シンディの服を作る
うちの商会で護衛が必要な部門を探してみると、高級装飾品売り場と現金輸送がとりあえず見つかった。
装飾品の方はいちおう護衛らしきものがいるが、どのように運用しているかわからない。シンディに相談しても見たことがないから知らないと言う。
視察に行ってもらおうとするが、シンディの格好は道着のようなものでちょっとふさわしくない。とりあえずシンディにちょうどいい服を選ぶことになった。
マルコに相談すると女性従業員を紹介され、彼女にどの店に行くといいかを聞く。やはりクルーズンは大都会だけにいろいろと服の店もあるようだ。
なんでも流行があってそれを捉えた服を売っている店に行かないといけないそうだ。男でもそう言う店はあるのかもしれないが、やはり流行り廃りはゆるやかだと思う。
もちろんシンディはそんなものには全く興味がないようだ。従業員の話を聞いても、まるでピンと来ていない。
なおセレル村にいたころは仕立て屋がいたのとマルクの店で服も置いてあったくらいだし、クラープ町はさすがに服屋くらいは2~3軒あったが選ぶような感じでもなかった。
ともかくその従業員に服屋を教えてもらい、そこに行くことにする。
服屋に行くと店の外観も少し気取っている。看板やらも誰かデザインのセンスのある看板屋に頼んだのだろう。それに扉などの調度も高級品だ。
少し重い扉を開けて中に入る。店員から何か奇妙なものでも見るような目で見られる。考えたら俺も適当な服を着ているし、シンディの方は道着なみだ。
客が多数いたらいたたまれなかった気もするが、幸いそれほど多くはいなかった。服を買いに行くのにマシな服を着て行かないといけないと言うのもなかなか面倒なところがある。
少しすました顔の背の高い男の店員の方は、気を取り直したようでこちらに話しかけてくる。
店員「ようこそ。何が御入用でしょうか?」
フェリス「彼女に少しいいところに行く堅苦しくない程度のものを用意してほしい」
そう言うと店員は少し戸惑う。彼が戸惑っているのはたぶん俺たちの格好がいい加減なのに加えて、俺たちがまだ年少だからだろう。案の定聞いてきた。
店員「ご予算はいかほどでしょうか?」
つまり支払いできるのかと聞いている。聞き方としては問題ないし、聞いておくのもいいかと思う。話が進んでから支払えないと言うことになるとお互いさらに不幸になる。
フェリス「5万くらいでどうにかなりますか」
別に晩餐会に行くためのドレスというわけでもないので、そんなに無茶苦茶高いものでなくてもいい。
ところで考えたら、いままで領主の伯爵の前にもシンディは平気で道着に近いものを着ていたと思う。もっとも本人の中でも俺の中でも護衛に近いからそれでいいのかもしれないけど。
店員「はい、それでしたら十分です。親御さんはどちらかでご商売でも?」
支払えるのかが心配なのだろう。俺が金持ちの子ならいいようだ。
フェリス「私自身がシルヴェスタ商会で主人をしています」
そう言うと、店員の方は目を見張る。多少は有名な商会だからだ。
店員「これはこれは、ようこそお出でくださいました」
いちおう支払えることが分かったらしい。
ところでこういうところは既製品の服がないわけではないが少ない。工業的な流れ作業のような形態になっていないので、そう言うものを作ってもあまり有利でないのだろう。
むしろ吊るしの服が売られているのは古着屋の方だ。あちらはもちろんすでにできている服だ。たいてい庶民はそう言うところで買ったり、むしろ親や知り合いから引き継いだりする。
工業的にできないからだろうが、そもそも服の値段が高いのだ。
店員に促されて店奥のスペースに行く。採寸をするらしい。女性職人が出て来て、シンディに巻き尺を当てる。ところが彼女もまた当惑しているのだ。
職人「何か競技などをされているのでしょうか?」
シンディ「ええ、剣術に格闘術に他にもいろいろしているわ」
職人「どうりで、いえ、ずいぶん筋肉がついておりますことで」
シンディ「まあ、筋肉はつけないと動きにキレが出ないから」
職人「大丈夫です。私どもは対応できます。ところで何かご希望はございますか?」
シンディ「そうね、とにかく動きやすくして」
そう言われて職人は当惑している。色とか飾りつけとかその類のことを聞きたかったのだろう。
職人「さいきん流行の装飾はこちらとなっておりますが……」
シンディ「それつけると動きにくそうね」
職人「ええ……、確かに……」
シンディ「じゃあ、いいわ」
職人「どういった御用向きに使われるのでしょうか?」
シンディ「え、なんだっけ?」
そう言ってこちらに聞いてくる。仕方ないので代わりに答える。
フェリス「えーっと、少し高い店に行くとか、正式な会ではないけれども少しよそ行きに近いものが欲しい」
職人「そうしますと、やはり一定の装飾はあった方がよろしいかと」
シンディ「でもね何かのときには剣も振るから、それができるようにして欲しいの」
そう言うとますます職人の方は当惑する。男性の方はそういう需要はあるが、女性向けではめったにないのだろう。




