師範との話し合い
商会の活動の中で護衛が必要になり、護衛の訓練を見に道場に行くも、脳筋の師範代のする訓練はまるでダメだった。
そこで師範代に意見すると、対立してしまい、けっきょく試合することになる。ギルドに紹介されたマリーク氏に習い、護衛についていろいろ学ぶことがあった。
その成果をぶつけて師範代に挑むが、師範代はやはりまったく護衛らしいことはまったくできず、あっさりこちらの勝ちとなる。
師範代は負けを認めようとせず、師範の前でもう一度試合をして負けると、師範に諭されてうなだれていた。俺たちは師範と話することになる。
師範「君たち、悪かったね。道場の師範として謝罪する」
シンディ「いえ、師範が悪いわけじゃ……」
アレックス「そうですよ、師範代が悪いので……」
彼らはそう言う。それはそれで間違ってない。ただ師範は道場の統括者として謝罪している。つまり師範代に仕事を任せたことが誤りだったのだ。
それはやはり間違いだったと思う。俺が何も言わないでいると、シンディが口をはさむ。
シンディ「あんたも何か言いなさいよ」
アレックス「そうだぞ」
そう言われて答える。
フェリス「あ、はい。謝罪を受け入れます」
そう言うと、2人は何か変なものでも見るような顔でこちらを見た。
シンディ「何言っているの?」
アレックス「そうだ。師範は何も悪くないじゃないか?」
いや、そうは思わない。あの師範代に仕事を任せたのは師範だ。別の人間を当てててもよかったし、師範代の仕事がまずそうならその時点で指摘してもよかったのだ。
それを放置したのは目の前にいる師範だ。それで俺が何も言わないと、ますます2人は慌てだす。だがこちらにとってはどこ吹く風だ。
それでも二人がおろおろしているので、仕方なく発言する。
フェリス「もう少し早く師範代に注意することはなかったのですか?」
そう言うと、師範は少し遠くを見るようにしてから、またこちらを見て話す。
師範「まあ、そうじゃな。そうした方がよかったかもしれん」
シンディたちはおろおろしているが、構わず話す。こういうところは人生経験というか、要するにおろおろしてそれでも大したことにならない場面を今まで繰り返して慣れたと言うことだ。
フェリス「それでもそうしなかった」
師範「なかなか痛いところを突くの。ただな……、仕事を任せるときは全部任せないといかん。もちろん取り返しのつかないような失敗をしそうだったらやめさせる。だが小さい失敗や危険にいちいち口をはさんでいたら人は育たんよ」
それはその通りだ。ただそれでこちらは嫌な目にあっている。だから謝罪を受けるのは当然と言えば当然だ。俺たちのやり取りを見てシンディとアレックスはきょとんとしている。
フェリス「なるほど。それでこの後はどうされますか?」
師範「そうじゃな。護衛の訓練はワシの方でやろう」
ふだん高弟の相手ばかりしている師範が出てくるらしい。
フェリス「師範代のやり方でまずいと言うことはお気づきでしたか?」
師範「まあ、確かにいろいろまずかったが、魔物や動物相手の護衛ならあれでもなんとかならんわけでもない」
確かにそのあたりだと俺たちがしたような作戦を立てるような襲い方はしない。だからそれで対応できる場面も多そうだ。それでも護衛対象をもう少し守った方がいいとは思うが。
フェリス「何で師範代はあんなやり方をしたのでしょう? ろくに護衛のことは知らなかったのでは?」
師範「護衛と言ってもいろいろあってな。さっき言ったように魔物や動物相手ならあれでもなんとかなる。あれも以前は護衛をしていたはずだ。ただ系統だって学んではいないのかもしれないな」
なるほど、師匠の方はわかっていたわけか。
ところで商会で護衛が必要となるとやはり系統だって学ばないといけない。それをせずに変な訓練をしても仕方ない。偏った経験で何か言われても困る。
正直に言うと、師範の方もどこまで護衛のことがわかっているのか不安がある。だがさすがにずけずけ言うフェリス君でもそこまでは言いにくい。
その辺は今後の相談しだいとなる。場合によってはギルドのマリーク氏に訓練をつけてもらった方がいいかもしれない。
フェリス「もう少しいろいろ物事を見てくれていたらよかったですね」
師範「確かにその通りじゃな。だがのう、お前さんはもう少し剣術の腕を磨いてもいいんじゃないか。少しくらい抵抗できた方が守る方もやりやすい」
ちょっと藪蛇だった。
シンディ「それで、師範代はどうなるんですか?」
師範「まあ、あれも見苦しいまねはしたが、君らにケガをさせたりひどい目に合わせたわけでもない。少し反省させて、またいずれ戻ってくるだろうな」
アレックス「反省というのはどんなものです?」
師範「少し考えさせて、場合によっては本部にしばらく行くかもしれないの」
なんでも商都に流派の大きな道場があり、ここはその支部だそうだ。本部だともっと上の師範がいて末端の道場の指導者に対する教練をしているとのことだった。
まあそれならそれでいい。何でもかんでも切って捨てていたら、みな委縮してしまうし、後に続く者もいなくなってしまう。
フェリス「護衛の訓練についてはまたいろいろ相談させてください」
師範「うむ、わかった。しかしなんじゃな、お前さんはちっとも10代には見えないの」
師範の方は少し笑って答える。また見抜かれたようだ。いろいろ反応が若くないのだろう。いまだって相談すると言うのはそちらに頼むとは言っていないし、断るとも言っていない。
宙ぶらりんでどちらにでも出られる答えだ。とりあえず試合の方はそんな形で決着がついた。




