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シンディの襲撃

 俺や店の護衛を組織的にするためにエドアルトという若者を雇ったがどうも注意力が足りない。剣術の腕はまあまあのようだが、警戒心なしでは何かのときに対応できないかと思う。


警備部門を任せているシンディも不安視しており、こんどエドアルトを試すことにした。試す方法は俺が出歩くときにシンディが襲撃して、エドアルトが守れるかどうかだ。


計画はほぼ整い、馭者には間際に伝えることにして、自警団や騎士団にもいちおう通知しておいた。警笛がなって彼らが出動することになると迷惑になるからだ。



 実行の日が近づく。エドアルトに気づかれてはいけない。俺の方も平静を装わないといけない。襲う場所は大通りから少し入った路地だ。


俺を恨む子爵の手下のヤクザ者に襲われて以来、馬車で移動している。それでシンディが護衛していたときはシンディの主張で基本的に大通りしか通っていなかった。


襲撃されにくいし、されてもすぐに官憲が駆け付けるからだ。エドアルトになってからは俺が何か言うと平気で路地に入っていく。


シンディはそれは止めていた。立場は俺の方が上だが、専門家の観点で必要なことであれば主張した方がよい。若いエドアルトにそこまで求めるのも気の毒だが、やはり物足りない。



 実行の日になる。事前にシンディとは打ち合わせる。馭者にも伝えたそうだ。いつものように執務を終えて馬車に乗る。エドアルトも同乗する。


気づかれないようにか馭者が言葉少なに出発を伝える。まずは大通りを走り、実行地点に近づく。あらかじめ指示していたように路地に入っていく。


エドの方は何か紙の束を読んでいて気にもしていない。スマホ依存の若者のようだ。



 路地では馬車はさほどのスピードが出ない。もともと馬車は大したスピードではないが、大通りなどだとやはり徒歩では追いつくのがつらい速さになる。しかし路地ではのろのろだ。


そう言えばソ連の共産党書記長の御用車ジルは影武者も含めて4台が猛スピードで走っていたらしい。こんなことを知っているのも俺がおっさんだからだ。


そしてそろそろ地点というところで、馬車が止まる。戸がノックされる。こういうことはふだんでもある。自警団などが止めるのだ。ただたいていは馭者が対応して済むことだ。乗客まで聞くことは少ない。それでもエドの方はまだ紙の束を読んでいる。



 自警団の扮装をしたシンディが入ってきて何か話す。覆面で顔を隠している。エドが紙の束を下ろす前にシンディは木刀で彼を打ち据える。かなり痛そうだ。エドは痛みにあえいでいる。


すぐにエドの首に腕をかけて締める。気を失うほどではないがもはや抵抗はできそうにない。その間、エドは対抗もできず、警笛を鳴らすこともできなかった。


すぐにシンディはエドを縛り上げる。それからエドに目隠しをして口にはさるぐつわを噛ませる。声を出せないようにだ。俺はのほほんと見ている。



 その後は二人とも口も利かずに馬車に乗り続ける。この辺は事前に打ち合わせておいた。エドアルトにすこし思い知らせるためだ。凶漢に襲われて殺されるかもしれないと思っているだろう。


そのまま馬車で連れて行き、俺とシンディは馬車を降り、エドアルトはそのままにする。外に出て彼に聞こえないところで話す。


シンディ「一晩放っておきましょう」

なかなか厳しい。ただその間に何か病変でも起こると嫌なので、さすがにしばらくしたら解放するように言う。


フェリス「少しくらいは怖い目見せてもいいけど、ショック死したりしたら寝覚めが悪いから適当な時に解放しよう」

シンディ「甘いわねえ」


この辺の考え方の違いは社会の違いもあると思う。もう一つは戦争からの時間だ。俺の前世では十代の頃にすでに戦争から50年はたっていた。だがこちらでは30年ほどだ。


戦争の規模にもよるが、戦争にさらされると人を殺したり傷つけたりすることに平気になるような気がする。その点、俺の方が暴力に抵抗があるのだろう。


けっきょく夜に解放することにする。エドは寝落ちしていた。シンディはエドを引っ張り出し、桶で水をぶっかけてから目隠しとさるぐつわを解く。


シンディ「起きなさい!」

エドアルト「えっ!? なに?」


シンディ「なにじゃないでしょ? あんた襲われたの!」

エドアルト「えーっと」


シンディ「エーッと、じゃないでしょ。フェリスはどうしたの?」

エドアルト「あっ、フェリス、フェリスは……」


当たりを見回すようなそぶりをする。俺の方はいちおう隠れて話を聞いている。これからシンディはお説教タイムになるのだろう。まあエドを首にするつもりはないが、少し心を入れ替えてもらわないと困る。


エドアルトの方はすっかり茫然自失の様子だ。

シンディ「何があったの?」

エドアルト「えっと、自警団が馬車に入ってきて……」


シンディ「それでどうしたの?」

エドアルト「いきなり襲われて……」


シンディ「警笛は鳴らしたの?」

エドアルト「警笛は……、鳴らしていません」


すこし考える時間はあったが、正直に話した。ここで嘘をついていたら、またシンディが怒って面倒なことになっていた気がする。


シンディ「それでどうしたの?」

エドアルト「えっと、縛り上げられて、その後は覚えていません」


こちらの知っている通りだ。エドアルトは大失敗をしでかしたのに気づいたようで、きょろきょろあたりを見回して落ち着かない。さて、シンディはどう収めるのだろう。


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