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1. 行商の準備(上)

今回から第2章です。いよいよ本格的に商売を始めます。チートよりは前世知識を使います。

 フェリスは6月に10歳になり、シンディ・マルコとともにクラープ町に住むことになった。クラープ町では行商をする。


農業主体で自給自足の色の強いセレル村と異なり、クラープ町では人々は食料や日用品も含めて外に買いに行くことが多い。


だか町のどこでにでも店があるわけでもなく、町の周辺部には店まで1時間くらいかかる場所はいくらでもある。


この社会では日本より長い距離を歩くのが平気であるが、ふだんの買い物で1時間かかるのがつらい人はいくらもいる。


そこで町の中心で仕入れをしてそこらに売りに行くのだ。なお人目がありバレると危険なので商売にはギフトは使わないことにする。




 クラープ町は国の南部の内陸部にあった。王都から商都を通り、さらにクルーズン市を通って、国の最南部の港町まで南方街道が走っている。


クルーズン市からは東西に街道が伸び、その東に3日ほど歩いたところにクラープ町はある。クラープ町周辺にはいくつか村があり、フェリスたちの出身のセレル村はその1つである。


だからフェリスたちは何か買い物があると半日かけてクラープ町まで来ていた。





 シンディやマルコと商売について話す。シンディの問いかけから始まる。


「何で他の人は町の周辺部で商売をしないのかな?」

「それは儲からないからだよ」


マルコが答える。


「じゃあ、フェリスはどうやって儲けるの?」

「そこで行商になるわけだ」

「え? どういうこと?」

「町の周辺部だと客入りが少ない。例えば店を構えて利益が月に15万だったらどう?」

「1人暮らしなら何とかなるけど、家族がいたら暮らしていけないわね」

「実は商売だとリスクがあって安定している勤め人より稼がないといけないから、ますますダメだ」

マルコが補足する。

「そこで俺はある場所には週に1回だけしかも午前中だけ店を出す」

「そうするともっと利益は少ないんじゃない?」

「うん、それで例えば利益が月に5万だとする」

「5万じゃもっと生活していけないわ」

「1か所5万なら5カ所で25万になる。これなら生活してさらに剰余もでる」

「あれ? なんでそうなるの? 週に1回で5万も利益が出るの?」

「週に1回しかそこに来ないとなれば、中心部まで買い物に行きたくない人は無理してでもその時間に合わせてくるよ」

「あ、なるほどね。特定の時間にだけきてもらうのね」

「そうすれば、店は暇にならない」

「でも、お客さんには不便ね」

「そう、お客さんにとっては店があるより便利でない。だけど店が成り立たない場所なんだから、その不便は享受するしかないんだ。

つまり客と商人が妥協できる範囲で店を出すんだよ」

「なるほど、わかったわ」



 そういうわけで、移住前にすでに店を出す候補地を探しておいた。店を出すのはその地域の広場で、付近の住民が組を作って管理している。


移住を決めつつあるときにそれぞれの組長に店を出す許可をもらうことにする。


ロレンスがクラープ町の教会のサミュエル・マッキーン司祭に紹介してくれて、さらにサミュエル司祭からも身元を請け負う手紙を書いてもらった。


たいていの組長は店が出てくれた方がいいと歓迎されたが、こちらが子どもだからか警戒されたのか単に面倒だったのか嫌がられた場所が1か所あり、そこは外して別の場所で商売することになった。




 仕入れ先はマルクの実家のドナーティ家に頼む。当主のマルキは面倒な人らしく、その奥さんのカテリーナと話をする。


カテリーナは40代半ばの人好きのしそうな女性だが、ときどき話し方に知性が現れる。


仕入れ値の相談はマルクにある程度聞いていたのでその線で進める。ドナーティ家の仕入れ値は小売価格の6掛けほどらしい。


そこで8掛けほどで仕入れることにする。行商で売るときの売値はドナーティの店の1割増しだ。高いが不便なところに持っていくのだから仕方がない。


ドナーティ家では4割が粗利だが店の維持や従業員への支払いなどでとうぜん利益はもっと低い。


俺がする商売はドナーティ家の小売価格を基準とすると3割が粗利だが、店の維持はなく移動に使うロバの経費や2人の給料がそこから引かれる計算になる。


もちろん売れ残りが出たり、荷車が故障したりすれば、その分も経費としてかかる。




 仕入れについて契約は主人であるマルキとしなくてはならない。ただこちらが成人前なので後見人が必要だ。ロレンスが町に来るタイミングで頼むことにする。


マルキは50まえくらいのからなりでっぷりとして頭髪もかなり後退した男である。


あらかじめカテリーナと合意した文書を2通用意して、お互いに署名し、ロレンスも後見人として署名する。少し世間話をすると


「ああ、聞いている。うちが卸すからまあせいぜい頑張って稼ぐがいい」


などと妙に威張っていた。せいぜい機嫌を損ねないようにお愛想を言って別れる。





 実務的なことはまたカテリーナと話す。行商では1週間に1回ある場所で商売するがそこで注文を聞くこともあるので、そのあとすぐにドナーティ家に注文として持っていく。


現金の持ち歩きは最小限にした方がいいので、その時に当日の支払いも済ませることにする。そうすれば当日の売り上げをそのまま持っていくことができる。


それから行商にあたって馬かロバと荷車が必要だとマルクに聞いており、そのことも相談する。


馬の方が足は速いがロバの方が力がある。街中ではスピードを出しても仕方ないので、ロバにする。家畜業者も荷車を作る商会も紹介してくれるとのことだった。


あとは家畜の飼育場所についてフェリスたちの家ではとても飼えないので、ドナーティ家の厩に有料で置かせてもらうことにする。


こちらが飼育費込みで月に3万だ。商売をしようとするといろいろ金がかかる。

今日から1日1話更新です。


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