5. 人を雇う(上)
すいません、元ファイルから初めコピペミスしていました。修正しました。
行商をしているうちに行商が必要な場所は5カ所ではとても足りないことが分かった。
実は行商に行って話を聞くとその場所からけっこう離れたところから買いに来る人がいるのだ。
「ここで店をしてくれて便利ね」
「どちらからいらっしゃいました?」
「もう少し南の方に20分くらい歩いたところ」
よくよく聞いてみるとやはり中心部が遠く近くに店もなく買い物が不便な地域が他にも多数ある。
だが俺が1地点に毎週1回行くなら5地点しか行けない。もちろん1日に2回行けば倍になるのだが、倍にしたところで解決する話でもない。
そもそも俺は落ち着いてきたら魔法塾に行くつもりだし、シンディは道場に行っている。はじめから倍にはできない。さらにシンディはフェリスも道場に連れていくつもりだ。
ここは人を増やすしかない。だいたい別の理由でも人を増やさなければならないのだ。それはセレル村でもそうだったが俺が休めないことである。
「あー、つらい。全然休めない」
「仕事しているんだから仕方ないでしょ」
「フェリスもやっと仕事がどれだけ大変かわかったみたいだね」
こいつら、俺がセレル村で配達の仕事を毎日していたとき、一緒に遊べないとなじっていたのを忘れたのか。
ついでに言うとそうやって仕事を神聖視すると資本家の思うつぼだ。あいつらはそれを利用して搾取するんだからな。
「そうは言うけど、今の俺は休めないぞ」
「働いていると言っても、午前中だけでみんなより楽じゃない」
「週末は2日も休んでいるし」
それはそうなんだが……。確かに他人より楽だ。ただ有給休暇のようなものがない。
「例えば俺が病気したら、買い物に来る人は困るだろ。店を出すと予告しているのに、店が出なかったら信用も無くすだろうし」
「確かにそうね」「確かに」
2人は納得している。さらにもう一押しだ。
「クルーズン市に買い出しに行きたいのだが、あそこまで行くと3日かかる。今の状態じゃいけない」
「なるほど」
「それでだ。休みたいと思った時に1年のうちに10日か20日は休めるようにする制度を作ればいいんだ」
「お給料が少ないとあまり休めないよ」
「休みたいときに勝手に休まれたら親方は困るんじゃない?」
想定内の反論が来た。これらはすぐに再反論可能だ。
「長く勤めている人には年間に10日か20日分は給料は出せばいい。あと休みたいときに休めるように人を配置しておかないと、それこそ病気の時に困る。だからそれだけ配置しないのは雇う側の責任だ」
あの馬鹿ブラックの上司どもは「有休など取ったら他の人間が困るだろ? 責任とれるか」などと口癖のように言っていたが、責任とるのはお前の方だと言い返したかった。言えなかったが。
「それなら親方の方は大変になるね」
「それができないならそんなのは親方になる資格はないとすればいい」
「ところで今はフェリスが親方だよ」
そうなんだよな。有給の権利は雇われている側のもので雇っている側の者ではない。その辺はややこしいが、とにかく休めるようにしないといけない。
「ともかく、この後に誰か雇うことになったときにその人が休んでもお店が回るように人を配置しないといけない。そのためにも人を雇う。雇えないような商売をしている人間は親方になれないようにする」
無能な者がやりたいとかかっこよさそうだけで上に行かない方がいいんだ。
「何人もが一斉に休んだらどうするの?」
「さすがにそれは日を変えてもらうしかないな」
時季変更権が経営者にはある。
ただ盆とか正月とかみんなが休みたいときはある。そういうときは手当を出して、余計にもらえるなら仕事してもいいという人が出てくるようにすべきなんだ。
さてこの社会で人を雇おうとすると、求人情報誌やハローワークがあるわけでもなく、人づてで探すのがふつうだ。
単発の請負仕事なら冒険者ギルドにでも依頼して条件が合えば人も来るが、今回の仕事は継続的なものである。あまり冒険者向きではない。
そうすると商業ギルドに頼むか知り合いに紹介してもらうか、そのあたりとなる。
とりあえず商業ギルドは加入していないのでパスする。いちおう商売はしているが、まだ個人事業だ。そこで教会のサミュエル司祭のところに行く。
相変わらず俺の部屋に入り浸りで猫なでばかりの神を信仰はしていないが、社会の一部をなしている教会にはわずかながらも寄付はしているのだ。ロレンスの伝手もある。
ところで村の教会にいたころはクロは別の部屋にいることも多く1人になれる部屋があったが、いまは多くの時間にクロと一緒でということは神がいるので煩わしい。
クロと一緒はうれしいのだが、おまけの方が煩わしいのだ。次に引っ越すときは広い家にしよう。
それはともかく、行商の手伝いをするのにだれかよい人がいないかと、いくらかの布施をもってサミュエル司祭に相談に行く。
「少し商売を広げたいので、どなたかいい人はいませんか?」
布施はセレル村だと物が圧倒的に多いが、クラープ町だと物とお金と半々くらいらしい。
「さっそく人を雇うとはずいぶんとうまくいっているのですね」
聖職者の中には偉ぶったのもいるが、サミュエルはそういうところがない。
いちおう商売を始めた後にもあいさつに行ったのだが、まだ始めたばかりで右往左往していたころだった。
半日仕事であり、行商に行くことを伝える。サミュエルには心当たりがあったようで、さっそく請け負ってくれた。
「それでは本人に聞いてみるので数日待ってください」
あてがあってもなくても連絡をくれるとのことで、礼を言って教会を後にした。
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