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軽食の完成とフェリスの料理研修(上)

 さっそくレオーニ氏の試作品を食べる。お好み焼きはやはり泡立て卵白を使ってふわふわにしていた。卵を多く使えば泡立てなくてもいいらしいが、卵は結構高い。


「うちで出すなら卵をたくさん使えるけど、フェリス君のところはあまり高くしたくないだろう?」


卵は仕入れても1個100ハルクくらいする。はじめ高いラーメン屋でトッピングでつけてもらう値段かと驚いた覚えがある。


そりゃまあ、放し飼いのちっとも効率的でないまるで向こうなら高級地鶏みたいな飼い方なら仕方ない。だけどアイディアを提供して卵の生産を効率化するつもりは全くない。動物相手にもブラックを増やすことはしたくない。


なお泡だて器は俺の作ったものだ。だいたい俺が使っていたときから欲しそうにしていたのだ。その時のやり取りはいま思い出しても面白い。

「その道具、見せてもらえるかな?」

「どうぞ、使ってみてください」

さっそくレオーニ氏はいじっている。ふだんは風格があるのに子どものようだ。

「必要でしたら用意します」

本人は気づいていないが、明らかに顔がにこやかになって、いやむしろにやついている。

「そうしてもらえるかな」

「いまのところこれしかありませんが、職人に依頼して次に持ってきます」

というわけでいまに至るのだ。またそのうちにこれが元になった料理ができるのかもしれない。



それから豚や牛の骨からとったスープで生地をといている。和風ではないが、これはこれでありかと思う。さらにピクルスを細かく刻んで入れている。徹底的に洋風だ。しばらく生地を休ませるのもいいという。




 ソースも作ってくれた。日本のソースとは異なる。店で出しているよりは単純化しているとのことだ。


庶民の軽食だし、あまり複雑玄妙なソースにする必要もない。それでもいくらかはややこしい手順もある。


材料は玉ねぎときのことトマトとにんにくが入っている。この辺はうまみの出る野菜だ。お好み焼きとはかなり違うがこれもありだと思う。煮詰めて少し甘みが出ているのがおいしい。これを少量つけて食べる。




 この辺は俺も考えていたことだが、何というか基礎的な技術が違う。こちらはやりたいと思っても一苦労だったり、ちょっと難しいところで立ち止まってしまうところ、すいすいと乗り越えてあっという間に実現してしまうのだ。あのように実力があると楽しいだろうなと思う。




 次にお焼きはやはりお湯でこねる方がよいようだ。時間がたっても固くならない。それから粉の配合もいろいろパターンを変えて試してくれた。強力粉と薄力粉を混ぜてさらにトウモロコシの粉なども入れるとのことだ。


粉の使い分けが細かいのだ。それは前世の西洋が日本より粉の使い分けが細かいのに対応するのだろう。逆にコメの使い分けとなると日本はやたらと細かいが、米を食べなれない地域はひどいものだった。


また具についても肉と野菜と漬物の基本的なもの以外に桃を煮たものや肉とチーズなど色々見せてくれた。




 トマトやトウモロコシは地球では新大陸の食材だったはずだ。すでにこの世界のヨーロッパっぽいこの国の人々も外洋には出ていると聞いている。


こちらの世界では初めからあったのか、それともやはり外洋からきて普及したのかはわからない。


あるいは大都市にいて新しいもの好きのレオーニさんだから手に入れられたのかもしれない。そうだとすると入手が難しかったり高かったりする欠点もあるが、コピー品は作りにくくなる利点がある。




 餃子の方もやはり皮が工夫されているし、変わった具の入ったものもあった。りんごの入った甘い餃子を食べたときはかなりびっくりしたが、これはこれでありだと思う。


包み方は少し違っている。だいたい俺の方も元の世界のきちんとした包み方を覚えていない。




 パンケーキも俺が作ったのと違ってきれいでふわふわだ。聞いてみると材料の配合とか焼き方とか結構面倒な組み合わせをいろいろ試してくれたそうだ。


しかも粉の方を上流で配合してしまえば、下流には秘密にできるという。レオーニさんもなかなかの悪よのぉと言おうとしたが、相手がそういう雰囲気でないのでやめた。




 粉物ばかり食べて満腹だ。1月前にレオーニさんはもっと食べていたような気もする。ともかく炭水化物づくしだ。


炭水化物を敵視する内科医やダイエット指導者が見たら奇声を上げそうなほどだった。そういえば餃子は中国では主食扱いで、ご飯とは一緒に食べないと聞いたことがある。




 俺がアイディアを出して、レオーニさんが工夫した料理の試作品を一通り食べ終わった。


「ごちそうさま」

「どうだった?」

「ものすごく満足しました。本当にレオーニさんにお願いしてよかった」

お世辞でなくてそう思う。


「喜んでくれてうれしいよ。それじゃあ、さっそく腹ごなしと行くかな」

「え? それは何ですか?」

「フェリス君に調理を覚えてもらわないと」

「え? 私が調理するんですか?」

「そりゃ君、あれだけの試作品が作れるくらいだし、しかもうちの名前を使うとなったら作れるようになってもらわないと困るよ」


実は料理は素人に毛が生えたレベルだが、元の世界のアイディアを持ってきてこちらでは珍しいものを作ってしまった。しかも名前を使われるならと言うのもわかる。


さらに散々秘密保持を強調したのはこちらの方だ。俺が調理法を知っておくのが一番いい。今日は1日調理漬けになるしかないのか。


「そうですよね。でもこれからだとまた試食とかするんですか?」

「大丈夫。かなり動いてもらうし、今日1日はかかるはずだから。あらかじめ1日かかるって伝えておいたよね」

そういえばそんなことが手紙に書かれていた。


その後は掃除から買い出しから調理と最後の片づけまでさんざん働いた。文句が言いにくいのはレオーニ氏も一緒に掃除しているのだ。それはそれでブラックにつながりかねない気もするが、まだそういう状況でないので言い出せない。


「ふつう弟子を採ったら、初めの3か月は下働きだけなんだけどね」

なんとなくブラッキーな発言にたじろぐ。


「だけどね掃除ができてないとろくなものを作れないよ。材料が悪くなったりもするからね。これはきちんとしないと」


ごもっともとしか言いようがない。なお家では調理も片付けも俺とマルコがしている。シンディはというと、食べるだけというより、外で食べてしまうのだ。


一通り掃除したつもりでもレオーニさんはまるで姑の嫁いびりのように掃除が甘いところを見つける。ものすごく細かい。


「まだここ汚れているね。拭いておいてね」


嫌味を言わないだけましかもしれない。

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