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行商はじめ(上)

 フェリス10歳の6月10日。いよいよ行商を始める。昨日までは引っ越しの後始末やあちこちのあいさつ回りや手続などで過ごしてきた。


朝の9時前にフェリスとシンディとマルコでドナーティ商会に行き注文してあった品々を詰める。さいわい厩は倉庫の近くだった。


パンや卵や小麦粉や野菜や牛乳など食料品ばかりだ。なおいつもはフェリスとシンディだけで、マルコはドナーティ商会の見習いだが、はじめの1週間は得意先の手伝いとしてマルコも補佐についている。




 町の北部の徒歩1時間ほどの広場に向かう。ロバのフルールはふらふら横を向いたりして落ち着かなかったが、何とか進むことができる。


やや上り坂気味で、途中で段差で荷車が動かないこともあったが、持ってきた板を当てたりしてうまく通り抜ける。次からは段差は避けるようにしよう。


ロバは人より足が速いようで、重い荷車を引いても1時間かからずに目的の広場に到着する。


中心部に比べると家と家の間は離れ畑などもあるのだが、貼り紙と特売が効いたのか結構人が集まっている。


ラッパを吹いて到着を知らせる。今日は人が集まってくれたが次回からはそういかないかもしれないので、到着の知らせを覚えてもらう必要がある。




 ロバを止めて、荷車を固定する。荷車は上が開いた直方体状の升のような形の箱に車輪がついている。上に幌をかけてあり、それを外して開店となる。


「いらっしゃいませ。本日開店です」


さっそく人が集まってきた。ただあまり並ぶ習慣がないらしく、わらわらとかってに店を囲むように集まってくる。


そこで限定の特売品の取り合いになってしまう。仕方ないのである特売品を買った人は別の特売品は買えないことにして、できるだけ多くの人に手にしてもらうようにした。


「多くの人が来てくださったので、特売品は1人1種類だけにします」


文句を言う人もいるが、多くの人は納得してその方向で進める。特売だったこともあり、1時間もたたないうちに完売した。


なくなり次第終了と貼り紙には予告してあったが、念のために商品がなくなったので閉店しましたと書き足して手じまいした。


本当は翌週に持ってくるものの御用聞きもするはずだったのだが忙しすぎてできなかった。次回は落ち着くだろうから、その時に聞こうかと思う。




 今日は宣伝のための特売なので大赤字だが、幸先がいいような気もする。ドナーティ家の厩にロバをつなぎ、カテリーナに支払いに行く。


「商売はどうだったかい?」

「ばっちり売れました」

「そうかそれはよかったね。次からが正念場だね」


カテリーナにはロバや荷車の業者の紹介やら、売りに行く品目の選定やらでずいぶんと世話になったのだ。


今回は宣伝のための特売で、卸売価格も少し下げてもらったが赤字である。売上金に用意していたお金を足してカテリーナに渡し、受け取りのサインをもらう。




 後払いにするのは大金をできるだけ持ち歩かないためだ。例えば仕入れが7万だとすると、前払いの場合、仕入れの前に7万持ち歩き、売り上げ後に11万持ち歩く必要が出てくる。子どもであるし、スリや盗賊に襲われたらひとたまりもない。


これが後払いとなれば持ち歩くのは、仕入れ前は0で、売り上げ後の11万は同じだが、すぐに支払いして支払い後は4万だけ持ち歩けばよくなる。


もっともそのお金も生活に必要な分を除いてしばらくはドナーティ家で預かってもらうことにした。


赤字であるがちゃんと帳簿をつける。単式簿記だが、ないよりはいい。そのうちマルコが複式簿記も習うだろうから、その時は複式にするかもしれない。




 翌日は町の北西部に行く。今回は広場にたどり着く直前にフェリスだけ先に広場に入り、並んでもらうことにした。


さらに特売品の1人1種類もお願いする。また文句を言う人もいたが、おおむね受け入れられる。


昨日の経験があったので少しやり方を改良したが、実際にうまくいく。昨日と同じく完売して帰ることにする。


翌日は西部、翌々日は南部、その次は東部とそれぞれ回る。北部だけ坂の上で閑散としており、他は平地でそれなりには家もあった。


週休2日で2日間は休む。なぜかこちらの世界も1週間は7日で、何かその方が都合がいいことでもあるのだろうか。





 週末はゆっくり起きて、生活に必要なものを買いそろえる。フェリスはふだんは料理するが、転居のあとは商売のこと優先で料理の方はおろそかだった。


さいわいにしてセレル村と異なり、食堂や屋台なども少なくないため、買い食いができる。


シンディは全く料理はしないが、午後から道場に稽古と手伝いに行っているため、帰りに何か買ってきたりする。


マルコは住み込みの徒弟らと一緒にドナーティ家で食べることもできるのだが、通いにしてあまり巻き込まれないようにしたいマルクの意向もあって、フェリスたちと一緒に夕食をとることになっていた。


だから3人ではかなりきついが居間のような部屋で食事をとる。クロはフェリスの部屋から出てこない。


フェリスは料理をするべきかどうか迷っていた。かまどは使いにくいし、冷蔵庫があるわけでもないので何回分かをまとめて作ることも難しい。




 2週目も前回と同じ曜日にそれぞれの場所に向かう。今度は特売ではないのでそれほど人は集まらない。それでも店を出すことにしている午前中だけでほぼ売り切れた。


冷蔵庫があるわけではないので足の早いものは少ない。牛乳など足の早いもの以外は少し多めに積みたいようにも思う。


ただ今でも荷車に一杯詰めているし、荷車自体も大きめだ。物がなくて売れないと機会損失ということもあるし、次から客の足が遠のいてしまうかもしれない。


日本の店ように機会損失を防ぐと称して食べ物を無駄にするのはいただけないが、長持ちするものならできれば対応したい。


しばらく様子を見ないといけないが、複数回来ることなども考えないといけないのかもしれない。




 ただ回数を増やしたとするといまより時間当たりの客数は減る。そうすると客には便利だが効率は悪い。その辺は妥協できるラインを探らないといけない。


それから物が売れ残って廃棄になればフェリスの損だ。そうならないように足の早いものはちょうどいい量に調整するか、見切りで安く売ったりしなければならない。


仕入れ値が8割でかなり高いので見切りで売ったとしてもやや損をしてしまう。それなりに考えることはいろいろある。





 2週目は少しお客さんと話すこともできた。だから注文も聞くことができる。注文を受けたものは次回は持ってこないといけない。


もちろん覚えておくだけでは足りないので、すぐに専用のノートに記録しておく。


今回早くなくなったものは次回は増やすようにしようと思う。それも書き留めておく。




 2週目はきちんと利益が出た。ドナーティ商会に朝の仕入れの分を支払い、余剰が出る。利益が出なかったら倒産だからこれは当然だ。


生活費分は持っていないといけないが、それ以外は預けておく。利益は1日1~2万ほどなので大した額でもない。ただ貯まってきたらもちろん預け方や預け先も考え直さないといけない。


だんだん慣れてきたのでカテリーナではなく手代さんが相手している。手代さんはきちんと帳面につけている。

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