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人を雇う(下)

 司祭が人を探してくれている間に待遇を決める。本来は順序が逆だ。ただこの辺は物事が交渉で決まったり、時間をかけて変えていくので、わりとあいまいだ。


半日仕事で1か月働いて11万くらい出せそうということは分かった。マルコとも相談する。


「まだ1か月だからね。本当に継続的に11万出せるかはわからないよ。

それからフェリスのいっていた有給休暇を出すなら、その分引いておかないと回らないよ」


マルコの指摘はもっともだ。はじめは9万くらいを考えておく。ただ仕事の出来次第で昇給もありうるとする。


また業績がよければもう少し出したいと思う。つまりボーナスを出すことにすればいい。週休2日であればまあまあの待遇だ。




 フェリスはブラックでやられた経験があるので契約はしっかりしておきたいと思う。


実はこの社会ではとりあえずやってみて、なんとなく雇われることも多いのだが、後でトラブルにならないようにその辺はしっかりさせておきたい。


給与の額が大変に高いわけではないが、いちおうホワイトにはしたいと思っている。


1. 週5日半日勤務、1月あたり9万。年2回業績に応じてボーナスあり。

2. 有給休暇5日あり、ただしフェリスの都合で時季を変更する可能性あり。

3. 競業禁止。クラープ町では同じ商売をしないこと。


この辺りが主な条件で、紙に書き記す。




 数日してサミュエル司祭から手紙が届き、本人との顔合わせの日時の候補が提示された。こちらの都合のいい日を返信する。


当人がフェリスの家に来るとのことだ。手紙によると年齢はフェリスたちより少し年上のようだ。


よくあるハーレムもののように女性が来るかと思っていたが、男だった。ただその方が都合がいいところもある。


いちおうワンオペにはしないつもりだが、1人で客に応対することもある。その時に女の子1人だとやりにくい。


シンディは1人で客の相手をすることもあるが、気が強いし、戦いになればもっと強い。


理詰めの議論になればそうもいかないが、あまりないだろうし、そうなったら出るところに出てフェリスが相手をすればいい。


客との対立の場面でなみの女の子ではシンディほど強く出られない。


「女で道場に来ているのもいるけど、あたしに敵うのはほとんどいないわね」


そりゃそうだろう。いちおう大人ならシンディより強い女性もいるらしい。だがそれもいま10歳のシンディが成長したらひっくり返るのだろう。




 さらに数日後の午後、フェリスの家に来客があった。シンディは道場に行っているし、マルコはドナーティ商会に行っている。フェリスはクロを膝の上にのせていたが、横にどいてもらって玄関に出る。


「はじめまして。フェリス・シルヴェスタさんですか。サミュエル司祭の紹介で来たアラン・ドブレーですっ……」


聞いていた通りの少し年上の男だった。子どもであるフェリスを見て、あいさつしたということは司祭から仔細を聞いているのだろう。


そのあとも言葉が止まらないので適当なところでこちらも話し出す。


「はじめまして。フェリス・シルヴェスタです。今回は我々のしている行商を手伝っていただきたくお越しいただきました」

「いやいや、こんなにお若いのに商店主とはすばらしい。私ももう少し甲斐性があれば自分のお店をもって稼ぎたいものです。さて……」

相変わらず立て板に水だ。どうも口から先に生まれたような雰囲気である。


フェリスは容姿はわりとよいが中身はオタクっぽいし、マルコもそうだ。ちょっとアランとは毛色が違う。ただ同じタイプの人間ばかり集まるのも、発展性がないような気がする。


サミュエル司祭が紹介してくれた人だし、嫌な感じはないのでとりあえず一緒に仕事してみようと思う。




 アランは赤毛の中肉中背だが、フェリスより年齢が上のためもちろん体は2回りほど大きい。目が大きくわりと派手目の顔だ。


しばらく話して、その間もあちこち脱線するし、フェリスは言いよどむことも多いのだが、アランが15歳であること、歌手を目指して活動していること、そうは言っても稼がなくてはならないこと、歌手活動のためフルタイムの仕事は避けたいことなどが分かった。


なおこの国では15歳から成人で、雇うことになれば唯一の成人となる。もっとも商売人は商売に関しては成人扱いだから、商売ではフェリスたちも成人ではある。




 はじめはお互いによそ行きの言葉だったが、これから仕事をするのに面倒だということで、平常の言葉で話すことにした。フェリスはさっそく仕事の説明をする。


「午前なら朝は8時にドナーティ商会の厩に行く。ロバと荷車を用意して、荷車に商品を詰める。それからその日に決められた販売地域に行く。


9時ころから商売を始めて11時に終わる。出先の広場では物を売りつつ御用聞きをする。聞いた内容は帳面につけて翌週に持参する。


終わったらドナーティ商会にロバと荷車を置いて、支払いを済ませる。午後ならこれが全部5時間後ろにずれたものになる。それが1日の仕事だ」


アランはメモを取っている。これは助かる。確かに若い世代は識字率が高いが、それをきちんと使ってくれるのは頼もしい。


「なるほど。8時に厩、ロバと荷車と商品をとって売り場に行き11時まで商売、御用聞きあり、戻ってロバ・荷車を置いて清算。午後も同様と……」




 その上で労働条件を書いた紙を渡し、翌朝までに読んで、仕事をするにしてもしないにしても返答に来るように伝える。


その場で契約させるようなことはするべきでないし、必要なら誰かと相談してもらいたいのだ。


明日来て、仕事をするならそのままシンディと3人で研修がてら仕事を始めればよい。




 この日は家に帰り、アラン相手に会話がスムーズに進まなかったことを気にかけて、クロ相手に「アランという人が来てね……」などと話しかけた。


クロはいつものように寝ている。よしよしと言っているようにも見える。横では神が「そんなことでクロ様を煩わせんでもよかろう」などと余計な口をさしはさむ。


まったく居候のくせしてと思う。


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