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軽食を出したい(下)

 2週間くらい失敗というほどではないが、よくわからない料理を続けて、3人ともなんとなく粉物にうんざりしてきた。


とはいってもこのあたりでは米も見たことがないから小麦ばかりだが、それでもパンを食べたくなる。


それだけ苦労? を重ねてとうとうアランも入れて完成品の披露会となった。


シンディとマルコは粉物続きで胃の疲労会になっているかもしれない。





 初めての試作のときよりずっとうまくなった料理を並べる。3人が試食する。


「いいわね。フェリス、これならいつでもお婿さんに行けるわね」


褒められているのか、けなされているのかわからない。ただシンディは父親のレナルドからフェリスを(婿として)捕まえてこいと言われているらしいので何か考えてしまう。婿に行って道場の師範というのは無理だとは思う。


「うまいな。これ売れそうだぞ」

アランは素直にほめている。


「うーん。これはおいしいね。ただ売れるかというとどうかと思う。一度買えば家でも作れるよね」

マルコが疑問を口にする。いやマルコの言うとおりだ。さすが商人の子。わかっている。


初めは買ってくれるかもしれないが、家庭で簡単に作れるものだと継続的に買ってはくれない。日本のように忙しくて徹底的に分業する社会ではないのだ。


特殊な材料を使うとか、特別な器具を使うとか、かなり面倒だとか、何か家庭でできないことがないとうまくないだろう。




「いやその通りなんだ。自信作ではあるが、アイディアさえあれば家でも作れそうだからな。そうでなくても誰かマネして売る人は出るはずだ」


だいたい自分自身がそうなんだから仕方がない。料理の専門家でもないのに見たことがあるから俺はこれらを作っている。もっと慣れた主婦なら簡単だろう。


まして他の商人ならなおさら簡単だ。だがそれを克服する方策もある。


日本で見ていた有名店のシェフや店主が監修した食べ物だ。監修者の腕組みの写真が商品に添えられて、スーパーやコンビニに並んでいる。


どこか有名店のシェフに監修を頼み、何か家庭でできない秘密の手順を加えて、ちょっとした違いを出す。


どこの店に頼むかだが、地元のクラープ町より大都市のクルーズン市の方がなんとなくありがたみがありそうだ。商都や王都ならさらにいいだろうが、遠すぎていくのがつらい。




「誰か料理の専門家に見てもらおうかと思う」

「専門家に見てもらうと、家で作れなくなるのか?」

アランが聞いてくる。


「それはね、秘密の手順を加えて、それで何か際立った特徴を出すんだ」

「秘密の手順は教えないというわけか」

「そう。それで際立った特徴の方を宣伝して、それがないと物足りないとみんなが思いこんでくれればいい」


「ふふふ、フェリスさんもなかなかのワルだね」

「いえいえ、アランさんには敵いません」

日本の時代劇で見たようなやり取りをする。


「なるほど、それならうまくいきそうだね」

マルコは生まれも育ちも商人だからか悪徳商人ごっこに入ってくれない。



「それでどこの専門家に見てもらうの?」

「それを少し考えないといけ何だけど、クルーズン市の有名なお店のシェフに頼もうかと思うんだ」

「何で有名店に頼むの? 有名店でなくても料理の得意な人はいるわよ」

「料理を改良したいだけじゃないんだ。『有名店シェフ監修』と宣伝文句を付けて売り出したいんだ。

これはあの有名店のシェフが考えたものですよと宣伝するためだよ。そうすると売れそうだから」

「なるほどね。フェリスはいろいろ考えているのね」


いや俺が考えたわけじゃなくて日本企業が考えているのだが、それを説明することもできない。


「それで監修を引き受けてくれるお店があるのかが心配なんだけどね。ただいくらか謝礼を出してもいい」


こういう時に種銭があるのはありがたい。数十万程度なら支払うことができる。


ふつうに働く以上にお金を儲けようと思ったら、投資でも事業でもお金を失うリスクを引き受けないといけない。その時に失ってもまだ生活ができるだけの余裕資金があるとリスクもとりやすい。

金持ちがますます金持ちになる理由がわかる。


為政者に取り入って、制度を都合よくしてもらって儲けている金持ちはクズだと思うけれど。




「引き受け手はいると思うぞ。こんな珍しい料理見たことないし、店で出しても喜ばれそうだ」

そう言ってくれると安心する。


「いろいろ手立てを考えないといけないね。監修してもらったらお互いに製法を秘密にするとか、店でも出してもらうとか」

「そう、秘密の手順はできるだけ少ない人でできる方がいい。あと店で出してもらえば、こちらも宣伝するときにありがたいね」

「それで監修してくれるシェフの心当たりはあるのか?」

「それは……ない」

「それならクルーズン市にブドウを売りに行く青果商のブリュール氏に聞けばいいよ。

彼は商業ギルドでも役員をしているし、いろいろ有名店にも行っているはずだからきっと誰かいい人を知っているよ」


マルコのアイディアでブリュール氏に手紙を書いて紹介してもらうことにする。


さすがに子どもが飛び込みでレストランに行っても相手にされそうにないからだ。



 手紙を書くのも少し面倒だ。ある程度内容を考えてメモ書きを作ってからマルコに添削をしてもらう。


教会っぽい手紙は書けるが、商人っぽい手紙はマルコほど自在に書けない。


そういえば日本で外国人の取引先相手にメールを書いていたときははじめは半日くらいかけて悩んで書いていたな。


後になったら10分くらいで書けるようになったから、今度もそうなるだろう。


手紙は商業関係なら商業ギルドから送れるそうだ。それなりに送料がかかる。しかも時間もかかる。往復で10日は見ておいた方がよさそうだ。


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