アレックスの管理能力
シンディが商会の護衛部門を立ち上げている。店を護衛する方法をいろいろ工夫しているところだ。そこで賊が来ても閃光のスクロールを使って時間稼ぎをする方法を編み出した。
ただ仕事の進め方がいろいろブラックっぽいところがある。だいたい部門の構成員が武道系でどうにもブラックと相性が良すぎる。いまその一人のアレックスを呼んでいろいろ話を聞いている。
スクロールを使う実験も同調圧力で断れなかったようだ。というよりみな断ること自体を考えていなかった様子だ。どうにもついていけない。
もちろん俺が前世の日本にいたからそう言うことを思うのだろう。そうは言っても2000年ころの氷河期の頃は無茶な上司がパワハラまがいの仕事を押し付けて何も言えなかったことは多々あった。
ただそう言う企業はその後に見放されている。願わくばそれを進めた経営者や管理職やさらに出資者がひどい目に会うといいが、ともかくしてはいけないことだった。
シンディには後で言っておかないといけない。ただ護衛は確かに危険なことをするのが商売のところもあるから、その辺は事前の契約などを見直した方がいい。護衛以外にはとてもさせられない。
アレックスは文書を書くのが嫌いでないようだ。その辺は管理者としては助かる。シンディはその辺あまり好きではない。
ただあの世界は強い方が上にいないと収まりが悪いようなので、シンディをトップにしてアレックスが副官で動けばうまくいくのかもしれない。
それでアレックスが閃光のスクロールを使った時の記録を作っていた。正直言うと実験の仕方がそもそもよくないし、記録も物足りない。実は場所も書いてなかった。
ただ記録してくれていたこと自体がうれしい。それにいまいちのものでも元があればそこから改良することは易しい。全くの0だと大変なのだ。
アレックス「こんなものでいいですか?」
フェリス「ああ、助かるよ」
アレックス「何か不足はありませんか?」
フェリス「とりあえずこれで十分じゃない?」
アレックス「とりあえずじゃなくて完璧を期すならどうです?」
フェリス「うーん、それならさっきも行った場所とか条件とかだよね。時刻とか天気とか。あと対象者がどれくらいで回復したかの時間とかもあるといい」
アレックス「あー、それは気づかなかったなあ」
フェリス「いや、そんなの言われないと誰もわからないよ。むしろここまで書いてくれただけでもありがたい。これから改良できるからね」
アレックス「そうですか! そうだとよかったです」
素直にこういう人はありがたい。きっと実力をつけていくと思う。ついでに日誌も彼が書いているというので、それについても聞いてみた。
フェリス「あのさ、日誌も君が書いているって聞いたけど、そうなの?」
アレックス「はい、書いています」
フェリス「え? なんで? シンディが書くべきものじゃない?」
アレックス「ええ、そうなんですが……、シンディさんの書いた日誌はその……、あまりにも内容がなくて。あれ書いておいた方がいいんじゃないですかとか、あのときのあれっていつでしたっけとか聞いていたら、あんたが書きなさいって言われてしまって」
やれやれ。こまったものだ。アレックスの指摘は間違っていない。本来は俺かマルコあたりが指摘するべきだった。それをしなかったからこういうことになった。
だけどなあ、シンディだって管理職になるならこういうことだって知らないといけない。その上、実は彼女は役員だ。ますます知らないといけない。
管理職やまして役員は単なるプレイヤーでは困るのだ。なんかベンチャーの経営者が会社が大きくなったときに立ち上げの仲間を追い出す理由がわかる気がする。
フェリス「ところでさ、アレクは非常勤だよね。いない日の日誌はどうなっているの?」
アレックス「はい、それは、俺が後でみんなに聞いて書いています」
えーっ。さすがにそれはひどい。あとでシンディに強く言っておかないと。というか、エドアルトは常勤なんだから彼がやったっていいはずだ。誰かに無事押し付けたら後はずっとやらせておけばいいと考えているらしい。
フェリス「あのさ、シンディのチームは上手くやれているの?」
アレックス「まあどうなんですかね。シンディさんは無茶ぶりをするけれど、みんなついて行っているし、今回も結果出せたし、いいんじゃないんですか?」
フェリス「でもなんか考えるところとかない?」
アレックス「そりゃあ、フェリスさんがいなきゃ全くダメだと思いますよ。そりゃシンディさんもわかっている。でもフェリスさんは見放さないでしょう?」
あ、そうか。俺はシンディから離れるつもりはなかったけれど、彼女に一人で仕事を回してほしいと思っていたのか。
それはまあずっとつきっきりというわけにもいかないし、できるだけ仕事を減らしたい立場からすると彼女にももう少し管理的なこともして欲しいと思う。
だけど俺なしで仕事しなくてもいいと言えばいいんだな。さすがに自分では気づかなかった。
年下のアレックスに気づかれて悔しい気もするけれど、彼自身もシンディの管理能力を補っていることに気づいていないのかもしれない。




