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契約書はよく読んで

 シンディが護衛組織の長につくのにいろいろ説明してきた。事業に失敗したら辞任はあるが、うちの商会が出資した金は返さなくていいと言うことだ。


ただちょっと不安なこともある。ともかく書類を作らないといけない。代言人のカルター氏にときどき来てもらっているので、書類を見てもらい、改めてシンディに説明してもらう。内容は俺が言ったことと、ほとんど同じだ。


シンディ「わかったわ。ここに署名すればいいのね」

シンディは書類をよく読まずにペンを取ってサインする。やはり不安は的中した

確かに形式ばった文章で長いので読むのは面倒だ。だが読まずにサインはどうかと思う。



フェリス「こういうことはしたくないんだけど、これはダメだよ」

シンディの方はきょとんとしている。

シンディ「え? なんで?」


フェリス「何でも何も、書類読んでないでしょ」

シンディ「内容は説明してもらった通りじゃないの?」


フェリス「うん、この書面は何かあったときにシンディが自分の財産で補償する内容だ」

シンディ「えー、あたしのことだましていたの?」

フェリス「だまされる方が悪い」


シンディは半分涙目でおろおろしている。実は単に簡単に契約書にサインしないように教えるためで、彼女に財産的な責任を取らせるのは本意ではない。



 前世では人を試す方法をいろいろ考えて、自分がさも上手いことを考え付いた知恵者かのように自慢する者がネットにはいた。


だが人を試そうなんて発想自体がそもそも卑しい。もちろん何かの権限を持っているとか特別な地位にあるなら、状況によっては試されないといけない。


だがそうではないふつうの人がいちいち試されなんて煩わしいし、そんなことはするべきでもない。



 だからここで俺がシンディを試しているのもいやらしいことだけれど、ただ彼女はこれから権限を持つのだから仕方ないところはある。


今回みたいな調子で、簡単にサインされても困る。だいたい俺は今までサインを使ってずいぶん悪人をはめてきたのだ。仕返しされてもおかしくない。



シンディ「事業を失敗しなきゃいいんでしょ」

シンディは強がりを言う。

フェリス「そう言うことじゃなくて、別にこれは本意でははないよ」

そう言って、いまの書面を破り捨てる。

シンディ「何やっているの?」


フェリス「だからこの契約はなしだ」

シンディ「どういうこと?」


フェリス「あのね、君から財産を奪いたいんじゃなくて、契約書にサインすることがどういうことか知ってほしいんだ」

シンディ「契約書って、ここに書いてあることをお互いに守るってことでしょ」


フェリス「うん、そうだ。だけど事業が失敗したら財産全部差し出せなんて条項を守れる? そう言うつもりはあった?」

シンディ「なかったわ」


フェリス「じゃあ簡単にサインしちゃいけない」

シンディ「でもフェリスがあたしをだますなんてことは考えられないわ」


フェリス「いま俺は君をだまそうなんて思ってないけど、未来永劫にそうとは限らないよ。もし俺が金に困って君が金を持っていたらだますかもしれないよ」

シンディ「そんなの考えられないわ」


フェリス「そう言ってもらえるのはうれしいけど、実際に信頼していた人に裏切られたなんてことは世の中にはたくさんあるよ。人は変わるし、人のことを知っているつもりで実はぜんぜん知らないなんてこともよくある」

シンディ「ふーん。なんかフェリスは……」

そこで言いよどむ。


フェリス「俺が何?」

シンディ「フェリスは中年のおじさんみたいね」


うっ。そうきたか。確かに俺は中身は中年のオッサンだ。しかも若い女の子に上から目線でいろいろ教えるなんて完全にそれだ。だけど透き通る肌の少年を見て、中年のおじさんはないだろう。


フェリス「まあそれはおくとして、とにかく契約書に簡単にサインしちゃダメだ」

シンディ「じゃあ、どうしたらいいの?」


フェリス「まず、よほど簡単なものでなければ、契約書を受け取ったその場でサインするのは絶対ダメ。必ず持ち帰る」

シンディ「持ち帰ってもよくわからないわ、こんな書類」


フェリス「持ち帰ったらお金を払って法律家に相談する」

シンディ「法律家なら、さっきカルターさんが説明してくれたじゃない」


フェリス「相手が用意した法律家は相手の味方だ。その場限りなら嘘だってつきかねないし、表面的に本当でも実質嘘なんてことは当たり前に言う」

シンディ「そうなのね。でも口で話した内容も契約じゃないの?」


フェリス「いちおう契約だけど、それを保存する方法でもなければ、そんなものは裁判所では取り合わない。公的に多数の面前で言ったことでもなければ書面に比べてぜんぜん力はないよ」

シンディ「そうなのね」


フェリス「じゃあこちらにちゃんとした契約書を用意したから……」

そう言ってシンディに渡す。シンディは一応内容を確認する。

シンディ「やっぱりわからないわ」


フェリス「わからないときはどうするんだっけ?」

シンディ「とにかく持ち帰る。そして法律家に相談する」

フェリス「そうだ」


シンディ「法律家ってどうやって探せばいいの?」

その答えはカルター氏に任せる。彼に目配せすると彼が答える。

カルター「もしシルヴェスタさん以外からの契約を持ち掛けられたら私に相談してください。今回の場合は裁判所の近くに代言人協会があるので、そこで相談すればいいでしょう」


シンディ「わかったわ。ではこれは持ち帰ります」


代言人協会に行くのも面倒だし、契約書を法律家に見てもらうのも金がかかるが、それくらいはした方がいいはずだ。とにかく一歩先に進んだ。



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