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八百長の準備

 護衛についてシンディ一人でするのは限界だし、俺だけでなく店の護衛も必要なので、人を1人採った。エドアルトという若者だ。


だがどうも注意力が足りない。護衛を甘く見ているようだ。シンディは彼には任せられないと、彼女の当番でないのに俺たちの馬車を付け回していた。


さすがにその状態では困る。シンディにどうにかするように言うと、シンディが俺たちの馬車を襲ってエドアルトに思い知らせる計画を持ち掛けてきた。



 ちょっと無茶苦茶だが、効果はある気もする。ついでにいちおう彼女に任せているので、いちいちダメだししたくない。大きなトラブルが起きそうにないなら、実施すればいいと思う。


ただ騎士団や自警団には話を通しておかないといけない。馬車には警笛がついているので、エドアルトか馭者が警笛を鳴らしたら彼らが駆け付ける。


さすがにこっちの訓練まがいの襲撃でそんなことになれば迷惑だ。



 いろいろアイディアを思いついて人を巻き込んで実施したがる者はいるが、細かい準備やめんどうな連絡調整はしたがらないとかできない者は多い。


正直言ってその手の人間は勘弁してほしいところがある。軍師気取りで人に面倒を全部押し付けるタイプだ。


その点、シンディはたしかに細かい準備は得意ではないが、騎士団や自警団に連絡をつけるなどはお手の物だ。だいたい道場がらみで知り合いも多い。あっという間に連絡をつけてきた。


細かい準備の方はそのうち部下を付ければいいのだろう。



 日程も決まり八百長の襲撃についていろいろと細部を詰める。それでちょっと思い出したが前世で世界のどこかに略奪婚というのがあり、花嫁を略奪する行為があった。


日本でも昔はあったらしいのだが、時代が下るとご両家で略奪の日程と場所を決めて奪うなどと言うこともあったらしい。社会が高度化するとそういう変な八百長も起こるのだろう。今回のはそう言うものではないけれど。



 襲撃ポイントもきちんと定める。また大通りではないところだ。大通りだと人が多数いるので、目につきやすい。


また路地に入ったところにする。ここ2回くらい路地に入っているので、馭者もエドアルトも慣れていると思う。


とつぜん路地に入ったりしたら、警戒するだろうが、繰り返していればそんなものだと思うのが人間だ。さらに検討を進める。


フェリス「どこか他に抜けはないかな」

シンディ「そうね。馭者も警笛は使えるのよね」


フェリス「うん、そうなっているね」

シンディ「そうすると、馭者が警笛を鳴らすと騒ぎになってしまいそうね」


フェリス「馭者にも伝えておいた方がいいかな?」

シンディ「そうねえ。ただ彼がエドアルトに話しちゃうとまずいのよね」


フェリス「それは訓練だからと十分に口止めしておいて」

シンディ「だけど彼はエドと仲良さそうなのよね。しゃべっちゃわないかな」


フェリス「訓練として重要だし、よほどエドがひどいことしない限りは首にはしないとちゃんと言っておけばいいよ」

シンディ「それもそうね」


首にしないことははっきり守らないといけない。あまりに厳しすぎることをすると、怪しげな裏対策が次々にまかり通る。


賞罰については妥当なところを目指して少しくらい甘いくらいにしておかないと働いている人が気が抜けなくなる。


そう言うわけで日程も詳細もほぼ決まる。ただ雨が降らないといい。雨だと襲ったり撤収したりするのもやりにくくなる。


本当に襲うときは雨だったら順延ということもあるのだろうが、今回みたいに多くの人と調整するとなるとそれもやりにくい。まったく面倒なことだ。




 家に帰ってクロを撫でようとするが、人の顔を見て逃げてしまう。それでも真剣に逃げようとはしないので簡単に捕まる。


とはいっても抱きかかえていると、じたばたしてあまり居心地がよさそうでない。そうまでして捕まえていたいとも思わないので、放してやる。


これがアホの神だったら、絶対に放しそうにない。



 そう思っていたら、そのアホの神がまるでこちらを馬鹿にするかのような顔で見ている。俺がクロに相手にされていないことで気分を良くしたようだ。


そこで自分なら相手をしてもらえるとばかりに手を出す。ところがそこは案の定だ。もちろんクロは神も相手はしない。


神の方はあの手この手でしつこく付きまとう。抱きかかえたりもするが、じたばたして下に降りてしまう。脱兎のごとく逃げると言うことはないのだが、いかにも嫌そうだ。


のらりくらりというかするすると神から逃げていく。そう言うと何か恐ろしいことをしているようだが、実際にはクロは神よりも上位の存在なのだ。神の方もすっかり落ち込んで諦めている。



 そんなことをして翌日になると、また俺にも神にもべたべたと甘えだすのだ。猫なんてそんなものなのだが、いつになっても慣れない。

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