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20. 軽食をシェフに見てもらう(下)

「じゃあ、それぞれ見ていこうか」


「まず最初のお好み焼きだね。変わった触感だ。小麦粉を使っているがパンとは違うね。作るところを見ていたがずいぶん単純だ。それに野菜と肉と卵を混ぜこんでいる。

なかなかおいしいけど、ちょっと味が単調だった。あともう少しふっくらしているといいのだけれど」


それはもっともだ。まず味が単調なのはだしが入っていないのとソースがかかっていないのと紅ショウガがないからだろう。


だしはスープで、ソースは日本にあるウスターソースの亜種でない別のソースで、紅しょうがは何か漬物で代用できそうだ。


あとふっくらしていないのは長芋などの膨らませるものが入っていないからだ。パンならイーストかソーダ(重曹など)で膨らませるが、ソーダはまだないだろう。


イーストはおそらくパン種の形でこちらにはあると思う。あるいは膨らませるにはケーキのように卵を泡立てるかだ。


「それなら水で粉をとくところスープでとけば味が出ます。ついでにアクセントに少しだけ漬物を刻んで入れればいいでしょう。

それから何かソースをかけて食べるのもおいしそうです。ふっくらしていない方はパン種を入れるか卵を泡立てればふくらみそうです」


レオーニ氏は少し当惑している。


「ずいぶんすらすらと対応策が出るんだね」


それは向こうの世界の完成品つまり答えを知っていて、そこから現在のものを引き算して、足りない差分を出しただけだからだ。


何かを自分で作り上げたわけではないから簡単なのだ。もう少し試行錯誤を見せた方がよかったか。


「そこまでわかっていて試したのかい?」

「はい、いくらかは」


実はいくらかは試さなかったわけでもないのだ。だが決定的に料理の実力がないので、大したことはできない。何をしたか説明すると、まだいろいろできるはずなのにと言われてしまう。


「あれだけのものが作れて、問題点もすぐに理解できて対策が思い浮かぶのに、していることは素人みたいだ」


それは素人だからなあ。10歳の子どもだもの。徒弟に入る年齢で、しかも料理人でないのだから仕方ない。


しかもスープのもとや各種ソースや漬物がスーパーで売っているわけではないのだ。全部自分で材料から作らないといけない。どう考えても手に余る。


「フェリス君には難しそうだから、僕の方で考えてみるよ」


そういってもらえるとありがたい。




「次はお焼きだね。これはさっきと触感が違う。表面はカリカリしているし、中は少しもっちりしている。中の具は肉と野菜だね」

「味はどうでしょうか」

「おいしいし、面白い食べ物だと思うよ。中の具はいろいろ変えることもできそうだ」


それは日本でも中身はいろいろある。漬物を入れたりすることもあれば、果物を入れたりもする。


「ただ……、さっきより皮が堅くないかい?」


そう言われるとそんな気がする。冷めると固くなるのか。あれ? ちょっとまずいかな。その場で食べてもらえばいいが、持ち帰りを想定している。


レンジがあるわけでもない。しかも作り置きも考えている。これでは売れないかもしれない。


「お湯でこねればちょっと変わるかもしれないからちょっとやってみよう」


そういえばそんなことも聞いた覚えがある。


「粉もいろいろあるから」


そうなのだ。日本にいたときも薄力粉と中力粉と強力粉があるのは知っていたが使い分けはあまり知らなかった。


違いはタンパク質の量で薄力粉はケーキに強力粉はパンに使うくらいは知っている。お焼きは強力粉だったか中力粉だったかだと思う。





「次は餃子だね。さっきのお焼きと考え方は同じで具を小麦粉の皮で包んで蒸し焼きにしている。だけどかなり触感が違う」


レオーニ氏がまた食べている。あれだけ食べていたのに、まだ入るのがすごい。


「おいしいけど、やはりもう一味何かあるといいね」


餃子を作るときには肉とキャベツか白菜以外ににらとかにんにくとか生姜など香味のするものを入れていた。それに醤油や酢やラー油をつけていた。その辺が全部ないのだから味が単調なのは仕方ない。


「何か香味の野菜など入れるとよさそうです。それから塩味や酸味や辛みのあるソースを少しかけると味が変わるかもしれません」

「また問題点が初めからわかっていたみたいだね」

「いえいえ……そんな」


なにかチートばれどころか、転生者ばれまでしそうな勢いだ。ちょっと気を付けないと。戸惑っていると向こうから助け船を出してくれた。


「その辺は僕が考えてみるよ」


さっきみたいにわかっていてもできないと思われているからだろうか。あるいは実は向こう世界の記憶を再現しているだけだが、彼から見れば俺はかなりのアイディアを出していることになるからだろうか。


「それから具をいろいろ変えてみたらどうだろう。甘いものを入れてもいいかもしれない」


餃子専門店ならかなり変わった具の餃子はあったが、甘いものを入れたのはあまり見たことがない。

とりあえず試してみてもいいかもしれない。前提がないとこういうことも考えられるのかなと思う。


元の世界で甘い餃子を見なかったのは何か欠点があるのか、それとも日本では受け取る側が甘い餃子を拒絶していただけなら、こちらではうまくいく可能性もある。



「次はパンケーキか」


ソーダがないので卵を泡立てて膨らませた。けっこう膨らませる加減が難しい。


料理というのは結構材料の比率を変えてもうまくいくことが多い。前に居酒屋の店員の紹介するレシピを見たら、調味料の量が俺のちょうどいいと思う量よりはるかに多かった。店屋物はまして居酒屋のものは味付けが強いものだと思った。


ところがお菓子作りとなると料理とは全く異なり、レシピで示された量を守らないとうまくいかないことが多い。


そのちょうどいい量がわからず、よってあまりうまく膨らまず、試作段階では結構失敗したのだ。


「結構うまく膨らんでいるね」

「はい、それは散々試行錯誤しました」

「それは大変だったろうけど、もっとうまくできそうだから工夫してみるよ」

「いやプロにそうしてもらえるとありがたいです」

「あと他に何かあるかな?」

「果物を煮たものを添えるなどもいいと思います」

「それはいいね」


そういえばクリームはこちらの世では見ない。あれは生乳を放置して上側に浮いたものを集めるのではあまりに大変で遠心分離しないと量や濃度が確保できないと思う。


密閉容器に縄をつけて振り回せばできるかななどと怪しいことを考えたりする。


アイスクリームやチョコレートがあればなおいいのだが、そういうものは見当たらない。アイスはそのうち作りたいとは思う。やっぱりクリームが必要だ。


「あとはきれいな飾りつけですね」

「そう、料理もそうだけど、お菓子はそれが特に重要なんだ」


そんなこんなでずいぶんと料理を見てもらった。



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