シンディの装飾品店襲撃計画
うちで経営しているやや高級な装飾品店の護衛が大丈夫かどうかをシンディと見に行った。シンディは1人では無理だがあともう1人いれば強盗も可能だと言う。
その話をマルコにすると護衛のことはよくわからないと言う。彼の部下の店長が勝手にやっているのかもしれない。いちおうそれとなく事情は聴いてくれるらしい。
その話をシンディにすると、シンディの方はすでに店を襲う計画を考えていた。
シンディ「あの店員は何か抵抗できそうにないわ。中の店番は少しは腕力はありそうだけど、2人がかりならこちらの勝ちね。あとは外の店番が入ってくる前に片を付ければいいわ」
脳筋ぶりがすさまじい。女盗賊じゃあるまいしと思う。
そうこうしているうちにマルコが店長から護衛の状況を聞きつけてきた。
マルコ「いちおう体術の心得のある人を店番に雇っているらしいけど、専門の護衛ではないみたいだね」
シンディ「そうねえ。中の店番はそう言う感じだったけど、外の店番はあまり武術の心得がありそうでもなかったわ」
マルコ「うーん。そこまではわからない。フェリスの方であんまり根掘り葉掘り聞いてほしくないみたいだったし」
確かにこれから演習とは言え襲撃しようとしているのに事前にふだん以上に警戒されても困る。
フェリス「もしかしたら顔採用かもね」
シンディ「なに? それ?」
フェリス「なんとなくだけど、外の店番はすこし顔が整ってなかった? 店の感じがよくなったり、道行く人が気にしたりするから、そういう容姿のいい人を目立つところに置くんだよ」
シンディ「へえ。そんなのぜんぜん見てなかったわ」
容姿の方は全然見てないが、武術の心得がありそうかどうかはちゃんと見ているところがシンディらしい。
マルコ「まあ採用の方は店長に任せてあるから、わからないよ。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
シンディ「とにかく外の店番は中の店番を片付けている間さえ入ってこなければ特に問題なさそうだわ」
もうすっかり襲撃の計画だ。女の子が装飾品店の運営で商品や調度の話を慕ってよさそうなものなのに。
マルコ「あのさ、辞めろとは言わないけど、お手柔らかに頼むよ。ケガさせるとか店をめちゃくちゃにするとかはなしにしてよね」
シンディ「そんなどんくさいことしないわよ。この前のエドアルトのときだってケガもさせなきゃ、馬車も壊さなかったわ」
フェリス「いや、エドは少し痛がってはいたよ」
シンディ「そんなの稽古のときよりぜんぜん大したことないわ」
確かにその通りだ。けっこうこちらの世界の剣術稽古は生傷が絶えない。そのあたりも俺が道場に行きたくない理由だ。
ともかくシンディは剣術稽古の時くらいのケガは仕方ないと思っているらしい。労災とかうるさかった前世に比べるとちょっと信じがたい。前世でも格闘技当たりの仕事だとその辺はある程度ゆるかったのだろうか。
とりあえずその話は終わりになるが、シンディの方はもう襲撃計画にノリノリだ。
シンディ「早く実行しないとね」
フェリス「あのさ、なんでそんなに楽しそうなの?」
シンディ「だって、後になればなるほどあの店だって危険なのよ」
まあそれはもっともだ。襲われる可能性のある店が、甘い警備のままでは危険なのは確かだ。ただやっぱりシンディは荒事が好きなんだと思う。
フェリス「それで演習のときだけど、俺はいなくていい?」
シンディ「ええ、フェリスがいたって足手まといだしね」
はっきりと言われる。そりゃそうだけど。もう少し言葉選びというものはないのだろうか。
フェリス「もう一人はエドにやらせるの?」
シンディ「そうねえ。それかアレックスかしら」
フェリス「いや、それはダメだ。彼はまだ未成年だ。いくら演習とは言え、襲撃なんかさせちゃいけない」
そう言うと、少しいい方がきつかったのか、シンディが目を見開いている。
シンディ「そ、そう。じゃあエドにするわ」
フェリス「そうしてね」
シンディ「フェリスって、ときどきものすごく主張するのね」
フェリス「ふだんはそうでもない?」
シンディ「うーん、なんていうかいつもはこっちとあっちとあるよみたいに選択肢を出すだけなのに、たまにものすごく強く言うのよね」
それはやっぱり他人の領分についてはその人が決めるべきだと思っているけれど、はっきりしてはいけないこともあると思っているからだろう。
とくに前世の方が社会が発達していたので、してはいけないことがいろいろあった。こちらの世界でもうすうすはしてはいけないと思われているがあいまいだったりすることもある。その辺はかなり強く主張しているような気はする。
フェリス「まあ、でもやっぱり未成年にあれはよくないよ」
シンディ「そうね。そう思うわ。やっぱりあたしとエドでやるわ」
というわけでエドは巻き込まれることが確定したようだ。彼は逃れられないだろう。それもブラックっぽいが業務命令なら仕方ない。しかも犯罪でもなく演習だ。なんとなくこちらの世界に慣れてブラックっぽくなってきたかもしれない。




