表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/636

アランの仕事(下)

 アランが入って変わったこととして売り場を増やしたことがある。はじめは5カ所で午前だけだったが、7カ所にして午後に行く場所もできた。


クラープ町にはまだ買い物が不便な場所があるようだ。増やしすぎても食い合いになるだけなので制限はあるが、10カ所くらいは行けそうに思う。


はじめに打診して断られた広場からも住民の要望で来てほしいと言われ、すぐには無理だが従業員を増やしたときにでも行きたいと思う。


ワンオペはしないことにしているので、延べ人数として週に10人だったところ14人になり、担当者が2人から3人に増えたので少しシフトに余裕がある。


しかも誰かが週に6回以上出てもいいので、休みたい人が出てきても対応できるようになった。





 休みの日にシンディとマルコと連れ立ってアランの歌を聞きに行ったことがあった。


週休2日だといろいろできていい。そんな職場は他になくて週休1日のマルコは羨ましがっているし、アランも週休2日なので来たところもあるようだ。


町の中心部の公園では弾き語りやら大道芸やらがあちこち出ている。その中にアランもいた。アランはこちらに気づき笑顔で手招きする。


あまり人気が出ないと聞いていたので、どんなジャイアンソングを聞かされるのかと恐れつつアランの歌を聞いてみたが、別にヘタではない。


いやむしろうまいと思う。ただ広場で歌っていてもいま一つ客が寄り付かないのだ。




 なぜなのか。アランは商売のときはすぐに客を集める。だが歌うときは客が集まらない。どうも性質が異なるらしい。


歌手の人気が出るかどうかで歌がうまいのは一つの要素だが、決定的でもない。歌が下手でも人気になることもあるし、うまくても人気が出ないこともある。


人気が出た中では歌がうまい方が長く続くような気はするけれど。人気が出るかどうかは運にもよる。


フェリスにはわからないし、アランが見出すほかないのだろう。






 商売は順調だ。5カ所から7カ所へ4割増しにしたところ、売り上げは6割り増しほどになっている。アランのおかげだ。


人々の役に立っているし、長く続けられそうでとりあえずは成功だと思う。


今後の方針の話し合いでいつもは家での雑談だが、アランにも意見を聞いてみることにする。


「まあそうだね。何か目新しいものを少し置いた方がいいのではないかと。

定番のものしかないと、店に行かなくてもいいと思ってしまう人もいそうなんで」


はじめのころアランは一応俺が店主なのでよそ行きの言葉遣いだったが、シンディやマルコとも話しているうちに普段使いの言葉になりつつあった。


「そうだね。生活に必要なものはもちろん、少しは何か楽しいものがあってもいいかもね」


行商は人々に便利だが、ここで買わなくても数十分歩けば買い物に行ける。それが行けない人も多いが、行ける人も少なくない。


この社会は共働きではあるが、買い物に来るのはやはり女性が多い。それで女性に目新しく楽しいものというと、マルコは商売柄少し思い浮かぶがフェリスはまだピンと来ていない。もともとオタク気質なのだ。シンディはと言えば


「そうね、短剣か盾か兜か……」

などという調子で、どう見てもだめだこりゃである。別の意味でオタクだ。


その辺はアランがやはり年上の上に抜け目ないところがある。


「服や帽子などは大きすぎて荷車だとちょっと難しいかなと。アクセサリやブローチや髪飾りなどならよさそうだけど」


売れなくても見たいというだけでも来てくれれば、他の日用品が売れるかもしれないのだ。


「そうだね。そのあたりだと小さいから日用品をほとんど減らさずにすみそうだね」


マルコも取引先へのアフターケアなのか話に加わってくる。アクセサリなど小物を売るのがよさそうだ。


「アクセサリを売るとしてどこで仕入れよう」


「うちはあまり扱いがないからなあ」

マルコの本店にもないらしい。


「片隅でアクセサリを売っている店もあるけどね。あまり品ぞろえはよくない」

「やっぱりああいうものは大都市まで行った方がいいね」

「そろそろブドウの季節じゃない? またクルーズンに行けばいいんじゃない?」

「クルーズンに行っているのかい?」


そういえばアランには話していなかった。


「セレル村で取れたブドウをクルーズンに売りに行っていたんですよ」

「ああ、なるほど」

「じゃあクルーズンに仕入れに行く方向で進めよう」

「賛成」


適当に話を切り上げた。クルーズン行きとなるとギフトを使う話になる。


アランはよくやってくれているが、まだパートタイムだ。


将来に商会を作って幹部になるなどとなったら話すかもしれないが、今はまだ早いように思う。




 アランが帰ってから3人で話を詰める。


「ギフトの話になりそうで危なかった」

「僕らは魔法があるから割と注意しているし、警告が来るよ」

「フェリスが一番危ないかもね」


そうだった。2人は秘密保持の魔法がかかっていて洩らそうとすると警告の症状が出るのだった。


さらにクルーズンでのはなしを続ける。


「クルーズンなら前にブドウを売りに行った青果商のブリュールさんのところの手代さんとよく話すから、女性の流行りも聞いてみるよ」

「それがいいわね」


武器の好みや流行りならシンディでもいいのかもしれないが、アクセサリの方は期待できそうにない。アクセサリの形をした仕込み武器なら得意かもしれない。



 クロは相変わらずシンディが苦手のようで、シンディがいると近寄ってこなかった。


前にシンディにシャーシャー言っていたときは、シンディは「変な犬ね」とちっとも相手にしていなかった。


弱そうに見えるけどね、無敵のチートがついて、アホだけど神もついているんだよ、とは言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ