行商の準備(下)
カテリーナから聞いた家畜業者に3人で行くと馬屋に何頭も馬やロバがつながれていた。
「坊やたち馬を見に来たのかい?」
「はい、馬かロバか、ロバがいいかと思っています」
「珍しいね。たいていの男の子は馬の方が好きなんだけど」
「行商で荷車を引くにはロバの方がいいと聞いたので」
「え? 坊やたち家畜として見に来たのかい?」
どうやら家畜業者ははじめ俺たちが子どもなので単に動物を見に来ただけだと思っていたらしい。
「うーん、買うとなると高いんだよ」
「わかっています。セレル村では前に行商していたこともありました。こちらは教会のサミュエル司祭の身元保証状です。
なおお宅のことはドナーティ商会のカテリーナさんから伺いました。それから数十万くらいなら数日中に支払いできます」
これだけ立て続けに並べると業者も驚いている。だがすぐに商売モードとなる。
「ロバならこの2歳の雌のフルールがおとなしくていい子だよ、これなら50万だ」
だいたい聞いていた相場の値段なので、それで買うことにする。
大金なので安全のために持ち歩いていないし、大金が動く契約をするときは証人を呼ぶ必要があり、成人前なのでまた後見人が必要だ。
またロレンスが来るときに後見してもらい、証人にはカテリーナになってもらう。
みんなのスケジュールを合わせて、ドナーティ商会で契約をして支払いもし、ロバのフルールを引き渡してもらった。後はドナーティ商会の厩につないでおいてもらう。
それから荷車だ。ロバはかなり大きい荷車でも引くことができる。商品も多く乗せたいので大きい荷車がいいが、あまり大きいと狭い道に入りにくい。
またカテリーナ紹介の荷車業者に行く。ここではオーダーメードで荷車を作ってもらうこともできるが、中古の荷車もある。
今度は子ども扱いされないように初めのあいさつから、カテリーナの紹介で購入しに来たことを強調して伝えた。
「こんなめんこい子が商売ねえ」
さっそくジャブが来る。支払いもできることを言って、商売モードにする。そこで新車と中古車の値段を聞くと、やはり中古の方がかなり格安だ。
ピカピカの新車は気分が上がりそうだが、商売をするからには手元に金を残しておかないといけない。中古の荷車を見せてもらう。
わりと商品が積めそうで価格も出ごろそうな荷車があったのでマルコと相談してそれに決める。30万だった。これもすぐには購入できず、後見人と証人がいる。
取り置くように依頼して、ロバの契約の日に合わせて契約するように話を進めた。こちらも同じ日にドナーティ商会で契約して支払いし、引き渡してもらった。
ロバと荷車を手に入れて、動かし方を習わなくてはならない。
ドナーティ商会が卸しをするときに3日間うちのロバと荷車を使い、少し慣れた丁稚さんが操作して隣で俺がそれを習うようにしてもらった。
ロバはのろいと思っていたが、人が歩くよりはかなり速い。
見るだけでなく実際に動かして、手習いさせてもらった。ところで当然のことながらロバはフンをする。フンはどうするかというと道に放置だ。
みんなそうしているらしい。そして適当なタイミングで業者が道のフンを集めにくる。肥料や燃料に使うそうだ。その前に持っていく住民もいるとのことだ。
準備が万端整い、開店の日が近づく。売りに行っても誰も買いに来ないと悲しいし、だいたい倒産してしまうので、近隣に知らせることにする。
広場と教会に貼り紙を貼らせてもらい、開店の日には特別に安くして記念セールで一部商品は6掛けの値段で、他のものも8掛けの値段で販売することにする。
8掛けで仕入れなので完全に赤字だが、宣伝のためだ。ただ買い占められても困るので、1人当たりの購入量は制限する。
これだけ準備してずいぶんと投資して、翌日が開店となった。さいわい天気も悪くないようだ。あとはクロをモフモフする。
神は入り浸っているようだが、ロレンスがいなくなってクロもさみしいだろうと思う。なお家の中ではたいてい俺の部屋にいる。
マルコ相手にはそれなりに友好的だが、シンディ相手にはシャーシャー言ったり露骨に無視したり隠れたりと明らかに嫌がっているようだ。
シンディの方も「生意気な犬ね」と言っているが、フェリスが大事にしている上になぜかギフトの鍵になっているので手を出すようなことはしていない。
いずれにせよベッドの上ではクロが横にいるか前にいるかが定番だった。




