恐喝とシンディ(上)
商売をしているとあまり来てほしくない客に遭遇することもある。
どう見てもガラの悪い2人組が来店する。1人は30代くらいの男でかなり大柄で丸刈り、もう1人は20代中肉中背の男で奇妙な主張のある髪型だ。
こう言ってはなんだが、粗暴さが顔ににじみ出ている。野暮ったいファッションであまりお近づきなりたくない雰囲気が強い。
店前にやってきて、でかい方が開口一番
「おう、誰に断って商売しているんだ?」
と言ってくる。元の世界でもありそうなセリフだ。ナワバリ意識がそうさせるのだろうか。
「こちらの広場を管理する住民の組に断っております」
そういうことを聞いているのではないだろうが、そう返すほかない。
「ああ?」
「いやなあ、俺たちこの辺りの警備をしていてな、警備費用を協力してもらいたいと思ってな」
わかりやすいタカリだ。店を出しているのが10歳の子ども2人とみれば与しやすいとでも思っているのだろうか。
そういえば村にいたころもチンピラのワルスに絡まれて、よく絡まれるものだと思う。
子どもが金を持っているのが見え見えなのがよくないのだろうが、行商をしていれば仕方ないところもある。
あたりに全く人がいないわけでもないのだが、あまり近づいて来ない。
しかし恐喝というのはもっと人目につかないところでするものだと思っていた。
いちおう後で言い抜けできるようにか、警備費用などと言っている。くだらない知恵だ。それなら大声を出して恐喝されていることを周りに知らせる。
「自警団の負担金は収めておりますが」
やや大声で言う。
「そんな大声でもなくても聞こえるで」
「商売をしていると大声も必要になりまして」
「ああ、そうかい。自警団とは別にな、この辺りではもっと安全にと特別の警備をしているんだ」
「ああ、そうでしたか。それではこの地域の組長とも相談してお答えします」
「おうおう、アニキが警備してやると言っているんだから、とっとと出すもの出さんかい?」
小遣い銭じゃあるまいしその日に金を出せなんて話があってたまるものか。
「私の一存ではお支払いできないので、後日返事をさせていただきます」
店主だから決める権限はあるが、10歳の子どもの姿ならこの言い分にも説得力がある。
そういえば日本では30過ぎてもNHK相手にドアを開けずに「親が出かけてます」と断っていたな。
「ああわかった。いい返事を待ってるよ」
何か凄みを利かせた風に言い捨てて帰っていく。子分が慌ててそれについて行く。
その日はそれで向こうも引き下がったが、また後日に来るようだ。
商売が終わってさっそく地域の組長のところに行って聞いてみると質の悪いチンピラだという。
「まったくあいつらろくに働きもしないで。自警団にも言っておくから、くれぐれも気を付けてくれ」
数日して、あのろくでもないチンピラ2人がまた来た。
「おう兄ちゃん、考えてくれたか?」
「組長とも相談しましたが、お支払いはできません」
「おう、なんだとぉ?」
いきなり子分の方が首元をつかもうとするのでよける。
「痛いめ見ないとわからないようだな」
荒っぽい社会だからか暴力につながる閾値が低いようだ。転生前の日本だったら考えにくいが、江戸時代などはそういうこともあったのかもしれない。
フェリスもギフトを使えばそれなりに戦えるのだが、人に見せるわけにもいかない。
体術も習ってはいるのだが、相手の方が大柄だし、実戦は初めてでいきなり脅されたら対応できるはずもない。いちおう短剣も用意してあったが怖くて使えない。
それなら方法は一つだ。三十六計逃げるに如かず。とりあえず逃げる。とはいえ、ロバのフルールもいるし、荷車もあるのでそんなに遠くには行けない。
広場を走り回り、「ドロボーだー」と叫ぶ。子分の方が追いかけまわしてくる。
親分の方は残ったシンディに詰め寄る。
「情けねぇ兄ちゃんだよな。おめぇはいうこと聞いてくれるよな」
女の子の方が言うことをきかせやすいと思ったらしい。そちらの方がずっと怖いのに。
シンディは相手を一瞥すると、あっという間に親分の利き手を取り、懐には忍ばせてあった短剣の柄で手首を打ち付けた。
俺と違いいつも携帯しているようだ。そしてすぐに逆の手も打つ。
親分は両手とも捻挫したようで、ぷらぷらしてまともに動かせていない。
「足もする?」
倍ほどもありそうな大男相手にシンディは全くひるまず、ほとんど捕食者のように相手に迫る。
男は手を上げようにも上げられず泣き叫ぶように命乞いする。




