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行商はじめ(下)

 1か月ほど続けていて客入りも仕事も安定してきた。そこで問題も起こる。夏になり雨がよく降るようになってきたのだ。


日本と違い、ちょっとでも欠陥がある商品がすぐに売れなくなるわけでもないが、それでも水濡れするのは避けたい。


荷車が棚にでもなっていればよかったがそういう形ではなく、直方体のただの箱で上が開いていて幌をかぶせるようになっている。


移動中は幌で雨はよけられるが、売るときは幌を開けないと売り物が見えなくなってしまう。


いろいろ考えて荷車の4隅に柱を取り付けられるようにして、1mくらい上側に幌をかぶせられるようにした。


ついでに買い物中の人が濡れないように雨の日だけはパラソルを持っていく。




 続けているとやはり慣れてきて仕事もうまくなる。


「もうそろそろ1か月だけど、結構慣れて来たよね」

一緒に仕事しているシンディに話しかける。


「そうそう、はじめ移動中に段差で引っかかって大変だったけど、いまはうまく避けているものね」

「そういえばそんなこともあったなあ」

「あと荷車に商品を詰めるのもずいぶん早くなったわ」

荷物の詰め方も売りやすいように工夫しているのだ。


「詰め方がうまくなったから、どこに何があるかすぐにわかるようになってすぐに渡せるようになっているよね」

「本当にうまくなったよね、あたしたち」


お釣りの渡し方も早くなった。ICカードがあるわけではないので、お金のやり取りをしないといけない。しかも金貨・銀貨・銅貨などがあるが十進法ではないのだ。


村にいたころ商売をしていた時は少し慣れていたが、それ以外ではあまりお金を使わなかったのでしばらくぶりだった。そんな感じでいろいろと手ごたえのある1か月だった。




 あるとき客からもっと早く店を開けるように言われる。早起きは素晴らしいことだと。フェリスには早起きがなんでそんなにいいものかわからない。


だいたい無理に早く起きると仕事もはかどらないし体に悪い気がする。老人は早く目が覚めてしまうようで、努力しなくても威張れるのがいいのかもしれない。


あるいは早起きをよいものとして称揚するのは長時間労働させたい資本家だろう。フェリスも将来は資本家になりそうだが、早起きは自分はもちろん他人でも避けたい。


だから早起きなど美徳でも何でもないと思っている。ただ1つだけ猫は早起きで、目が覚めておなかがすいたり退屈していると起こしてくる。


ただフェリスはあまり起きないので、村にいたときはロレンスが起こされて世話をしていた。あれは人以上の存在だから仕方ない。


そうは言っても猫は早起きはするがまたすぐに寝てしまう。本当に勝手で仕方ないものだと思う。





 さて1か月の収支としては、2人で働いて35万余りの利益が出た。家賃の6万5千はドナーティ商会で働くマルコと3人で払うので1人は2万2千ほどだ。


それ以外に食費や被服費などいろいろかかるが1人5万もあれば足りる。この分はまずそれぞれ取ることにする。だから2人で20万余りは残っているのだ。



 ただ山分けというわけにはいかない。ロバの世話に3万かかる。初めにロバや荷車を用意するのにフェリスが100万近い金を出している。


これをここからフェリスに返さないといけない。本当は利息をつけるべきものなので月に5万返して、2年間返すことにする。


そうすると残りは12万になる。これを山分けというわけにもいかない。まだ商会は作っていないが、商売用の金は残しておくべきだろう。これを4万分けておいて、山分け分は4万ずつだ。


トータルすると給料が1人11万2千で、そのうち家賃と生活費に7万2千使い、4万が残っている。一応は生活できているが、もう少し稼ぎたい。


だいたい自営業で勤め人ではないのだから、リスクの分を考えると割がいいとは言えない。ちょっと何か失敗があったらアウトだ。


シンディはうまくいったと思っているようだが、必ずしもうまくいっているわけではないとわかるのは中身がおっさんだからだろう。


ただし何かあっても過去の貯金があるからなんとかはなるし、いざとなれば全部処分して村に戻ることもできないわけではない。


9万2千は徒弟にしてはまあまあだが、まともな勤め人としては全く足りない。


もちろん午前中だけしか働いていないので、実はそれほど割が悪いわけではないが、もう少し何かしないといけないとは思う。


いちおう言い訳するならば、あくまで試しにしてみただけだ。これからいろいろ工夫してもっと儲けることを考えるのだ。




 そうそう大した金ではないが予想外の出費があった。荷車の点検をしないといけないらしい。輸送中に壊れるとひどい目にあう。そりゃそうだ。


荷物満載でこれから店に行かないといけないのに動かなければ悲惨だ。そういうわけでドナーティ商会では月に一回点検しているという。


しておいた方がいいとカテリーナにもマルコにも言われるので、それを頼むことにする。有料で月に3000ハルクかかる。修理があれば別料金だ。


ついでに道端で壊れたときに応急処置ができた方がいいとのことで、簡単な修理を習わされることになった。


事前に考えていたよりやってみるといろいろ面倒なことが起こるのもわかる。

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