコは軽食を村に持っていく算段をつけている。
「これ、村のみんなにも食べてもらいたいね」
もちろん素直にそう思っているのもわかるが、商売の方も考えているのだろう。
ただうちであちらに直営店を出すのは無理だ。そうすると仔鹿亭に出してもらうことになりそうだ。
遠くの町にフランチャイズを広げるとなると、うちで全部するのではなく商人が絡んだりもするのかもしれない。
もう一つ考えておかないといけないことがある。レオーニ氏との契約のことだ。
うちで名前を使うことは許諾を受けているが、フランチャイズについては話も出ていない。
さっそく手紙を書いて、直接向こうに行って話しあうことになった。事前にリアナとは話をしておく。
「きみはまた次から次に新しいことを考えるね」
実は俺が考えたことではないが、この世界では俺が考えたことになるのだろう。
「まあ、マネされるなど問題もおきまして」
「マネされてもうちの方がおいしければ、みんなうちのを買ってくれるんじゃないか」
「そこまでいきわたらずに、みんないまいちのものを食べることになりそうです」
「それならそれでいいような気もするけどね」
確かにその通りなのだ。自分の店がそれなりにうまくいけば、それ以上利益を追求することもないのも確かだ。
ただそれは作れる量の上限のある料理人の発想で、レシピをもとに作る量を増やせる商人の発想ではない。
それからチェーン展開がよくないのは、ものを考える頭が1つだけになって、他はそれに従うことだろう。
そういう意味であまり広げたくない形態でもある。ただこれにした方がみんなおいしいものを食べられるし、もう一つは思い上がりかもしれないが、その方がブラックが少なくなるように思うのだ。これ自体はやってみないとわからない。
レオーニ氏はあまり乗り気でなさそうだったが、チェーン展開を認めてくれたし、さらにコントロールしやすい秘密についても考えてくれた。




