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シンディの服が出来上がる

 高級店の護衛に行くにあたり、シンディに普段着だが少しいい服を買うことにした。ところが仕立て屋に行くと動きにくいだの飾りが邪魔だと文句が多い。


何とかなだめて店の方に動きやすくて飾りが簡単に取り外せるものを作ってもらう。職人の方はあまり面白くなさそうだったが、店員の方は何とかまとめようとで応対していた。


素材も変えてあるし、継ぎ目などもふだんの仕様とは変えているそうだ。あとは仕立て上がりを取りに行けばよい。



 そこで仕立て上がりの日が来てシンディと一緒に店に行く。俺が行く必要はないはずだが、こんなものは着たくないなどとぶつかられても困る。


だいたいシンディだっていつまでも道着みたいなものばかり着ているわけにもいかない。



 店に行くと店員に揉み手で迎えられる。かなり面倒な注文を頼んだが、俺が商会主人だと知っているので取引が増えると踏んでいるのかもしれない。


職人の方は不承不承だ。着るシンディと作る職人とが個性と主張をぶつけ合って、俺と店員でようやく取り持っている感じだった。



 出来上がりの方は見るからに見栄えのするものだった。デザインもたぶん今風なんだと思う。その辺は疎くてわからない。


ただあまりに時流に乗ったデザインというのもすぐに古くなって使えなくなるので困るところもある。前世ほど移り変わりが激しくはないが、やはり10年前の流行となるとやはり少し古めかしい。



 店員がシンディに着るように促す。

店員「それでは、最後の確認と手直しになりますので、お召しになってください」

そう言われてシンディと職人を残して俺たちは別の場所に行き、着るのを待つ。しばらくして職人に呼ばれて中に入る。


 正直に言ってかなりよい出来上がりだ。

店員「お美しい! 大変すばらしいお姿です」


もちろん世辞やゴマすりもあるのだろうが、決して嘘ではない。こちらの世界では上流の女性はふくよかな方が好まれていて、シンディはむしろ筋肉質だが、それでも十分に見栄えがする。

フェリス「いやあ、いいよ。ほんと、作ってもらってよかった」

シンディ「そ、そう」

シンディの方はいつもと反応が違う。店員と俺に褒められたことは素直にうれしそうだ。



 それで済むかと思ったが、もう一段あった。

職人「着心地はいかがでしょうか?」


さてそこが問題だ。少し見せる衣装だと見栄えを優先して着心地は犠牲になっていることも多い。特にシンディは激しく動き回るのでその点は人一倍だ。


さっそく飾りを取り外して、剣術の方のような動きする。とてもこの場所でこの衣装でするような動きではない。職人の方は引きつっているし、店員も戸惑っている。


職人「あまり激しい動きは想定しておりません」

シンディ「だけど敵に襲われたらどうするの?」

職人「それは殿方にお任せするしか……」

シンディ「その殿方が頼りにならないの!」

はっきり言われてしまい、店員と職人はこちらを見る。いや、そう言われても。だいたいシンディは道場でだって、師範や師範代やよほどの高弟以外より上なのだ。


フェリス「まあシンディは剣術道場でも有数の実力だから」

そう言うと店員の方は苦しそうに愛想笑いし、職人の方はますます引きつる。空気に耐えられなくなり、話を元に戻す。


フェリス「それで着心地はどうなの?」

シンディ「うん、ボディの方は悪くないんだけど、肩がちょっと動かしにくい」

職人の方はもう反応もできないようで、店員が取り持つ。

店員「それではお直しするようにいたしますので」



 けっきょくもう一回店に行くことになり、その時はシンディは何とか納得した。俺と店員は引きつった笑顔で話す。


フェリス「今回はいろいろ面倒な注文ですいません」

店員「いえいえ、お客様のご要望にお応えして喜んでいただけるは当店としても大変に光栄です」


フェリス「だけど、こんな面倒な客もいないんじゃないですか?」

店員「いろいろなお客様がいらして、もっとご注文の多い方もいらっしゃいます」


その点は深く聞いてみたかったが、店員の方は上手くごまかして教えてくれない。本当にあるのか、それともこちらに気を使っているのか。プライバシーもあるし、もう少し付き合いが深くならないと教えてくれそうにない。



 ともかく服は仕上がって、持ち帰ることにした。せっかくできたので、商会の皆にも見せたかったのだが、シンディの方は興味なさげに放ってある。

フェリス「あの服着ないの?」

シンディ「だってあれは高級店だの帰属や金持ちの家に行くときに着ていくんでしょ」

フェリス「だけどふだんも着られるようにしたんだし、またくたびれたら作ってもいいよ」

シンディ「えー、またあれやるの面倒くさい」

フェリス「一度くらいあれで商会に来てもいいのに」

シンディ「だってあんなの着ていくところじゃないでしょ。なんていうか、高級店に着て行かないといけないんだから、戦場につけて行かないといけない鎧みたいなものよ。商会に鎧はつけて行かないでしょ」


やれやれ。他の女の子だったら喜んで見せびらかしそうなのものなのに。まあ人それぞれだ。とにかく視察の準備は整った。










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