60. エドアルトの警護とシンディの隠し事
護衛についてシンディ一人でするのではなく他の人にも任せていく方向にしたい。シンディはエドアルトという若者を雇った。
若者と言っても俺たちよりは年上だ。むしろ俺たちが子ども過ぎるともいえる。ただ正直、まだエドアルトに護衛を任せるのは不安なところがある。
一つには言葉遣いがぞんざいすぎる。俺たち相手ならいいが、ちょっと外には出しにくい。もう一つは護衛に必要な警戒心などが足りないように思うのだ。
それは単に経験が足りないとかそう言う類だとは思う。それでも今のままだと不安だ。
フェリス「ところでエドアルトについては、それ以外もちょっとある」
シンディ「ええ、まあ」
何か、反応がよくない。もしかしてなにか気づいているのかもしれない。問い詰めようとするが、うやむやにされてしまう。困ったものだ。
次にエドアルトの護衛で出かけたときも、彼はなんとも緊張感がない。
フェリス「護衛の方、大丈夫なの?」
エドアルト「大丈夫だって。俺は剣術の腕も確かだからな」
確かにそれなりの腕だが、シンディには負けている。しかも護衛は剣術だけというわけではない。
フェリス「前に俺が襲われたときは3人がかりだったよ」
エドアルト「それで中からも操作できる警笛がつけたんだろ。あれ鳴らせば賊だって驚いて逃げていくよ」
そう言うがとっさのときに扱えるのか。シンディは馬車に乗るたびに小さく鳴らして確認していた。
この前はごまかされたが、やはり上司のシンディに確認する必要がある。
フェリス「エドアルトのことだけど、ちょっと護衛まずいんじゃない?」
シンディ「あれね、何とかするから」
フェリス「『あれ』って、何?」
どうやら気づいていそうだし、そうでなくてもお互いに別のものを見ていると困る。
シンディ「エドが注意力散漫で、警戒心が足りず、とっさのときの判断力に問題があって、剣技や格闘術の方もまだまだってことよね」
何か俺の気づいていないことを次々並べ立てる。
フェリス「ちょっと待て。そんなにいろいろ欠点があるのか?」
シンディ「え? 違ったの?」
フェリス「注意力散漫と、警戒心が足りないのは気づいていたけど、他のは知らないぞ」
そう言うと、シンディは明らかにまずそうな顔をする。
シンディ「まあ、その点は……、成長を待つと言うことで……」
何かいつもの歯切れの良さがない。彼に俺の護衛を任せて大丈夫なのだろうか。
フェリス「あのさ、彼に護衛を任せて大丈夫なの?」
シンディ「いや、まあ、その点は……」
フェリス「その点は……なに?」
シンディ「えっ……と、何というか、エドでもできる範囲の護衛を任せていると言うか……」
フェリス「彼でもできる範囲の護衛って何?」
シンディ「だから安全なところで……」
何とも歯切れが悪い。俺の安全を犠牲にして彼の訓練をしているのか?
フェリス「あのさ、実際に子爵の配下に襲われているわけだから、あんまり甘いことしていられないよ」
シンディ「それはわかっているわ。その辺はちゃんと考えて……」
フェリス「どう考えているの?」
さすがに問い詰めると、シンディはしぶしぶ答えた。
つまりシンディが不在の時というのは彼女に用事があって出かけたいと言うときはなくて、実際には安全な昼ばかりを選んで別行動していたと言うのだ。
もともと彼女自身は別行動の気が進まなかったが、俺が無理に勧めるので何とか合わせていたそうだ。
さらに子爵配下に襲われていらい馬車で行き来してるが、その通り道も御者に指示して必ず人通りの多いところを通らせていたとのことだった。馬車の中では考え事をしていたので気づかなかった。
しかしまあ、ずいぶん手の込んだことをする。あまり彼女らしくないが、こういう荒事になると気が回るのだろう。
ところでそんなに甘やかしていて成長するのかという疑問と、シンディが自分の時間を取れていない問題を抱えつつ、もう少し様子を見ることにした。
ところが事件が起こる。ある時に俺のとは別の馬車が脱輪事故を起こして立ち往生してしまったのだ。ふつうはすぐによけるのだが、それがうまくいかなかったらしい。
たちまち道が渋滞して、人が群がったりしている。シンディではなくエドアルトが護衛のときだった。エドアルトに外の様子を見るように指示する。
フェリス「どうなっているか外の様子を見て」
いちおう素直に言うことは聞くが、報告の方が要領を得ない。何かよくわからないことを言うので、俺も外を見たくなった。そして外を見ると、あるものを見つけてしまう。
シンディだ。シンディが変装して近くにいる。別行動しているはずだが、もしかして今までも俺の護衛が不安でずっと付け回していたのか。
馬車と言ってもよほど急ぐときは別だが、ふだんはふつうの人が歩く倍ほどのスピードしか出ない。もちろん街中でスピードなど出せず、体力のある人が駆け足をすればすぐに追いつく。
こんなふうにずっとついていたんじゃせっかく人を雇っても、まったく無駄になる。さすがに彼女を問い詰めることにした。




