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シンディと日誌

 シンディが護衛部門を立ち上げている。初めは無茶苦茶なことを言っていたが、わりと現実的な店舗の護衛方法を作り上げた。ところで部門の管理の方がどうかと思う。


 と言ってもメインのメンバーはシンディとエドアルトだけで、それに非常勤のアレックスと店番2人が応援に来るくらいだ。何と言っても人が少なすぎる。そのうち増やさないといけないとは思う。


それはともかくシンディもエドも管理仕事があまり好きではない。文書などもあまり好まない。商会で義務付けている日報なども非常勤のアレックスに丸投げだ。


非常勤でなんで日報が書けるかと言えば、彼がいない日は後で彼が話を聞いて書いていたらしい。まったく困ったものだ。注意しないといけない。


フェリス「シンディ、ちょっといい?」

シンディ「え? 何? あたし何かまずいことした?」


何でそんな反応なのだろうか。何か心当たりでもあるのか?


フェリス「何か心当たりでもあるの?」

シンディ「いや別にないけど、フェリスがそう言う話し方するときはそう言うことが多いから」


なるほど。それで気づいたのか。


フェリス「あのね、日報のことだけど、これアレックスが書いてない?」

シンディ「え? 彼がそう言ったの?」


そうなんだが、そう言うと彼に気の毒だ。シンディはそんなに嫌な性格ではないが、何かの拍子に意趣返しのようなことにつながりかねない。もちろんそうでないという。


フェリス「いや、これ君の字じゃないし、誰の字かなと調べたらアレックスのだったから」

シンディ「ああ、そうなの。彼にさせているの」


フェリス「あのさ、彼は非常勤だけど、彼がいない日はどうしているの? 毎日分あるけど」

シンディ「それね。次に来た時にあたしたちが何があったか話して書いてもらうわ」


フェリス「それ、まずいよ。さすがにその日の日報はその日に書かないと。書き落としも出てくるだろうし、経験した人でないとわからないこともあるから」

シンディ「でもね。アレクが書いた方がずっとちゃんとしたものが作れるのよ」


やれやれ、ぜんぜん悪気がないらしい。それも困ったものだ。


フェリス「君が書くんだ」

シンディ「だってあたしが書いてもほとんど白紙になっちゃうし」


フェリス「書いているうちに上達するから」

シンディ「そういうのって得意な人がやった方がいいじゃない?」


フェリス「やっていれば得意になるから。その方がいいだろ?」

シンディ「だったらフェリスだって剣術得意になった方がいいのに、しないでしょ」


そうきたか。まったくいろいろ考える。どうやったら反論できるか。下手なこと言って藪蛇になると困る。だけどやっぱり文書の読み書きができるって管理職には必要だしな。


フェリス「あのさ、商会の主人が剣術使えることはめったにないけど、商会の管理職が読み書き苦手というのもやっぱりめったにないよ」


そう言うとシンディは困ったような恨めしそうな目で見てくる。


シンディ「そ、そうね。わかったわ。でも商会の主人でも剣術できる人はそれなりにいるわ。道場に行きましょう」


何とか説得したつもりだが、反撃を食ってしまった。まあまったく行かないよりはいいのかもしれない。正直気が進まないのだけれど。


それに一方的にへこませるのもいろいろと関係性が悪くなる。というわけで俺もたまには道場に行くことして、シンディが日誌を書くことになった。



 とは言え、案の定だが、日誌の内容がアレックスが書いていたものとは比べ物にならないほど薄い。1日に1行しか書いてないこともある。仕方ないので、問い返してその日に何があったか聞く。


フェリス「昨日だけど、訓練したとあるけど、どんな訓練だったの。あと来客とか外出とかなかった?」

シンディ「訓練は別の部屋で騒ぎが起きたときの訓練ね。来客はいないわ。外出は護衛に使う道具を見に行ったくらいかしら」


フェリス「じゃあ、それ全部書いて」

シンディ「えー、そんなのすぐに思い出せるじゃない?」


フェリス「じゃあさ、1か月前の同じ日に何があったか思い出せる?」


アレックスの付けた日誌を見ながらそう聞いてみる。もちろんシンディは困ったような顔をして、ああだこうだと言っているが、まったく的外れだ。


シンディ「その日は確か訓練して、疲れた覚えがあるわ。来客はなかったはず」

フェリス「いやその日はマリーク氏に会っていると記録があるよ」


そう言うとシンディの目が点になる。


シンディ「ちゃんと書かないとダメなようね」


わかってくれてうれしい。それでもどうも波がある。やたらに長く詳細まで各日もあれば、まったくいい加減な時もある。


それに書くべきことというのは業務に関することでそれ以外のことはあまり細かく書かれてもしかたない。


あるときには各行に10時: 11時: 12時: のように分けて書いてもらったこともあった。


ただ続けているとやはりそれなりにまともに書けるようになってくる。


フェリス「シンディ、これ日誌を始めたときといまとでずいぶん違うよ」

シンディ「あ、そうね。以前のはずいぶんひどかったわね」


それに気づいてくれるだけでもうれしい。


シンディ「でも、これいつまでするの?」


それはずっと書いてほしい。部署の日誌は部下に任せることもあるかもしれないし、秘書がつけばその人が書くかもしれないが、それはそれで自分でも書いてほしいい。


フェリス「うーん、来年になったら部署の日誌はエドに任せてもいいかもね。だけどそれとは別に記録は取った方がいいよ」

シンディ「えー、そんなに? でも何で来年なの?」


フェリス「前の年の日誌を見るといろいろいいことがあるってわかるよ。それにその頃になれば日誌について部下を指導できるようになっていると思う」

シンディ「ふーん、あたしは無敵になるわね。フェリスの剣術の方はぜんぜんだけど」


そうくるか。まあそうなんだけど。やっぱり取り組んだだけ帰ってくるのだと思う。


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