装飾品店の襲撃訓練実行
シンディの護衛部門の仕事先としてうちの商会を見渡して、高級装飾品店に目を付けた。
彼女と視察に行くと、2人いれば強盗ができるという。それはやはりまずいと思う。
そう言うわけで少し荒っぽいが実践演習をすることになった。つまりシンディと誰かが実際に店を襲うのだ。
どう考えても危険だし、前世だったら相手に言わずにするなど許されないが、こちらの世界は割と荒っぽいので可能なようだ。
もっとも日本だって戦前はどうだったかわかったものじゃないし、江戸時代あたりだったら全く大丈夫な気がする。
強盗役はシンディとエドアルトになった。護衛には他にアレックスもいるが、彼は未成年なので俺が強く主張して外した。
店を統括するマルコに聞いて店番の数も把握する。見に行ったときより多いということもなさそうだ。
シンディの方は思いっきりやる気があるが、正直言うと俺の方はあまり乗り気でない。ケガやトラブルもありそうだ。
店番がケガするかもしれないし、強盗役の2人がケガするかもしれない。あるいは店の評判が落ちるかもしれない。
乗り気ではないと言っても許可した以上は店主が責任を取らないといけない。
フェリス「あのさ、くれぐれも言っておくけど、ケガはしない・させないでよ」
シンディ「わかったわ。でも稽古程度のケガはあるからね」
これだ。まあただいまの世の中に基準だとその辺は仕方ないのだろう。
フェリス「あのさ、真剣使うとかもなしだよ」
シンディ「ええ、大丈夫よ。この刃を潰した稽古用の剣を使うわ」
いちおう考えているらしい。だけどあの稽古用の剣だってスパッと切れるようなことはないが、当たったら内出血くらいはする。それもあって俺は道場には行きたくないのだ。
こちらはやはり乗り気でないので、面倒そうなことを言う。
フェリス「あのさ、騎士団とか自警団には連絡とった?」
シンディ「ええ、もう書面で通知して、受け取りももらったわ」
文書などあまり好きでないシンディがきちんとしている。商売の方ではいまいちだったが、こういうことについては気が向くらしい。
しかも出した手紙の控えまであって、その内容もまともだ。
フェリス「これってシンディが書いたの?」
シンディ「ええ、あたしが書いて、アレックスと一緒に直したの」
シンディ・エドアルト・アレックスの3人ともあまり学問などは好まないが、アレックスはそれが大事だと思っている節がある。
武力以外の能力があるのはありがたい。1つのことについて10のことができるのはもちろん有用だが、8ができるより、あることと別のことで5ずつできる方が到達しやすいし組織に役に立ったりする。
ともかくこれで俺の方が逆に外堀を埋められてしまった。外部まで関わったとなると、やめにくい。とはいえ、騎士団も認めたとなればトラブルがあっても言い訳はつく。
俺が浮かない顔をしているので、シンディの方から声がかかる。
シンディ「フェリスは何にもしなくていいから」
そう言われたが、何かあるかもしれないので、店の中までは入らないが馬車で店の前まで行くことにした。
いよいよ実行の日になる。
シンディは前に作った例の服を着ていく。流行りのデザインだが、シンディがいろいろ言ってすぐに外せて脱げるようにしたものだ。下は練習着を少し切り詰めてデザインした服から出ないようにしてある。
エドアルトもやはりよそゆきを着て行った。ただ彼の方もすぐに脱げるようにして、下は同じく動きやすい服だ。
馬車で近くまで乗り付ける。他に客がいると迷惑がかかるのでいなくなるまでしばらく待つ。それほどたくさん入れ代わり立ち代わりという店でもないので、すぐにその時はやってくる。
2人が店に向かい、俺とアレックスは馬車の中で待っている。あとは成功を待つばかりだ。
失敗については誰かが大けがをしたら大失敗だ。シンディたちの剣ははを潰してあるが、相手の方が帯剣していて斬りつけられたらちょっとよくない。
とくに目立たないように鎧の類は来ていない。薄い鎖かたびらのような目立たない防具を開発した方がいいのかもしれない。
俺とアレックスで息をのむようにして待つ。こういう時は時間のたつのが遅い。前世で大事なメールの返事をいまか今かと待つような気分だ。
しばらくして扉が開いて外の店番が中に入っていく。シンディたちが制圧して外の店番も押さえつけるのか、それともシンディたちが制圧されて中と外の店番で縛り上げるのか。一体どちらだろうか。
ただ明らかにダメだと思うことはある。強盗のような事態があったら外に向かって大きく警笛などを鳴らすべきだ。
それができていないということは護衛としては上手く行っていそうにない。どちらにしても護衛は見直さないといけない。おそらくシンディの勝ちだろう。
案の定、しばらくしてシンディとエドアルトが出てくる。特にけがはないようだ。ということは一応成功だろう。
中の人はケガはしてないだろうが、やめるなどと言われるとちょっと困る。苦労性の中年気質が出たところで後始末の話し合いに行くことになった。




