ギフトを受け取る(下)
ギフトを受け取り、俺はギフトをいろいろな状況で確かめてみた。魔物の前などで使うときでも間違いないようにだ。
だいたい神の言う通りで、クロのことを念じながら、壁や床に穴をあけるようにしてホールを作ることができる。
中に入ると真っ暗な空間で、体感で1mほど歩くと行き止まりとなる。その行き止まりでまた壁に穴をあけると目の前にクロがいる。
そして自分の体と自分が念じたものをクロの前まで持っていくことができる。
また1日ほどは前にいた場所に戻ることもできる。
これも厳密には1日ではないようで、鐘の音をもとに時間を測って元の場所に戻れるかどうか試してみると多少のずれはあるようだった。1日よりずっと余裕を持たせて戻った方がよいように思う。
それからホールは2つ作ることはできないようだ。つまり1日以内でも地点Aからクロのところにホールで戻り、また歩いて別の地点Bに移動してホールを作ってクロのところに行くと、元の地点Aとの間のホールは消えてしまうようだった。
もしかしたら残っているのかもしれないが、少なくとも使うことはできなかった。
それから持っていけるものは動かせるものだけのようだ。だから建物などは到底無理だし、大きい家具なども今のフェリスでは難しい。人に手伝ってもらうことも試してみないといけない。
いったんギフトをもらってしまえば、後は便利に使うことにした。といっても、ほとんどほとんど教会の中だけなので、移動するにしても大した距離ではない。結構ややこしいのはたどり着くのがクロのいるところということだ。
クロは教会の2階の寝室にいることが多いが、居間にいたりすることもある。また外を出歩いていることもある。
そのたびごとに出る場所が異なる。クロはたいてい夜になると帰ってくるが、これでクロがいなくなっても安心だ。
あまり高い木の上などには登らないでほしいが、その時はホールから引き返すこともできるので、一応こちらに危険はなさそうだった。
ところでこの能力は人に言うときにはギフトだが、俺の中ではチートである。だいたい贈られたのではなく猫の世話の対価に受け取ったとものである。
そのうちにロレンス司祭はフェリスがいたはずのところから突然消えたり、いないはずのところに突然現れることに気づいた。
さっきまで礼拝堂にいたはずなのに気づいたら寝室にいたり、庭で遊んでいたはずがいつの間にかいなくなっていることもあった。
初めはたいして気にも留めていなかったが、あまりにも度重なるとやはり何か特異なことが起こっているとしか思えなくなる。
ロレンスはフェリスに何が起こっているのか問いただす。フェリスは神のことは伏せて、どこからでもクロのところに移動でき、また元の場所にも戻れることを説明した。
ロレンスと一緒に使ってみる。ここでわかったことは、俺が念じない限りホールは他人には見えないようだ。
つまり俺がロレンスも一緒にホールを通そうと念じればロレンスはホールが見えるし通れるが、そうしないとロレンスにはホールが見えないし通れないそうだ。
俺がロレンスのことを念じずにホールを使うと、俺が少しずつ消えて行って、逆にクロの前では少しずつ現れるように見えるという。
またロレンスが持っているものはいっしょに運ばれるようなので、重いものなどは一緒に移動する他人に運んでもらう必要もありそうだ。この辺もいざ使うときにはよく知っておかなければならない。
司祭は感動した様子で、フェリスに話す。
「これは神が与えたもうた特別な能力です。まさに神のギフトといえるでしょう。神は汝を愛し、そのギフトを下されました」
いやいや、そんな御大層なものじゃないから。債務者が債務を忘れていたところ、取り立て(levy)てやっと取り返したものだから。
そんな風に思っていると、司祭はさらに続ける。
「天におわします全能の神の御心にかなうようそのギフトを使わねばなりません」
そいつは全能でもないし、天じゃなくてそこに寝そべって猫なでているから。
「ただ、ギフトは人前では使ってはいけません」
おや? 今までと違い、何か大事なことを言おうとしているのかもしれない。
「ギフトの持ち主には悪い輩が近づいてきて、そのギフトを利用しようとします。あなたは強くない。いや強かったとしてもだまされたり陥れられればやはり危険です。ギフトがよからぬものに知られた結果、略取され幽閉されて強制的に働かされたものもいます。そのギフトは本当に信頼できる人の前だけで使い、他の人の前ではけっして使わないようにしなさい」
お、もっともなことを言っている。とまあ、実際の年齢は俺より年下なんだから、上から目線にもなるが、正しい忠告はありがたく受け取っておくことにする。
確かに人前で使うのは気を付けた方がよさそうだ。