新たな商売のタネ
シンディの護衛部門で受け持つ先を探してうちの商会の高級装飾品店を訓練で襲撃した。見事にそれは成功する。そ
れで警備体制を見直すことになったがシンディが無茶なことを言いだした。護衛に毎日剣術道場に来いという。正直その間の分の給料も出し切れない。
出せたとしてもどれくらい役に立つかどうかわからないものに従業員を動員するのも気が引ける。さすがにそれには文句を言う。
するとシンディは店番が給料なしで来ると思っていたという。さらに店番の方も負けたのだから来るつもりだという。
どこまでブラック脳なんだろうか。それはとにかくやめろと言い、とりあえずアレックスのアイディアで警備専門のマリーク氏に見てもらうことにした。
それはそうと店番の人に聞くと、俺とシンディがまえに店に来た時、ちょっと怪しいと思ったとのことだった。
まず俺たちが完全に子どもだったことだ。シンディはようやく15歳で成人したばかりで、俺はまだ未成年だ。
あの店はそれくらいの子どもが行くには少し敷居が高い。だから明らかに目立ったそうだ。それにそもそもああいう店には馬車で乗り付けるとのことだ。
さすがに俺は子爵の襲撃以来、馬車に乗るようにしているが、やはりあまり慣れない。煩わしいと思ってしまう。視察に行った日はシンディもいたし、白昼の大通りだったので歩いて行っていた。
それからシンディの服があまりにも出したばかりに見えるのも、違和感があったとのことだった。
ただそのように怪しいことがわかっていても対策までは取れなかった。それはまあまた来るかどうかわからない特定の人相手に対策するのも馬鹿らしい。
ただ店の中の方で何かあったときに対応する方法は少し考えてもよかった。警笛を鳴らすようにでもしていれば、強盗も動きにくい。
とりあえずは警笛だけでも取り付けることにした。店の中には店番と店員がいて、どちらもひもを引っ張れば外につけた警笛がけたたましくなるようにする。
それで一発で外に知らせることができる。それに外の店番についてはもしそれがあればすぐに自警団の詰所に知らせるという手順にする。
もちろん自警団にもその旨は伝えてある。もしかするとまったく賊ではない騒ぎでも来ることになるかもしれないが、それはそれだ。
あまりに頻繁では困るが、たまに警笛がなったり自警団が来たりすれば、賊も恐れて襲いにくくなる。
ところでシンディとエドアルトは見事に襲撃が成功してご満悦だ。
シンディ「やっぱり警備体制がなってなかったわね」
エドアルト「まあ、俺たちにかかればこんなもんだよな。さて、次はどこの店を襲撃したらいいのかな」
いや、勘弁してほしい。店員や店番をなだめないといけないし、そんなにどこでもかしこでも立派な護衛を付けられるわけでもない。
だいたいそんなにお金がないところでは襲われにくいだろうし、そんなにどこでも襲われていたら改めて対策を考え直すまでもなくすでにしているはずだ。
それなら街全体の治安の問題で為政者が考えるべきことだし、安全を図るにしても自警団にお金を出すとかそういう方向の方がいい。
フェリス「あのさ、そんなにどこでも専門の護衛なんて付けられないからね。君たちがパンや野菜や肉を買いに行く店に護衛なんていないだろ」
シンディ「まあ、そりゃそうね」
エドアルト「いや、だけど、金を扱っている以上、襲われるかもしれない」
そういう押し売りじみた発想はやめてほしい。
フェリス「護衛なんか付けたらその分、ものの値段が上がってそんな店は誰も来なくなるよ」
シンディ「うーん、そうだけど、ふつうの店員に護身術を習わせたらどう? それなら護衛の研修の分しか費用は掛からないでしょ」
エドアルト「なるほど、それを俺たちの部署が担当するわけか」
いやそれだって聞いたことがない。
フェリス「あのさ、うちの店の店員だって弱弱しいおばさんやなよなよしている男だっているだろ。彼らにそんなことして意味あると思う?」
シンディ「うーん、男の方が少し鍛えてもいいけど、おばさんの方は無理かもね」
エドアルト「ああ、男の方は鍛えた方がいい」
これだ。これだから俺はいつも道場に連れていかれるわけか。こっちの世界で平等がどうとか言っても仕方ないんだろうな。
フェリス「とにかく、そんなのまったく現実的じゃないのはわかるだろ」
シンディ「そうね。でも警笛くらいはつけてもいいんじゃないかしら」
それはそれでまともな提案に思う。それくらいなら費用もさほどではないし、店員の負担も少ない。
さすがに強盗のような犯罪はその辺の店ではめったに起こらないが、小さな窃盗くらいはたまには起こる。
それでも例えば店の外の目立つところに大きな警笛がついていてなることが直ぐにわかれば、犯罪者も近づきにくい。
いや、これってうちの店だけでなく、鳴らす手順なども一体化して売り込めば、他の店にも売れるかもしれない。
新たな商売ができるかもしれないな。シンディたちにはあまり面白くないかもしれないけれど。




