90. 別の町内会長の横やり
シンディが商会の護衛部門を立ち上げている。各店の護衛についても考えている。
はじめは店員に剣術を習わせるような無茶なものだったが、さすがにそれは見送りになり、いまは閃光のスクロールで足止めしてその間に自警団などを呼ぶことになった。
自警団を呼ぶのに店には大きな音が鳴る警笛がついているが、それだけだと不安なのでさらに上の方に鐘をつけることになった。
鐘をつけていいかどうか役所に問い合わせると、地域と合意があればいいという。それで各地域にはうちの店以外の人も強盗や火事があった場合には使っていいことにしてうちの負担でつける提案をした。
大半の町内会はそれでよいとされたが、いちぶに欲が深い町内会長もいる。一つはうるさくなるので補償しろということだ。
店が撤退するか客が毎回の支払いのときに余計に負担してもらうかにすると言ったら、町内会長の後ろから住民たちが文句を言ってそれはなしになった。
別の町内会でも変な要求があった。そちらでは鐘はつけていいがうちの店ではなくけっこう離れた場所につけろという。
町内会長B「シルヴェスタさんの店では町内会のみんなが使いやすい場所ではありませんな。こちらの地域の中心にしないと」
いちおうもっともらしい言い分だが、少なくとも2つ問題がある。まず金を出すのはうちなのだからうちが有利で当たり前だ。
それに町内会長のいう地域の中心というのは実は町内会長の店のすぐ近くなのだ。もしかしたらその土地も持っていて、高く売りつけるか貸すかしてくるのかもしれない。そうでなくても彼の店で犯罪が起きたときに使いやすいので有利だ。
フェリス「さすがにうちの費用でつけるわけですから、うちが使いやすいところでないと困ります」
町内会長B「それではこちらは受け入れられませんな」
フェリス「はあ、ここ以外の町会はすべて認めていただきました」
町内会長B「よそはよそ、うちはうち。シルヴェスタさんはうちの他の店が危険でもいいということですか?」
フェリス「別にうちが危険を増やしているわけではありません。むしろうちが設置しただけでも強盗や火事は起こりにくくなるわけです」
町内会長B「それならみんなが使いやすいところにすればもっといいでしょう」
フェリス「それでしたらそちらでも費用のご負担をお願いできますか。近い店がただで恩恵を受けるのもおかしな話でしょう」
町内会長B「いいやあなたの言いだしたことだ。あなたが負担すればいいことです」
こんな調子で平行線だった。
どうしたものかとシンディと話す。
フェリス「まったく困ったものだよな。町内の中心というけれど彼の店の近くだもんな。まったくズルいことをよく思いつくよ」
シンディ「困ったものね。うちが鐘を付けたからって地域にはいいことしかないのにね」
フェリス「本当だよ。まあ最悪、あの店だけ鐘を付けない手もあるけれど」
シンディ「そんなのよくないわ。何とか策を考えましょう」
護衛のことだけにかなり熱心だ。
フェリス「あの町内会長が同意する方法かあ」
シンディ「でも本当に町内会の同意って必要なの?」
フェリス「まあなくてもいいんだけど、あとあとまた何か嫌がらせされるかもしれないな」
シンディ「それはいやね。うーん、町内の中心かあ。あ、そうか」
フェリス「何か思いついたの?」
シンディ「町内会と自警団の担当区域は違うのよ」
フェリス「え? どういうこと?」
シンディ「つまりね自警団は町内会でやっているわけじゃないの。大きい町内会だとそう言うところもあるけれど、町内会とは別の組織だったり、3つくらいの町内会の合同でしていたりするの」
フェリス「ふーん、それで?」
シンディ「担当の自警団を調べて、自警団にとってうちの店の方が都合がいいならたぶんこっちの味方になってくれるんじゃない?」
なるほど、それはよさそうな気がしてきた。
そこでさっそくシンディが自警団の担当区域を調べる。するとやはり町内会とは異なっているし、詰所はむしろうちの近くにある。
それにもっといいことがある。協力金をあの町内会長の店よりうちの方が多く出しているのだ。そこで自警団長に話を持って行く。
フェリス「じつはこういうわけで、鐘を設置することを勧めています。町内会長B氏の同意がないとあの店だけ設置しないこともあり得ます」
自警団長「なるほどな。まあ会長の言うこともわからないではないが、お宅の店は店でうちの担当地域としては端にあるわけでもないからな」
フェリス「ということは隣の町内会に恩恵があるということですか」
自警団長「まあそういうことだな」
フェリス「それでは何とか説得していただけないでしょうか」
自警団長「まあ、話してみよう」
そう言うわけで自警団長が話してくれることになった。
しばらくして町内会長Bは折れたそうだ。自警団長が話を持って行っても面白くないのかどういはしなかったそうだ。
ところが騎士団とも相談しないといけないというと目の色変えたように同意したという。本当に貴族相手だと怖いのだろう。
あんまり権力者にどうこうしてもらうのもいいとは思わないのだが、ごね得みたいなことをされると仕方ない。権限を持っている者は妥当な範囲でそれを行使するべきだ。
ともかく鐘の設置は進むことになった。




