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服屋での対立と妥結

 シンディが高級装飾品店を見に行くのにふさわしい服を仕立てようとしている。そこでうちの商会の従業員に教えてもらった流行りの店に来ている。


女性職人は服にある程度は装飾があった方がいいと言うが、シンディは剣を振るから動きやすいものにしたいと言う。そこで職人は当惑する。


職人「そうですねえ。こちらの胸の飾りでしたら少なめにしてもよろしいかと」

シンディ「腕の方も何とかならない」


職人「こちらをなくすといろいろバランスが」

シンディ「それになんとなくだけど、服が硬いのよね」

職人「いまはこのようなタイトな服が好まれておりまして……」


いちいち合わない。その後もやり取りするが、やはりシンディはシンプルかつ動きやすいものを主張し、職人さんの方はかっちりした上に装飾が多いものを勧めてくる。やりとりしているうちにどちらもうんざりしてきたようだ。


シンディ「ねえ、もうふだんの服でいいんじゃない?」

職人「あのー、当店でなくてもどこかよそのお店も見ていただいた方がよろしいのではないでしょうか」


まったく対立していたのに、こういうところだけは気が合う。


正直言って目立たないための服なんだからシンディも少しは我慢してほしいし、職人さんの方も女性が動きやすいことを追求した服についても考えるべきだと思う。と、他人事なので勝手なことを考える。



しかしまあ職人の方の言うこともなかなかすごい。うちじゃお断りと言わんばかりだ。表情も少しぶすっとしている。


そりゃまあ大した金額ではないし、どこか胡散くさげな子どもだと言うのもわかる。流行店であると言う矜持もあるのだろう。


ところが女性職人の言に初めに応対した店員があわててやってきて二言三言耳打ちする。すると職人の方は途端に愛想笑いする。


職人「もう少しご相談しましょうか」


たぶん俺がシルヴェスタ商会の主人だとでも吹き込んだのだろう。客を値踏みして態度を変える店というのも気になるが、事を荒立てても面倒なのでそのまま行く。だいいち他に服を作るところを知らない。



 どうしようもなくなって職人が少し検討してみるので後日お越しくださいと言う。もう一回来ないといけないらしい。


シンディは何か言いたそうだが、おさえてもらう。彼女の言いたいこともわかる。


前世の19世紀以前の女性服というのも庶民向け以外は相当変なつくりのものがあったが、提案されている服はそれに近いものがある。


ただいまは目立たないつまり高級店などで他の人が着ているのと同じものが欲しいというのもある。

それは今後、シンディがフォーマルな場に行くときにも必要になるとは思う。ただ、もう一回来て、また同じやり取りは避けたい。


フェリス「あのー、差し出がましいですが、見せかけだけ硬めに作ってあって実は動きやすいとか、装飾もついているけど簡単に外せるとかそう言うのはできませんか?」


ちょっと思いついたことを提案する。前世でフォーマルなところに行くための革靴風に見せかけたスニーカーが売られていたことを思い出した。


店員「なるほど、それでしたらうまくいくかもしれません」

職人を差し置いて、店員の方が返事する。シルヴェスタ商会の主人に対する言だろう。職人の方は当惑している。


そういえば前世でも営業と技術者が全くそりが合わず、金を稼いでいるのは俺たちだとか、中身のこと何にもわからないくせになどと言い合うのを見た気がする。表に出ていないだけましか。



 店から退出し、シンディはうんざりしたようにまくしたてる。

シンディ「あー、もうめんどくさい。ふだんの服でいいじゃない。なんであんな拘束着みたいなの着ないといけないの?」


まあ、言いたいことはわからないではない。流行りに合わせると言うのも面倒な話で、だいたい流行りを作っている連中に従うことだ。


ただまるっきり逆らっていると損をする場面もあるので、ほどほどには付き合わないといけない。



 彼女がご機嫌斜めなので、パンケーキでも食べに行く。男ものばかり好む割にはこういうものも結構好きなのだ。


いくら食べてもそれ以上に動くので、ちっとも太ったりもしないから食べ放題のようだ。食べ方がやけ食い気味だ。そこでも面倒な服は着たくないなどと聞かされる。



 そして後日あの店に行く。また店員と職人に出迎えられる。店員の方は猫なで声で、職人の方は少し顔が引きつっている。


店員「ご要望に答えまして新しい提案をしたいと存じます」

なにか前世の営業でもこの手の者はあった気がする。そこで職人の方が続ける。少し不承不承だ。

職人「動きやすいとのことでしたので、少し素材を変えました。また継ぎ目のところなども固定を外したりゆるめに作ってあります。また装飾につきましてはこちらのように簡単に取り外しができます」


きちんと考えてくれたらしい。職人の方はいろいろ気に入らなかったのだろう。とは言え、それらしい見栄えに仕上げたのは彼女の技量だ。


シンディの方もやはり少し不承不承気味だが納得して何とか収まった。あとは本仕上げになるそうだ。



 そこで支払いとなる。何かいろいろ面倒なことをさせて5万で済まないような気もしたが、店員さんに聞くと初めの約束通りの5万でいいと言う。そのへんは有言実行だからなのか、俺が商会主人だからだろうか。


あるいはこれからこう言うものを売って行こうと言うのかもしれない。

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