シンディの仕事の進め方を振り返る
シンディが商会の護衛部門を作っている。各商店の護衛方法を考えているところだ。強盗などに襲われたら警笛を鳴らし閃光のスクロールで目をくらまし、店員は逃げる。
そして外に出て店の上に設置した鐘を鳴らして通報することになった。役所から鐘の設置について近隣の迷惑にならなければよいと言われた。そこで町会に話を持って行く。
大半の町会は地域の役に立つものなので快く受け入れてくれたが、一部変なところもあった。それらも何とか説得して受け入れてもらった。かなり強気な説得だったけど。
ともかく鐘の設置は進んで護衛の体制も整ってきた。これで店員の安全は確保できるし、客がいても見放したことにはならない。
一刻も早く官憲に通報することの方が事態を収めるには有効なはずだ。それ以前にはじめから犯罪者がうちの店で何か事を起こそうとはしなくなると思われる。
フェリス「けっこういい感じになってきたね」
シンディ「フェリスにいろいろしてもらって、フェリスがいなかったらこう上手くいかなかったわ」
そう言ってもらえるとうれしい。
フェリス「そうは言ってもシンディたちがちゃんと中身のある方法を作ったからだよ」
シンディ「そう。そう言ってもらえるとうれしいわ」
ただちょっと気になることがある。閃光のスクロールについてちょうどいいものを選んだそうだ。ただその時に強いものから弱いものまでいろいろ試したらしい。ただその時無茶をしなかったが気になる。
フェリス「ところでさ、閃光のスクロールをいろいろ試したって言ってたよね」
シンディ「うん、かなり強いのから弱いのまで10種類くらい試したわ」
なんか不穏な感じだ。
フェリス「それってつらくなかった?」
シンディ「強いのはちょっとつらかったわね」
フェリス「それって誰が試したの?」
シンディ「みんなよ。あたしとエドアルトとアレックスと店番の2人の全員」
ものすごく同調圧力で押し切っていそうだ。
フェリス「あのさ、部下に無理やりさせてない?」
シンディ「いやみんな喜んでしていたわよ」
どうにも危ない感じがする。露骨に体育会系でトップがすると言って逆らえるようにも思えない。
他のメンバーを見回すとちょっとアレックスの目が泳いだようにも思う。後でアレックスに聞いてみるか。
フェリス「体に害のあるものだとまずいよ」
シンディ「いちおう魔法使いにここまでは大丈夫とは聞いていたわ」
それはしてくれたのか。それだけでも助かる。ただ魔法使いの方だって連続でいくつも使うことは想定していたかどうか怪しい。
フェリス「いちおう危険なことはさ、法務担当者に事前に聞いてもらうと助かる」
シンディ「そこまでしないといけないの?」
フェリス「新しいことで身体に危険が及ぶ可能性があるときはそうして欲しい」
シンディ「なんか面倒ね」
フェリス「だけどさ、シンディはいまは人の上に立っているから、影響力が大きいんだ。下の人より慎重にならないといけない」
シンディ「わかったわ」
フェリス「あとさ、その時の記録ってある?」
シンディ「記録なんて取ってないわ。いちばんいいのを見つければよかったから」
まあそうだろうとは思う。シンディにとって興味があったのは防犯に一番いい閃光の強さで他のことには興味がない。だけど実は取っておけば色々使える情報だと思う。
もっともそういうことを考えるのは俺が前世で大学まで教育を受けたからだろう。こちらの世界の読み書き計算だけでそこまで考えは及ばないのも仕方ない。
そう諦めかけていると、アレックスが手をあげる。
アレックス「ちょっとしたメモ書きならありますけど」
それはすごくうれしい。アレックスは前に分数の計算でとまどっていたけど、その時に知識の有用性についてなんとなくだけど気づいていた節がある。こう言うのは組織にとって頼もしい。
フェリス「それはすごく助かる。あとで見せてもらえる?」
アレックス「本当にメモ書きだけですから」
フェリス「うん、それでもあるとありがたいよ」
シンディ「あんた、そんな面倒なものつけていたの?」
アレックス「だって商会で決まっている日報だって俺が書いてるじゃないですか」
商会では日報をつけるようにルールが決まっている。あとで何があったかわかるし、翌年に何かするときにも参考になる。マニュアルをつくるもとにもなる。
それなのに、やれやれアレックスに丸投げか。確かにシンディはあまり書きたがりそうにない。エドアルトもその手のものは好きそうでない。
アレックスがしてくれたのはいいが、ただ彼は本業は道場の内弟子でパートタイムだから、彼がいない日の日報は怖いことになっている気がする。
フェリス「あとで日報の方も見せてね」
もっと早めにチェックしておけばよかったように思う。




