村を出歩く(上)
6月に7歳になり、それまでもロレンス司祭や彼に頼まれた村の人と一緒に外に出歩くことはあったが、そろそろ一人で出歩いてもいいだろうということになった。
とはいってもセレル村にあるものと言えば、中心部分に教会や村長の館や自警団や商店であり、あとは民家と畑と川や森くらいだ。
それ以外に森を通って5つの集落があり、いずれも村からは1時間ほど歩く。
行くところといえば教会近くの村で商店のあるあたりとロレンスの畑くらいだ。あとは教会の寺小屋で一緒に学んでいるシンディとマルコと遊びに行くこともある。
なお商店といっても、物を売っているのはマルコの家1軒だけで、あとは片隅で駄菓子やらスナックやらを売っている飲み屋兼食堂である。
この辺りの気候は温暖で、夏はひどく暑くはならないし、冬も凍えるような寒さというわけではない。
国の北部では雪も降るらしいが、村のある南部ではめったに降ることもない。なんとも快適な気候で、エアコンがなくてもわりと過ごしやすい。
「あまり遠くに行ってはなりません」
外に行こうとするとロレンスは注意する。子ども相手に言いそうなことだ。さらに続けて
「特に森の奥は危険です。子どもだけで行ってはいけません」
奥の方は木がうっそうとしていて迷うかもしれない。とはいえ、俺の場合はチートがあるので迷っても問題ないとはいえる。
「いざとなったらギフトでクロのところに戻って来れるよ」
「確かにあなたはそうですね。ただあそこは野犬もいますし、斜面もあります。けがをしてもつまらないので注意してください」
そう言われると、そうかもしれない。野犬なんて日本にいるときは意識したこともなかった。
ある天気のいい日に、午前中で教会の寺小屋が終わり、昼食をとった後にシンディとマルコと外に行くことにした。
この日は釣りに行くことにした。釣りは剣術師範のシンディの父親のレナルドに教えてもらった。
川は増水していないときは深いところでも子どものひざくらいまでなので、そんなに不安はない。
もちろん増水しているときは行かないようにとくぎを刺されている。シンディの家によって釣竿3本と、魚を入れる桶をもって川に向かう。
川べりに座って釣り針に餌をつける。餌は虫だ。初め俺はこれが苦手だった。シンディは慣れているのか平気で、こちらが戸惑っているのを見て「甘ちゃんねえ」などと言う。
マルコの方は何か考え込む様子で餌をつけていた。餌をつけると釣りを始める。釣竿の振りもシンディが一番うまい。見ていると気持ちよくなるような動作で
狙った位置に糸を垂らしている。俺の方ははじめのころはおまつりになったり散々だったし、それなりに飛ばすことはできてもなんとなく狙った位置にはいかない。
マルコは何かぶつぶつ言いながら竿を振っている。
ところが釣果となるとそう単純にはいかない。確かにシンディが一番よく釣る。魚がいる場所がわかるようだ。ただどうも見ていると竿をあげるのが早すぎるようだ。それで魚に逃げられる。
「もう少し待った方がいいんじゃない?」
「あたしの方が釣れているのだからいいの」
かなりせっかちのようだ。俺の方は技術は及ばないが、待つ方は得意だ。子どもは何か起こるとすぐに反応するが、中身が40男だと見極めるまで待つこともできる。
シンディほどではないがそれなりの数が釣れる。マルコは「これでうまくいくはずなのに」などと言いながら、あまりうまくいっていないようだ。
結局この日はシンディ7匹、俺5匹、マルコも1匹釣れて帰ることになった。シンディは道場に腹をすかせた弟子がいるので、これくらい持ち帰っても家では大歓迎らしい。
俺はロレンス司祭とクロと俺の分があればいいので、マルコに2匹あげる。マルコもマルコでぼうずでなかったので何とか面目は施せたようだ。