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師範代と決着がつく

 護衛について道場の師範代と言い争いになって試合をした。さんざん護衛の専門家に習って訓練してきたのに、その成果も生かせないままこちらの圧勝だった。


師範代は護衛について知っているようなことを言っていたが、実は全く知らなかったのだ。ところが彼は負けを認めようとしない。言い争いをしているうちに師範がやってきた。


師範「どうしたんじゃ」

師範代「あ、師範。実はですね、前にお話しした試合でこ奴らが勝ってもいないのに勝ったと言い張っているのです」

師範「そうなのか?」

フェリス「いえ、そんなことはありません。完全にこちらの勝ちです。負けを認めないのは師範代の方です」

師範「ふうむ」


師範は弟子たちに尋ねているが、弟子たちはお互いの様子をうかがって何も言いださない。


師範「要領を得ないな。仕方ない。もう一度試合をしてみたらどうだ?」

そう言われると師範代は得意になる。そりゃ自分が負けた方ならもう一回チャンスがあるのはうれしいだろう。

師範代「はい、わかりました」


こちらは不満で返事をしないでいるとまた師範が声をかけてくる。

師範「まあ面白くないだろうが、もし実力で勝ったなら何度でも勝てるだろう」

そう言われて受け入れざるを得なかった。確かに偶然で勝ったのなら本当に勝ったとは言いにくい。2回も勝てば、向こうも思い知るだろう。



 そこでもう一度試合をする。ところが今回もたいして結果は変わらなかった。師範代は今回少しくらいは後ろの方にも注意をしていたが、そんな付け焼刃でどうにかなるものでもないらしい。


だいたいギルドの商会で俺たちに訓練してくれたマリークは護衛対象の周りに板を張ったり高いところに立ったりしてはじめから優位を作ったのだ。


今回は師範代はこちらに気を使いすぎて、逆に背中から斬られてしまう。


師範「うむ、勝負ありじゃな」

フェリス「じゃあ我々の勝ちですね」


そういうと師範代はかなり悔しそうに顔をゆがめている。

師範代「だいたい汚いぞ。3人がかりで」

フェリス「あのー。なんていうか、賊が1人で襲ってくるなんてことがあるでしょうか?」


師範代「1対1で正々堂々と……」

フェリス「だから賊は1人で襲ってはこないんです。10歳の頃にクラープ町で恐喝されたときも2人がかかりでしたし、この前ゼーランの子爵の配下に襲われたときも3人がかりだったようです」


師範代「貴族の配下だと。またいい加減なことを言いおって」

フェリス「いえ、それはほぼ間違いないことです。伯爵閣下も騎士団長殿もご了解されています」


師範代「伯爵様だぁ? なんでそんなことがお前にわかるんだ?」

フェリス「はい、伯爵閣下にはもう何度もお会いしています。襲われて逃げ帰った後もお会いしました。いまは持ってきていませんが、書付もいただいております」


師範代「またいい加減なことを……」


また膠着状態になりそうだったが、師範が割って入る。

師範「あのなあ、彼は確かに商会の主人だ。しかも最近評判の高いシルヴェスタ商会の主人で、ご領主様とお知り合いというのも確かなようだ。」


師範くらいになると領主とも言葉を交わすくらいはあるのかもしれないが、師範代程度では遠くから見る程度だろう。ところが師範に諭されても憎まれ口は止まらない。


師範代「なんだボンボンか」

フェリス「いえ、私が主人です。しかも皆の助けもありますが、私が創業しました」


師範代「いいよな、いいとこの坊っちゃんは。みんなが助けてくれて」


フェリス「いいえ、私は孤児です。親代わりの子爵領セレル村のロレンス神父はしっかりした教育はつけてくれましたが大金などくれていません。商会が大きくなったのはみなの助けがあったからですが、もともとは子どもの小遣いから始めてシンディと2人で荷車引いて商会の基礎を作りました」


いちいち反論したからか師範代は悔しそうな顔をしている。


師範「あのな、師範代タービィ。フェリス君が商人だと聞いて調べたか?」

師範代「なんでそんなことを調べる必要がありましょう」


師範「いいか戦うにはまず敵を知ることからじゃ。敵のことを調べるのは戦いの基本じゃぞ」

師範代「しかしこんな者相手にいちいちそんな手間をかけても……」


師範「そうやって敵を侮るから油断が出る。だからお前さんはそんな者に負けたんじゃ。お前さんの方が強いのは間違いない。だが弱い者でもなんとか勝とうと工夫する。あるいはどうしても守らなければならないもののために牙をむく。強いからと言っていつでも勝てるわけではない」

師範代「そっ、それでは我々は何で稽古をしているのですか?」


師範「さあな。それはお前さんが考えろ。だがなそもそもしないで済むなら闘いなどしない方がよい」


師範代の方はうなだれている。

師範「今日はもう帰れ。明日ゆっくり話そう」


師範代が肩を落としてその場を去っていく。師範は高弟にいくつか指示をしてから、俺たちに向かって言う。


師範「師範代が君たちにはすまないことをしたな。師範として謝罪する」


それから師範の招きで3人で彼の部屋に向かう。


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