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寺子屋(上)

はじめてのブックマークもいただきました。評価やいいねもありがとうございます。

 ロレンス司祭は教会で読み書きを教えている。自給自足だった村も外部との交流が増えてきてたためか読み書き計算が必要なようで、子どもに読み書き計算を習わせたい家が多い。


だが村で人に教えるほどの読み書き計算ができる知識人となると、村長と司祭と商人程度である。そこで司祭であるロレンスが子どもたちを教えている。


ロレンスが一斉の授業で教えることもあるが、多くのときは子どもがそれぞれ本を勝手に読む。それを司祭が見て回る程度である。いわば寺小屋のようなものだ。




一斉の授業のときは聖書の内容を教えて、子どもに復唱させている。あるいは暗唱などだ。村では高度な学問は必要ないし、司祭もそこまで教えきれるわけではない。


さらにいえば労働力としてはまだ役に立たない子どもを、半分は親が構うのが面倒で教会に送ってきている。


だから今のフェリスと同じような年代の子どもが多い。それ以上になると家の仕事の手伝いをするようになるし、より高度な学問が必要なら隣町のクラープ町や遠く離れた都市に出るしかない。


なお授業料は親が野菜やら麦やらを子どもに教会に持ってこさせるくらいである。いちおう司祭も畑を耕しているのだが、専業農家ほどの収穫はないので、ちょうど分業になっている。




 フェリスはかなり小さいころから寺小屋に入り浸っていたので読み書きはかなり得意である。だいたい中身がおっさんなので勉強の仕方くらいは知っている。


小さいのにずいぶんとよく勉強する子どもだとロレンスは感心していた。そりゃ今度こそはまともな職について、9時5時のふつうの生活をしたい。


いや何も仕事せずに猫でもなでて過ごせるならその方がいいのだが、それは神の奴が許してくれない。神が猫の繁殖を可能にしたら、猫カフェのマスターでもするのがいいかもしれない。




 寺小屋ではめいめいが勝手に本を読んでいる。俺は少しレベルの高い本を読んでいる。ロレンスは自分の読書や仕事の片手間だったりするので、ずっと子どもを見ているわけでもない。


俺のひじを突っついてくる女の子がいる。同じ年のシンディだ。読み方がわからないところがあるらしい。俺はもうずいぶん前に読んだ本なので、読み方を教える。


「よくこんなの読めるわね」

「もうずいぶん前に読んだので」

「教会の子だものね」


ちなみにシンディの親は剣術道場をしている。この世界では近代兵器があるわけでもなく剣で成り上がるものも多い。剣術が盛んになるわけだ。


とはいってもこの小さな村で道場だけで食っていけるわけでもなく、もちろん兼業農家でもある。


「なんで、読み書きなんて必要なのかなあ?」

「それは村の外の多くの人と関わると読み書きも必要になってくるよ。国からの布告なども文書で来るしね」


女の子とまともに話したのもいつぶりだかわからない。小学校や中学校ではこんなに親密ではなかった。クラスが小さいのもなかなかいいかと思う。


「契約文書を読むにも必要だね」

マルコが口をはさむ。村唯一の店の子だ。


「契約って何?」

「契約というのは大人のする約束事のことで、後で言った言わないの争いを避けるために文書にしておくんだ」

出てくる例が商人らしい。


「それでもし文書が読めないと、こちらにとって都合の悪いことが書かれているかもしれない。たとえ口で約束していても、文書の方できまってしまうんだ」

「どういうこと?」

「男Aが男Bと約束して文書にしたとする。ところがAが読み書きが苦手なのを知っていたBは自分の都合のいいように文書を作って、Aに署名させた。

BはAを都合よく使おうとしているのでそのうちトラブルになる。だけど口約束では言った言わないで埒があかない。

領主様の前で裁判になったときには、文書が約束の内容だとされるんだ」

「じゃあ文書が読めないとだまされてしまうのかもしれないのね」

「その通り」

「はあ、勉強するしかないのかあ」


年が同じだけに、この2人と話すことが多い。



 計算は商人の子だけにマルコが得意である。フェリスは日本の高校数学が頭に入っているので計算はお手の物である。


ただ表記法がいろいろ異なっていて不便を感じることも多い。フェリスの書いたものはそのまま他の人に理解されるわけではない。


だから自分の手元の紙にだけかいて、過程を述べずに答えだけ出してしまうことも多い。それでロレンスに不思議がられる。


おおむねフェリスの表記の方が合理的なので、そのうちこれを公表して塗り替えてしまってもいいかと思っている。


どうやら寺小屋では四則演算程度しか教えていないようだ。田舎の村だからかもしれないが、社会の発展から見ると最先端でもこれより少し上程度で、高校数学までは行かないのだろう。



 ところでクロは俺とロレンスだけのときは暇になるとすり寄ってくるが、子どもが来ているときは来やしない。それはまあ子どもというのはしっぽを引っ張ったり、荒っぽく抱き上げたりと、猫にとっては天敵かもしれない。だから寺小屋のときは、寝室か居間あたりで丸くなって寝ていることが多い。


とはいえ、一番しつこくて子どもである神相手には、クロは最近すり寄っている。もうすでになれたのかもしれないし、うまい飯をくれる一の手下なのかもしれない。


しばらくは1日2回更新していきます。

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