店の護衛の実際の訓練
シンディが商会の中で護衛部門を作り上げようとしている。いまは仲間と一緒に道場に出入りして、素人でもできる護衛方法を考えている。
いまは閃光のスクロールを使う方法を工夫している。それである程度案ができたというので道場に見に行った。
閃光のスクロールについていろいろな強さのものを確かめたらしい。それに使っても後遺障害はないようだ。その辺は安心だ。
それに外に通報するとか逃げるとかいうことも想定に入れている。彼らのように強いと制圧に向かいがちだが、その辺に配慮されているのはいい。ただワンオペを想定しているのはちょっと困る。
フェリス「あのさ、1人でいるときとかって言っていたけど、うちの店で1人ってなしじゃなかったっけ?」
シンディ「そうね。フェリスがうるさく言っているからなしにしているけど、ちょっと外すことはあるわ」
フェリス「それ本当にちょっとなの?」
シンディ「そんなに長くなることはないはずよ」
それならいいんだけど、かってに現場で変な工夫をして1人でやったりはしないでほしい。
人員配置を厚めにしているからたぶんないとは思うけど。あまり成果主義で利益にばかり目を向けさせるとそういうことをしかねないから、後でマルコに見てもらおう。
シンディ「ともかく訓練の成果を見てよ」
ワンオペの件はシンディの担当じゃないし、とにかくそれを見ることにしよう。
フェリス「そうだね」
シンディ「じゃあフェリスも客役で入って」
フェリス「え? 俺も入るの?」
シンディ「その方がいいでしょ。しかも犯人役も店員役もできそうにないんだから」
まあそれはそうだけど。ともかくシンディとエドアルトを犯人役に訓練は始まった。その2人がやはり一番強いらしい。2人は布で顔を覆って目だけ出している。
道場の片隅は机を並べてカウンター風にして、床に印をつけて出口を表していて、警笛もつけている。アレックスは店員役だ。
店番たちが配置についてからシンディたち犯人役が入ってくる。そしてシンディが剣を出して声を上げる。
シンディ「ここにある金を全部出しなさい」
すると緊張が走る。客役の俺もだ。
アレックス「えーと……」
アレックスが戸惑ったように言う。
シンディ「聞こえないの? 早く金を出しなさい」
それで確認が取れたのか、アレックスはカウンターから離れて奥の方に退く。犯人から距離を置くのだ。そして警笛を鳴らす。警笛の音は小さいがたぶん訓練用だろう。道場で本番の大きい音を鳴らすとさすがに他に迷惑だ。
シンディはカウンターを乗り越えようとする。それに対してアレックスは慌てて叫ぶ。
アレックス「言うことを聞きますから他のお客さんは巻き込まないでください」
それに反応して店番は目をそらし、腕で目を覆う。すぐに近くは閃光に包まれる。それで見えなくなる。
よく見えないまま、ドタドタと音がする。しばらくして視界が開けるとシンディとエドは道具で取り押さえられていた。アレックスはちょっと離れたところにいる。
そこでみんなで集まって検討に入る。ただまだちょっと目のあたりがちらついている。
フェリス「なるほどね。いろいろ工夫してあるみたいだね。いろいろ聞きたいんだけど」
シンディ「なんでも聞いて」
フェリス「まず警笛の音が小さいのは訓練のため?」
シンディ「そうよ。さすがにここで何回もならせないから。本番ではもっとずっと大きい音よ」
フェリス「わかった。あとアレックスが最後に離れたところにいるのはどういうこと?」
シンディ「対抗できそうになかったら店員は店の奥に引っ込んでさらに裏口から逃げる想定よ」
ふつうの店は客の入る表口と店員だけの裏口があって、カウンターで空間が分けられている。だから店員はカウンターさえ乗り越えられなければ逃げることもできる。
それはいいやり方だ。店に大金はおかないようにしているから、少しくらいの金が取られても惜しくない。店員がケガをすることの方が問題だ。
フェリス「今回は店番がいたからいいけど、いないときはどうなるの?」
シンディ「基本的に逃げることになるわね」
まあそれはそれでいい。ただ客はどうなるのかという問題はある。今回は俺は放置だった。
フェリス「それだとお客さんはどうなるの?」
シンディ「そうなのよね。そこなのよ。ただどうしようもないから、店員が逃げて外から自警団に知らせるしかないと思うわ」
確かにそれはそれで仕方ない気もする。いくら何でも強盗まで想定して対策していたら、費用が掛かり過ぎる。
フェリス「まあそれは仕方ないか」
シンディ「でも自警団や騎士団とはよく連絡を取っておいた方がいいわね」
確かにその通りだ。ただ何かもう少し工夫の余地はあるような気もする。




