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鐘を設置する準備

 シンディが商会の護衛部門を立ち上げようとしている。いまはうちの傘下の多くの店の護衛方法を考えている。


さすがにほとんどの店員は武術の心得などないため、誰にでもできることをする方向だ。


閃光のスクロールを使い、また警笛で外に知らせるのが基本になる。ただ警笛だと遠くまでは伝わらないかもしれないということで鐘を取り付けることも考えている。その辺は役所に相談だ。



 鐘の取り付けについては役所に相談に行った。だが役所の方は困惑している。はっきり言うとどちらでもいいという感じだ。

担当者「鐘を設置することについては近隣の方の迷惑にならなければご自由にしてもらって構いません。ただ役所として経費を出すことについては特にありません」


まあ言っていることはわからないではない。新しい取り組みだし、とつぜん言われてもどうしようもないだろう。だいたい担当者の権限の範囲でもないだろうから。


この辺は前の子爵領だったら、担当者の気分次第でわけのわからない出費が通ったり、支払われるべき金が支払われなかったりするよりましだ。


もっと上に聞けば予算なども出してくれたかもしれないが、それはそれでいろいろしがらみがありそうで面倒だ。さほどの金がかかるわけでもないので自前でした方がいい。


フェリス「わかりました。自前でつけるようにします」


そう言うわけで自前でつけることにする。ただ近隣住民には話をしないといけないようだ。まあ町内会などで話せばいいだろう。


それでさすがに俺が全部の町内会を回るわけにもいかないので、各店の店長クラスが各町内会に話をすることになった。


ただ店長に全部任せても後でこちらができることと別だと困るのであらかじめ詳細を詰めておく。


設置するのはうちの店舗か極近所で、基本的にはうちで経費を持つ。鳴らすのは火事や犯罪が起きたときのみだ。



 そんな感じで各町内会に話を持って行ってもらった。そこで店長たちの話を聞くと大半の町内会では寝耳に水ということで戸惑われたようだ。


ただそれでもうちが勝手にやるならどうぞしてくださいという反応が多かったらしい。まあめったに鐘を鳴らすこともないだろうからそういうものだと思う。


ところがやはり変な人は一定割合いるものだ。変な文句をつけてくる人もいる。さすがにそれは店長に任せるわけにはいかない。代言人も同行して話をしに行く。もちろん護衛も連れて行く。



 ある町内会では鐘がうるさいから迷惑料をよこせと言ってきた。泥棒がいたときに鳴らすのだからめったに鳴らすわけでもない。

町内会長A「鐘なんか鳴らされたらうるさくて困る。町内会として補償をもらわないとね」


そもそも補償なんか必要のない範囲だし、それに住民にというならわかるが町内会にというのがわからない。


どうせもらった金で飲み食いするつもりなんだろう。大した金額ではないが、出すべきでない金はそもそも出したくない。


ここに出したことが他に知られて他で求められて困るし、だいたいまともな町内会が金をもらえず、ごね得みたいなのだけがもらえるのもうまくない。


フェリス「他でも出していませんし、めったに鐘を鳴らすこともないので出すつもりはありません」

町内会長A「それじゃあうちの地域では鐘の設置は認められない」


いちおう役所からは地域住民と話すようには言われているが、ただその同意が必須の条件ではない。それでも完全に無視するのもどうかと思う。ついでに言うとうちの店でも町内会費や自警団の分担金なども出している。


フェリス「こちらとしては鐘をつけてもめったには使わないでしょうし、うちだけで使うものではなく近隣の方みんなで使ってもらえればいいと考えていますが」

町内会長A「それでも迷惑なんだ。払うものは払ってもらう」


まったくごね得しようとしているとしか見えない。この人と話していても仕方ないので次回の町内会に出席することにする。



 次回の町内会では鐘の設置の検討についての議題が出された。町内会と言っても話しているのは執行部ばかりで、大半の出席者は早く終わらないかばかり考えている。


町内会長A「というわけでして、シルヴェスタさんの店で近隣の大変に迷惑になる鐘を設置されるとのことで、うちとしては補償を求めているところです」

フェリス「これは泥棒や火事が起きたときに鳴らすものでめったにはならないでしょうし、そう言うことがあればむしろ鳴った方が住民にとっても利益です」


町内会長A「なんであろうと大きい音が鳴れば迷惑だ!」

もうごね得することしか考えていない。出席者の方も早く会が終わって欲しいとしか思ってないようだ。


フェリス「えーとですね。数十の町会にこの話を出していますが、こんな意見をいただいたのはここだけです。こちらだけ特別扱いできません」

町内会長A「うちはうちだ」


フェリス「なるほどそうなるとうちの店は撤退するか、あるいは毎回のお客様の支払いのときに町内会協力金を別にいただくかしないといけなくなります」


これに対しては町内会長Aは嫌な顔をする。店が撤退すれば近隣住民の不便になるし、町内会や自警団に払っている協力金も減る。支払いのときによけいに取られるのも面白くないだろう。


さらに今まで押し黙っていた出席者たちが騒ぎ出した。

出席者A「さすがに撤退は困る」

出席者B「支払いのときによけいなお金を払わされるなんていやよ」


がやがやと騒ぎになってそのまま会議はグダグダになり、わけのわからないまま終わってしまう。



 数日して当該の店長から連絡が入る。町内会の副会長から設置してもいいとの連絡を受けたそうだ。


さすがに住民も執行部というより町内会長の横暴に不満を持っていたそうで、今回の件で火が付いたとのことだ。


いちおう解任はされていないがすっかりレームダックになっているという。しかももう次回の再選はなさそうとのことだ。



 いままでもあまりに身勝手なことを続けてきたのだろう。ただそれが通るとさらにひどい身勝手をしないと損した気分になる。


それが続くとそのうち誰か耐えられなくなる人がいて反発を受ける。そのときに引き下がるか押し通すかの選択になる。


欲得が過ぎて押し通した場合に、それが通ることもあれば、失敗することもある。今回は失敗してしまったと言える。ともかくこの店の鐘の設置は進むことになった。



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